伯ギルキス
青紫の髪の少女ユニアムと象牙色の髪のゴ・・・ハイエルフの少女リリが訪ったのは、街の衛士とは違った門衛が立つ屋敷だった。
白い鎧に儀仗ではない、短く鋭い手槍を立てている。
「私は魔術師・・・ヒーラーのユニアム。こちらのハイエルフはリリ。招かれて来たわ」
名乗り、返答を待つように門衛を向くユニアム。
リリは愛想を軽い笑みにとどめ、門の向こうへと視線を投げている。
門衛の二人はしばしユニアムとリリの顔、姿形に目を留め視線を交わし合うと、ユニアムの前に立つ男が口を開いた。
「よくおいでくださいました。当家よりの招聘ゆえ丁重にお通しせよと言いつかっております。どうぞお通りください」
「リリ、入るわよ」
「ん」
二人の前に現れたご案内いたします、という男に連れられ白く大きな屋敷へと入ってゆく。
暗く涼しい石造りの廊下をしばらく歩き、明るく小綺麗な部屋へ通された。
「どうぞ楽にしてお待ちください」
「ん。ありがとう」
返礼するリリを、ユニアムがいぶかし気に見つめる。
「使用人にお礼はいらないよ」
「そうなの?」
「好意で案内したわけじゃないでしょ」
「んー、なるほど・・・でも」
リリは困ったな、という顔で眉を下げながら言う。
「前世の反動みたいなもんだから・・・またやっちゃうかも。だめ?」
「駄目というか、嫌だな~」
「なんで?」
「だってこのあとお礼しなかったあたしだけ茶が出されないとかありそうじゃん」
「ああ・・・いやいやユニアムが主賓でしょ!無いってwww」
笑うリリと、フカフカのソファに座ってそれを見上げるユニアム。
立ったまま手持ち無沙汰げに室内を見回してるリリに問いかける。
「・・・座らないの?」
「うん」
「なんでよ・・・」
「え、だって都督て偉い人なんでしょ?」
「そうだけど・・・あたしら客だし、ここ客間じゃん」
「ユニアムはね。あたしは衛士さんからお願いされて来てるだけだから」
「いやいや、だってここどー見ても応接用の客間でしょ?それに今の都督ってたしか伯の爵持ちだしこんなトコであたしらと対面するなんて無いって!」
「えー・・・落ち着かないし、あたしはいいよ~」
「さっきの使用人、斬られるかもしんないよ?『・・・我が主の客を立ったまま待たせたのか!』つって」
「ああw『ワシにハジをかかせおって(ズビャアア!』みたいなwwwわかるわぁ・・・」
ユニアムはあきれたようにため息を付きながら問いかける。
「座んないのね・・・なに、ソレも前世の習いなの?」
「あ!・・・言われてみたらそうかも」
リリは人差し指でアゴをささえ、空いた手で片肘をつつむ。
「ビジネスマナーかな?友人宅でダベってる時はダンナ入ってきても一々立ったりしなかったな」
ユニアムはリリの所作を真似ながら口を開く。
「ビジネス・・・ああ、たしかに椅子にトラップを警戒するのはわかるけど」
「ちがうちがう!客先でも招かれた立場でも、あからさまに自分に用意されたように見えても椅子は相手のモノなんだからホストなりに勧めされるまで座るなとか・・・あれ?面接指導だったかな?いや、北米の聞いたことない都市で英語で説教された記憶も・・・・」
たしか”座れ”の口語が全然理解できなくて・・・などと回想の海へ潜行してゆくリリを見ながらユニアムは呆れた様に二度目のため息をつくのであった。
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