男子系魔法
「気づいたか、よっ・・・と」
滑っとした石畳に降ろされる。
「はー、あんたがやってくれたのコレ」
「ボーナが、な」
「ロイドは幼女趣味があるから、あぶなくって」
下水の臭いの中でもその美しさはいっさいの陰りも知らず、ボーナは長く大きな杖を抱いていた。
「ほら、進むぞ」
尻を軽くはたかれると同時に、前後数メートル先にある安定した白い光源も一緒に進み始める。
「はー、ルチェ・・・ケェイコォウトォオウじゃなかったのね」
語彙にないのよね~、蛍光灯。
こーゆーコッチの言語でなんて言うのか知らんコトバや観念、定理や常識が日本語でひっかかって一瞬思考が停止すんのなんとかならんのか・・・
また尻を叩かれる。
「なに?」
「いや、ひゃんっ!とかきゃん♪とか言って欲しいぜ」
「一回三リラで百回五百リラ。二百リラお得にしとくわ」
「ハァ?二百増やしてお得はねえだろ」
おっと。
「あんた計算できるんだ、珍しい」
「計算っつー・・・ああ、まぁコッチじゃそうか」
なーにがコッチじゃ、よ。
ロリコンが無駄にミステリアス気取るなっつーの。
「ロイド、出てくれ。戦闘準備!」
バタリア~ン!とか叫ぶからナニが起こったのかとびびったww
初デートの映画タイトルを連想する。
男も女もモサッとしたアタマでスカジャンとジーンズ、フリフリロリータ、コンバースにエナメルのビルケン、とにかくなんでも肩パッド・・・
「マイキーがッ!」
思い出に耽る間になにやら前線は煮詰まってるらすぃ。
キュアキュア叫んでるボナの横に立ってお祭り騒ぎを覗き込む。
腕を沢山もつ巨大な物体が舐めプ奴を持ち上げ、二本の腕で引きちぎろうとしている。
嘘つきとロリコンは助けに入るどころか残りの腕の殴る刺す斬る攻撃を防ぐのが手一杯という有様。
バチン、という悲し気な音を立てマイキーの胴は生き別れ、左右のソレは嘘つきとロリに投げつけられる。
臭ェ・・・
血とうんことゲロの匂いがモワーンと広がり、その臭気の素の投擲を避けきれずまともに受けたロリコンがもんどりうってこちらに転がってきた。
「ちきしょう、やられた!おい、嬢ちゃん頼むわ」
「・・・は?何を??」
「ナニって、魔法、攻撃魔法だよッ!」
「知らないケド・・・」
「は?魔導士ならフォコとかフィアマ、パラデスピオ、デトネショーネとかあんだろ」
マゴや子供が似たような呪文言ってたな・・・ゲームとかアニメの記号や符丁みたいなもんかしら。
「専門用語並べられても困っちゃうのよね~。具体的にどんな魔法なのよ」
「専門・・・てオマエ魔導士だろ?!専門だろーがよッ!敵を燃やすとか火が飛んでってバーン!て爆発するやつだよ!」
敵www
「プッ・・・ああ、あぁわかった。男子系魔法ねw」
男の世界観では、魔法はコブシの延長的な暴力装置でしかないらしく、魔法といえば前の帝学での仕儀におけるメテオストライク(禿藁)だとか、そういう即物的かつ破壊的な夢の無い技法へと堕してしまうらしい。
「男子系?・・・炎系じゃなくて?」
キュアキュア言ってた白人系美少女白魔導士のボーナから物言いが入る。
「う~ん、すっかり男子の系に毒されてるわね・・・いい?男を解ろうとしたってムリかつ無駄の極みよ。肉やパンは食うもので理解るもんじゃないでしょ?」
「えー?でも今は尽くすのが一番楽しい時なんだよね~なにより顔が良すぎるし」
「はぁ~大概な美少女のあんたが言うほどか。まぁ顔イイなら仕方ない。骨は拾ってあげる」
「イヤよ骨まで貢ぐんだから」
「なんて一途・・・ボナちゃん今すぐ男に生まれ変わってあたしを愛して!」
「んー・・・携帯便所程度には愛す、と約束はできるカモ」
「ひどいッ!・・・でも、ボナちゃんが言うならあたしはソレでも・・・ぃぃょ」
「いじらしいッ!今すぐ縛り上げて三角木馬でシバキ倒したいっ!」
「おまわりさん変態です!白人変態美少女がここにいまーす!事案発生!事案発生!!」
『だれがオマワリじゃボケェ!そんなんコッチおるかボケナスッ!』
『あっ・・・』
突然のハキハキした謎言語。しかもダイアフラム怒号(所謂肚声ヒステリー)全開ボケとナスのコラボレーション揶揄(なのか?)。
「ロリ・・・じゃなくてロイドだっけ?あんた・・・ひょっとして大阪人だったの?」
「は?東京生まれの東京育ちですやんワシ。妙な言いがかりはよしてくれやす」
「コッチの言語で近畿テイスト出すとか何気に逸材だったのね貴方。ちな東京のどこ?」
「・・・・・横浜?」
東京の横浜人(自己申告)の姿がゴッツい毛の生えたデカい手に握りとられ、前方の闇へと一瞬で消えた。
「ボナちゃぁああん、困るなァホント!」
全英じゃなくていつの間にか全滅した前衛に対しての責任を強力に要請する。
白魔導士てアレでしょ?男性を揉んだり咥えたりして癒すんだよね。あたしだって孫の薄い本界隈なんかでチョットはね、知ってんのよ。ハイ有罪率ひゃくぱーせんと!
つか、ボーナいないわ。食われたの?
焦って周囲を見回すと、後方の曲がり角に白い影がサッと消えるのが見えた。
まあ、逃げたならいいか~?
前の闇から光源の昭光内に、黄色い腕だらけお化けが這い出してきた。
「来ちゃイヤバリヤー!」
ちょっとカオが暑い。
見えない壁に遮られ、腕奴の足が石畳を掻きむしる音が気持ち悪い。
黄色い腕奴めっさデカい。ところどころ緑色なのは前衛男達の血が混じってんのかな?
黄色と赤て混ぜるとオレンジなのに、物によっちゃ緑色になったりすんのよね~・・・脳と血とか。
「まあソレは兎も角・・・火を出せばいーんだっけか」
こんな狭いトコで火をねぇ・・・とりあえず触手との間の空気を割って、真空の壁で断熱をイメージする。
「えーと・・・
魔法、てのは不思議だ。
使おうとすると意識が向かう先の全てが感じ取れるし、思うがままに操作できる。
ボカーンしてほしいと希えば、合わせた焦点が急速に発熱、爆発的膨張、爆縮とその圧縮による二次爆発を起こし熱と衝撃波の往復ビンタが対象にカまされる。
沢山腕奴を飲み込んだ爆炎は荒れ狂いながら一瞬にして通路の向こうへと遠ざかって行ってしまった。
・・・ああ、酸素を追いかけてんのか。コエー
つか、真空のカベで仕切ってんのになんか暑いんだけど。
周囲を見渡すと、壁を組んでいる石のエッジが赤く光ってる。
真空バリアの向こうの腕奴も真っ黒に焼けた状態から徐々に白くなってきて、チロチロと熾火のように発光してるところもある。
え、いや、一秒くらいしかボカーンしてないんですけど?
あ、なんかこういう場合、言わなきゃいけない約束事があったんだっけ。
「アレアレ~~?あたし、なんかやっちゃいました?」
ちょっと涼しくなった気がする。
あまりに滑って、電子の回転までもとめてしまったのか。
ホーリーたかしのシグヌス山田の絶対零度ワザとか使えそうな気分だけど、なんとしてもやめておきたい。
「ともあれ、コッチはもう進めないわね」
この真空のカベを解除したらビールみたいな名前の不思議効果が発動して爆炎が発生すんでしょ?それやりすごしても、酸素が全部消えて窒息死するとか・・・誰だよこんな狭いとこで火ィ使えとか言ったやつ。
「・・・あ、帰ればいーのかw」
とりあえず入口に跳んでボナちゃんを待ち、なぜか煤だらけで現れた彼女と酒場へ戻り、死んだ勇者達の魂を送ろうと浴びるほど酒を飲んで寝た。
以上で伝説的魔道士伝説は終わろうと思う。
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