和解は決裂の備え

「えー!ミハイルきゅんたち死んじゃったの?!」


吃驚の様でユニアム、青紫の髪の少女が叫ぶ。


「イエローキューブが出たのよ。あたしがヒーラーに回って無くてもムリだったわ」


水のようにまっすぐ流れる金糸の髪を指で巻き上げながら応える白い美少女、ボーナ。

視線はユニアムの巻き髪を恨めし気に・・・羨望の色で見つめている。


「そんな深くまで潜ったの?アレって八階層より降りないと出ないわよね」


「だって、ユニアム突き落としちゃったし・・・拾えないなら、もう死んでもいいかな、って」


となりや向かい、その他の檻の男たちが首をすくめる。


「ふーん・・・そんで男だけ殺して帰ってきたんだあ。なんで生きてんのよあんた」


「生きてちゃ・・・まずかった?」


ボーナは潤ませた目を伏せる。


「まー死んでた方がすっきりしたけど、そーじゃなくてなんでヤツから逃げ延びれたのかってコト」


「ちっ・・・連れてった助っ人が強力だったのよ。あたしは逃げ出したから分かんないけど、ヤツを背に角を曲がった途端に後ろから閃光がやってきて」


「閃光・・・第八爆轟でも使ったの?」


「本人はヴォカ・アンボカーン:60歳以上の主に男性が使用する爆発を表すアノマロピア・・・とか言ってたわ。デンシィがどうとか言ってたけど、たぶん別の国の魔道ね」


「ふうん・・・なによ、そいつも生き延びたんじゃない。なんでみんなを・・・」


「たぶんだけど、あのイエローキューブを倒せたとしても・・・これも本人が言ってたんだけど、狭い閉所で炎を使えば起こることが起こっただけと言ってたから・・・あの子以外全員燃えて死んだんじゃないかな」


「ああ・・・それって魔導なの?なんなのよそいつ。もう居ないのよね?」


「学園に行くとか言ってたわ。あたしよりちっちゃい、ほんと女の子て感じの子供だった。なんでも帝国の入学試験で・・・」


二人の会話は金属が立てる高い音に中断された。


「釈放だ!出ろ、二人共だ!」


「あ〜〜い」


不貞腐れたような顔で檻を開けた衛士を睨んで出てゆく青紫の髪のユニアム。


「おやくめご苦労さまです」


たおやかに笑みゆるく膝を折って出てゆくボーナ、金の髪に碧い目の少女。


衛士はボーナに顔を寄せ、呟く。


「ボナちゃん、今夜空いてない?」


饐えたような口臭がボナの顔に掛かるが、毛筋ほども不快を表情することなくボーナは答える。


「空けとく。マスターの店で待ってるわ」


「ほんと?あと半時で上がりだからオレ」


「あ、じゃあ外で待つね」


ボーナは顔の横で手をにぎにぎと動かすと既に階段の上へと消えたユニアムを追って行った。


鼻の下を伸ばし手を振ってボーナを見送る衛士に牢から冷やかしが飛ぶ。


「いいなぁ、あやかりてぇぜ衛士さんよ」


「ん?あんだよ、ボナちゃんは誰とだって寝てくれんぞ」


別の牢から吃驚の声が上がる。


「マジかよ?!」


「ウソだろ?!あんなすんげえ美女が俺らに脚開くわきゃねーだろ」


装甲された掌を打ち鳴らしながら衛士が叫ぶ。


「だまらっしゃい!真面目に働いてりゃ安いメシ奢るだけであの娘は男の好意を受けてくれんだよ」


なんだ、またキレイごとかよ、との声とともに喧騒は冷えていった。


「口で言やあ陳腐だけどよ。・・・ヤりたきゃ声でも掛けてみるんだな」


とくに・・・まぁいるわきゃないが童貞は潜る前に面倒見てもらえよ、死にきれねえぞ、と言い残し衛士は出て行った。


しばらく舌打ちや痰を吐く音が冷たい石の壁に響いていたが、それもいつのまにか鎮まりナニかをしきりに擦る音がむなしく牢を満たして行った。


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