ボーナ
「ユニアムを放して!」
白昼における闇の軍団の足を止めたのは、唯一人純白の美少女だった。
「うわ、すんごい美少女」
象牙色の髪の輝きを水のようにゆらし、リリが言った。
青紫の髪のユニアムがビール缶をおろし、リリが向く方に目を眇める。
「えっ、この街にあたし以上の美少女なんて・・・ボーナ!!!」
「正気なのね?!今助けてあげる!唯一至高にある光の神よ、その御業をもち汚れた闇の・・・」
「こんのクサレアマがぁああああ!!!!!!!」
ボーナの高く歌い上げるような朗々とした詠唱が飛龍の断末魔ごとく世界が裂けるような絶叫により切り裂かれる。
黒馬から飛び降りたユニアムは乾いた土を蹴り飛ばしながらボーナへ迫るとそのまま地面へ押し倒し、殴り始めた。
「きゃ、やめっ、やめて!やはり魔神に精神を」
「ナニが魔神じゃこのドブ色プッシー腐れマン汁製造機がぁああああ!万回殺す!」
「・・・はああああ?!死んだサカナの内臓詰まったバケツ臭ブチ撒けながらきゃんきゃん言ってる勘違いドブス風勢がよう言うたわ!」
二人の女の仁義なき戦いを離れ眺める闇の眷属とゴッ・・・ハイエルフのリリ達。
「主よ、人界とは汚いものでありますな」
「まぁ、あたしらは汚濁そのものって生きもんだしね・・・美しい奴らはみんな”君を食べなくてよかったよ”て心のなかで呟いて一人さみしく死んでゆくのよ」
ミギー、とリリは呟いて瞑目する。
主が悼む者を偲び、闇の眷属たちはリリの影へと消えていった。
ほぼ同時に金属鎧の音高く、街の衛士達が到着する。
「んん?」
リリの疑問の声に、衛士の一人、白い羽根飾りの大柄な男が目前に立ち敬礼し口を開く。
「町人より怪異・・・魔人出現との通報を受け罷り越しました。現場はこちらで間違いありませんでしょうか」
むくつけき大男の慇懃さに当てられてか、リリも所作を整え答える。
「あっ、はい。その、たぶんあたしが当事者だと思います!黒いデビルな下僕たちを六人連れてましたので」
「下僕とは、先程御元のカゲへと消えて行った者達でありますか」
「あっ、その、そうです!」
大男は追及を終えたところで敬礼を下ろすと、そのままの口調で請願した。
「我々は街の治安を預かる者です。高貴な方におかれましては、いたずらに民を騒がせぬようお願い申し上げます」
「あっ、申し訳ありませんでした!」
リリは両手を前に揃え深々とお辞儀した。
リリと絶賛引っ掻き合い中のボーナユニアムを囲む衛士をさらに取り巻く民衆から感嘆が漏れ、夫々が興奮したように騒ぎ立ち市場に賑々しさが戻ってゆく。
「おまちください、我々はそのような礼を受ける身分では・・・」
「あっ、あたしもフラッと街に遊びに来た森の・・・オランウータンみたいなもんなんで!その、捕縛とか連行とか大歓迎なんですが!」
衛士の部隊長であろうか、大男がはじめて狼狽えるように所作を崩した。
「で、では。・・・あの二人の乱闘の次第をお聞き致したく、参考人として協力を要請いたしますが」
「あっ、はい!謹んでお受けいたします!」
「ありがとうございます、それではご案内します」
顔を赤らめながら縄は?鎖とか首輪でもいいのよ?と迫るリリを曖昧な笑顔で慇懃に躱しつつ、疲れたのか罵倒合戦に入ったユニアムとボーナを拘束し隊は衛舎へと向かうのか、引き上げていった。
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