ゴッ・・・ハイエルフとデビルな眷属たち

その日のパドヴァは異様な喧噪に包まれていた。



冒険者風の身なり・・・抜き身の剣と盾を背負い、使い込まれたむき出しの革の装具を纏い屋台を物色してた男がふと顔をあげビクリと体を慄かせると、震える手で大通りを指した。


「・・・あれ、魔人じゃねえのか」


濡れたひとみで男へしなだれかかっていた同じような装いの女が、けだるげに男の指す方を見る。


「魔人?おいおい、シャレになんないって。いくつもの国が連合を組んでようやく一匹倒せるってヤツだろ・・・ひ」


黒く禍々しい角を天に掲げ悠々と大通りを練り歩く五人の黒い魔の化身達に女は思わず息を飲み込む。


男がごくりと喉ぼとけを動かし、言った。


「雰囲気あるだろ、なぁ・・・やべえんじゃねえか」


五人の闇の使徒・・・魔神達が地上へ・・・パドヴァ城塞都市の市場を練り歩いている。


「お、おいありゃあ・・・すげえ美女だ」


最後尾、黒い巻き毛の巨馬に乗った三人の少女たちを目にした男が思わず漏らす。


それぞれ金糸と漆黒の髪の少女に挟まれた薄紫の髪の少女。



「え・・・やっぱりあんた、ああいう・・・おキレイなのがいいんだね」


「ん?そりゃあ・・・いや、おまえは別だって」


「いや、離して!」


黒い魔人たちは最早頭にもなく、二人は人目をはばかる様に暗い横道へと姿を消したのであった。




「やヴぁい・・・」


乳の色の肌、象牙色の髪の少女が漏らす。

その言を拾ってか、青紫の髪の少女が口を開く。


「なーに?御不浄??」


ゴフジョーべんじょてwww・・・いあ、なんか人世に戻ってみればコスプレチンドン屋みたいに列をなして歩いてるあたしらてめっさ間抜けじゃない?」


青紫の少女は辺りに視線を走らせると、ため息とともに答えた。


「・・・注目は集めてるけど、そりゃ仕方ないよ」


黒髪の少女が、赤い目を獰猛に光らせ象牙の髪の少女へ言上する。


「主よ、ご不快は全てこの私めにお任せを。瞬く間に掃き散らしてご覧にいれましょうぞ」


「まってまって!!」


「はっ」


象牙色の少女が慌てふためき黒髪を静止する。


「あなた達に言っとくけど、あたしの楽しみは人世にしかないのよ。酒と男と肉ね」


「うぇえ・・・・・即物的すぎない?」


青紫の髪の少女が疑義に入る。


「他にナニがあんのよ」


「友、歌、恋に神の教え・・・絵に音曲、未知への冒険他いろいろ、世の中て素敵なことばかりじゃない」


象牙色の神の少女が空を見上げ、しばし視線を遠くへと投げつぶやいた。


「そうね・・・若い頃はなにもかもが新しく輝いていて」


「あー、エルフて長寿なのよね。いくつなの?」


「んー・・・前世48で今世は零歳児かな」


「へー、リリて前世の記憶あるんだ」


「あるどころか、今も実は夢や妄想の中を漂ってるだけなんじゃないの?て気がする」


そう答える少女は象牙の髪を漉いた手を宙空へと優美に伸ばし、輝く銀の筒を出現させ黒髪の少女へ渡す。


「ユニアムも飲む?ビール」


そう言いながら自らの手にもう一本出現させた象牙の髪の少女は筒の天辺にあるタブを立てる。


すると天辺の外周寄りに穴が空き、少女は淡桃のくちびるを寄せ一息に呷り始めた。


ごきゅごきゅごきゅ、と喉を鳴らし銀の筒を呷る少女に市井の者たちは目をしかめ、あるいは虫の体液か?などと不気味がり、むせかえるのであった。


見様見真似で黒髪の少女が筒を操作し、空いた穴に口をつけ数度むせたり咳き込んだりしながらも突如一気に呷り出した。


「おおー!さすが龍!・・・竜か?とにかくうわばみの系譜!じゃんじゃんいこうぜ!」


象牙の髪の少女はもう二本出し、それぞれをユニアムと呼ぶ少女と竜と名指した黒髪の少女へ渡し、自らも新たに出現させた一本をナニかが吹き出すような軽快な音を立てさせ口に含んだ。


「これは・・・魔虫のたまご?」


「またそれか・・・お酒よお酒!そんな卵があんの?」


ユニアムの問にリリが問い返す。


「うーん、みたことないけど・・・お酒は大好きだし、飲るわ」


意を決っすように両手で持つ銀の筒を睨むユニアム。


「・・・冷たいけど、ヒトが飲んでもダイジョブなの?」


「ぶっ・・・ヒトが自分等用に作ってんだからダイジョブだって!」


その美しさに似つかわしくない所作でリリは口端から泡を吹きながらまくしたてると、再び一心に筒を呷る儀式へと勤しんだ。


両脇に侍る白黒の少女が呷る姿に目をゆらしつつ、ユニアムも天辺のタブを引き、吹き上がる音に怯みつつも一気に呷る。





「!!!!!!!!・・・・・ブッハアアアアアアア!!!!!すげえなコレ!」



突如大音声の胴間声で感嘆を叫んだユニアムに、白黒少女達は目を点にしたのであった。

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