とあるギルマスの超電磁砲

とんでもないブツが持ち込まれた。


火の古龍、おそらく原種。

世界の誕生と共に生まれたと語り継がれる五竜の内の一竜。

古老達の森に埋もれ消えたという伝説を最後に、その存在は忘れ去られていた。


その鱗一枚でも持ち込まれたら、もうこの都市の規模ではもてあます。

フリウリ公・・・消えた帝国の係累だ・・・に押し付けたいが、トリエステル学園都市にはここの都督・・・たしか、伯の爵をもっている筈・・・の子や孫も通っている。


「無理か・・・」


とてもこのギルドじゃ捌けない、外に知られたらこのパドヴァが滅ぼされてしまう。


こんなものさっさと帝国に報告して派遣されたであろう星魔道士に渡してそれなりの見返りを得て八方ヨシに収めたいところだが、その恐怖の帝国はもはや無い。


一月前、皇都に太陽が落ちてきて灰燼・・・というのも生温い、吹き上がり膨らんでゆく光り輝く溶けた岩石蒸気となりこの大陸の西半分を死の世界に変えてしまった。


神都アルビヲンでは光の使徒の降臨と国を挙げ騒ぎ立ち、能天気にも聖戦を勅し西進に出征たという。

おそらくは滅びた皇都エルグランテを目指したのだろうが、誰も生きて戻るまい。

真実、草一本生えていないのだから・・・


「はぁ・・・」


そういえば巨大な閃光に包まれたという南の城塞都市、スキオもまたその情報が判然としない。

消滅の一報はあったのだが、巨大なすり鉢状の穴になっているらしく、星でも落ちたのか、生き残った帝国の魔術師の仕業では、などと憶測が飛び交っている。


一体、この大陸はどうなっちまうんだ・・・




重厚なノックの音が、俺の遠のきかけた意識を引き戻した。


ハンマーやメイスで叩かれたように重い音だ。


この部屋のブ厚く重いドアにこんな音を立てるとは、さては鑑定屋に言づけていた古龍狩りの益荒男が御登場か。


「入れ」


予想に反し、現れたのは煌めきを纒う美しい少女だった。

色の抜けた体毛。

絹のように滑らかに長い髪の毛は、明かり採りの窓からの光線を受け、美しい脚の歩みと共に流れる水のように煌めいている。

透き通る白磁とはこれか、と凡庸な形容が圧倒的な美しさとして現像された白い肌。


美しい種族と言われるエルフ、そのなかでもハイネスと貴ばれる絶世の美を持つ者たちすら、この女の前では子供のまま成長しないたかだかの亜人に過ぎなくなるだろう。


「ふん、美女だな・・・エルフか」


何用だ、と続けながらオレにもまだ女におべんちゃらを使う下の元気があったのだな、とおかしくなる。


『下階のヒトからお呼びがかかっている、とお聞きしました・・・昨日ドラゴン?を持ち込んだものですわ』


鈴を鳴らすような細く澄んだ声に、金糸の織物の衣擦れのような掠れが乗った儚い美声に下腹部が充血し、萎え切った筈の一物が猛り上がろうとする。


思わず上体を机上にせり出し、眉間にシワを立て堪える。



「赤の古龍を・・・おまえが?」


『古龍なのかは知りませんけれど、赤い・・カワラのような・・鱗の』



クッ、ズボンが破れそうだ。



「・・・とりあえず報酬は金貨五袋を用意したが・・・足りるのか?」


『わたくし、この国は初めてなので相場を知りませんの。喫緊に通貨が必要なのでそちらの言い値で構いませんのよ?』



ふぅ、とりあえず左足の方へ逃がせた。

しかしヒザまで伸びてるぞ、マズイな・・・オークの尻でも借りるしかないか?



「後から別の相場を知って、奴を倒せる戦力をもって恫喝されても困るのだが」



ホントは持って帰って欲しいトコロだが、既に無い方が不味いだろうな。

できれば悶着を起こし、俺や職員やこの建屋に被害が出る形で去ってくれたら・・・



『あら、わたくし恫喝なんてしません・・・でも、その。・・・報酬にうしろめたさを感じているのでしたら・・・』


どんな条件を出すのか、と構えた所に、突然不器用に机に乗り上がり・・・尻を乗せると、こちら迄足をそろえながらぎこちなく這いよってきた。


息がかかるほどまでに近づくと、するりと剣帯を解き捨てる。


『美女だって・・・言ってくださいましたよね?』


くるんと頭を振り、滑らかな髪を向こう側へと纏める。

僅かな森の香と、蠱惑的な花の匂いが鼻先をかすめた。

此方へ寄せたウデの白い肩が、若草色の単衣からスルリと剥きだされる。


俺の目を捕え離さないその魔性とは裏腹に、少女の顔は怖け、濡れた赤い瞳は自信無く揺れ、肌は恥らうように桜色に染まっている。


そして朱い果実のような唇を切なげに開き求め訴えてきた。



『本音なら・・・あ、証してくださいませ』


「いいだろう」



俺はたまらずに吸い付き、組み敷き、貪った。


赤く散らした証しを目にしてからは、この雌を汚したい、という本能に猛り狂った。


拒絶を苦悶に、許しを希う哀願を悲鳴へ砕けさせながらも、流れ続ける涙を湛えた赤い瞳でこの身へ縋りついてくる健気な細い体が愛おしく何度も――――――――――



気が付けば、妖精は消えていた。

朝日が・・・いや、この部屋へ差し込んでくるのは午を過ぎた光だけだった。


「ふぅ・・・」


身に残った女の香・・・というには、あまりに涼やか、果物のように甘やかでやさしい匂いが、幻でなかったことを教えてくれる。


やはり、女は欲しい。

あのように絶世の・・・存在ではなく。


一端は断ったが、あいつの申し出を受け・・・いや、こちらから申し込もう。

断られたとて、必ず落とせる。

俺には女を喜ばせる力が、未だ十分に残っているのだから。


窓に鎧戸を落とし部屋を出る。



受付のリーゼイはまだ帰ってはいないハズだ―――――

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