世界はマシュマロ

支えようとむなしく空に伸ばされた両手。

あたしのアタマには倒れた若い大木の幹が乗っている。


まるで重さを感じない。


後方で他の木や盛り上がった地形なんかで危機一髪、絶妙にバランスしてしまったのだろうか?


後ろを向こうとすると、頭上でゾリリリ、などという不穏な音と共にシケった木屑がバラバラと落ちてくる。


めたくそのしかかってんじゃん!!!!!!!


頭の上の幹を掴み、持ち上げてみる。

発泡スチロールの棒の端を掴んだ程度の重さを感じる。


「えええええ・・・・・なんなんなんなんなななななななんあ」


なんだこの剛力は。

イケメン天使ぽいやつが言ってたちょうすごいチカラ的なアレなの?


倒れた先を持ち上げようと、もろもろメシャメシャと砕ける手がかりに苦労しながら幹を立て、切断面に合わせる。


エルフだし、魔法とか使えるだろ絶対。


「あなたにキュアキュアー!」


エタファンイレブンつーネトゲの神聖系回復魔法を唱える。


眩い光と共に、幹が繋がる。


持ち上げるときに傷だらけにしたボロボロの幹も、奇麗な木肌に戻ってる。


「よかった・・・ごめんね」


なんか木が愛しい。

幹を撫でながらおもわずチュー。


さすがエルフだなぁ~。

しかもゴッド系のパワーを持っている。


ハイネスなエルフとかのがエレガントでいいけど、そっちだったらたぶん10回くらい死んでた気がする。


ヤバすぎるだろ異世界!


この木が倒れるときに押し広げたのか、割れた空から月の光が明るく降り注いでいた。



「こりゃあとんでもねえ上玉だぜぇ・・・」


低く破鐘われがねのようにヒビ割れた野卑な声。


はっ、と振り向くと、そこには着の身着のままただひたすらに人生を歩んできました的に垢じみた、とゆーよか垢も衣類なの?て感じの強そうな浮浪者といった塩梅の男が剣を鞘へと戻しながら歩み寄っていた。


好色に歪んだ顔に、性欲に滾る両目をギラギラさせながら。


つか、何気にイケオジ系の美形だ。

キリッと太い眉、甘く垂れた目尻、矢じりのように鋭く長い鼻梁、薄く引き締まっ・・・ては今はいないが、正気ならそうであろう唇。


乱暴に剃り残されたヒゲがセクシーすぎてやばい。


まごう事なき、シワの数がそのままプラス考査値になってゆく白い種族系のイケオジである。・・・鼻の下は伸ばしてるけど。



「おとなしくしとけよ・・・可愛がってやるからよ」



割れた唇をぬらり舌舐めずりながら下卑たセリフで節くれだったゴツイ手を伸ばしてきた男を、あたしはキッ、とにらみつけた。


ヒザとワキを閉め、胸をかばうように上げた両手を組む。

そして喉許から鼻の奥を僅かに鳴らしながら声を上げた。


「下がりなさい下郎!あた・・・このわたくしを手にかけようなど、身の程を弁えぬ蛮行。ゆるしません!」


伸ばされた手を振り払う素振りで、手首を掴ませる。


「くっ、は、放しなさい!」


「へへ、・・おっと、剣ならそっちに落ちてんぜ」


フワフワと風船のように頼りない男の体重を左の手首に全神経を集中し感じ取りながら、右手で抜きかけた剣を押さえられて抵抗し切れない風を装うべくプルプル震え背後の木にもたれる。


「うっ、臭い・・・この、ケダモノっ・・・離れなさいッ!」


「近くでみるとすんげえ別嬪だぜ・・・ゲヘヘ、暴れんなよ・・・優しくしてやるからよぉ」


「やめて、おねがい・・・いやぁ・・・」


ファルセットで掠れさせながらの泣きを入れると、男はたまらずといった性急さで襲い掛かってきた。


ゲェエエエット!!!!!!



「痛って!・・・こんのアマ、おらっ・・ゲッ!」


たたらを踏みながら男が離れる。


オイオイオイオイオイオイオイオイオイ、女が脚開いてんのに逃げ出すってか。

なんなんコイツ。失礼すぎなのでは??


見れば男は血だらけの手を押さえながらこちらを睨んでいる。


・・・つか、ゴッドパワーのせい?


視界の端で揺れている髪の毛に、僅かに赤い色があった。

指ですくうと、血だ。


え?髪の毛で切れたの??


「な、なんだおまえ・・・」


まずい、せっかくのおいしいごはんが・・・


「お、思い知ったようですわね・・・エルフの姫には敵に対しての加護があるのですわ。どんな窮地も一回だけは切り抜けられるよう森の加護が・・・ハッ?!」


あたしやっちゃった的なアクションで両手を胸の前に畳んで後退・・・れず、幹に背中をゆるく押し付ける。


木からもういい加減にしとけ的な波動(ギシ音)を感じる・・・・


青白く何かが光った。


同時にガチン、という音とオレンジ色の火花が弾け男の手から白い剣身があたしのクビへと伸ばされていた。


う、撃たれたのかと思った・・・いや、感想ですよ?斬られたことも撃たれたこともないし。


かるく板を当てられている感じだが、男はウデをぷるぷるさせている。


「ああっ!痛いっ!」


よろりと打倒された風を装いながら地面へと倒れる。

脚をマーメイドっぽくなよなよ~と揃え崩しながら。


「今ので加護は終わりです!もう抵抗しません・・・だから、やさしくして・・・」


「芝居はやめろ。一体何がやりてぇんだおまえは・・・」


震える切っ先をつきつけながら、男が問う。


あー、駄目か。

男てビビリに回ったらもう勃たないんだよな・・・


つーか髪に振れただけで切れるとか泡かよ、マシュマロ以下じゃん。

なんなんこの世界。


涙出てきた。


「ううう・・・・・」


「なんだ、なに泣いて・・・」




「あああああ!!!!!!H出来なきゃ美女(仮)になっても意味ねーじゃんなんなんこの世界!」




最悪ですわ。




つかまだ自分の顔見て無かった・・・



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


心理学的には男はゴハンではなく飲み物だそうです(出展不明。80年台後半にレーサーレプリカと同時に流行って歌とか漫画になってた。吸血姫とか使われてないかて検索したらアニメがあるらしいですね、もしかしたら学理やうんちくが学べるかも?)

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