第五話:平穏を薪に火を焚べて

 ブランは両親の暖かい笑顔と言葉を思い出した。盗賊たちによって燃やされる家と畑、女から子供に至る悲鳴で掻き消されている前に。


 ことの発端は自身の村に憲兵がやって来てからだった。

「今から年貢を倍にする。隠してあった収穫があることも知っている。速やかに半年以内に出せ。」

「ふざけるな! これじゃあ、俺たちが食べる分が無くなるじゃねぇか!」

「子供たちに食わせる乳が出なくなったら、どうしてくれるのよ!」

「黙れ! 農奴の分際で我らに楯突くな!」

 憲兵からの不当な命令に村人たちは文句を言う。しかし、憲兵は怒鳴った後、新たな提案をする。

「もし、倍の年貢を出せなかったら、村中の女を老若問わずに宮中に差し出せば、これからの年貢は少なくする!」

「私の妻と娘を差し出せというのか!?」

「おっ母と離れ離れになるなんて、嫌だ!」

「これは皇帝陛下からの命だ! 逆らうことなんて無駄だぞ!」

 憲兵から脅される村人たちを見たブランは居ても立っても居られず、憲兵の前に立ち、言い返した。

「待ってください! もし、倍の年貢を払ったら、女の人たちは宮中に送られず、年貢も少なくしてくれますか!」

「何!? そんなことが出来る訳ないだろ!?」

「出来ます! 栄養が足りない地に肥料を混ぜながら耕せば、新たな畑を増やせます!」

「わ、分かった。そこまで言うなら、だが、万が一出来なかったら、お前だけでも皇帝陛下に差し出す! それでもいいか!」

「はい!」

 必死に力説するブランの前のめりに憲兵たちは怖気付き、後退りながら了承し、村をあとにした。

「流石、賢女様だ。」

「ありがとうございます。でも、大丈夫かい、賢女様? そんな大口を叩いて?」

「大丈夫です。他の農奴たちの村にも連絡して、畑を増やしましょう。」

 ブランを含む村人たちは安堵し、農作業に取り掛かった。数日後の夜に盗賊たちが現れるまでは。


 盗賊たちは用意周到だった。見張り台の者を弓矢で遠くから射殺し、気付かれないように村全体に潜み群がった所で家や畑を燃やし、周囲に混乱とした状況に襲わせた。

「助けてくれ! おっ母が、おっ母が!」

「いやぁ! 来ないで!」

「ぎひゃひゃ、いいねぇ! 逃げ惑う男を無惨に殺し、女を無様に犯す!」

「今夜は最高の気分だ! 奪いがいがあるぜ!」

 結果はこの殺伐とした光景が物語る。クリケットの家も例外なく、火災で倒れ、両親と村長である叔母は下敷きになり、運良く逃れたブランはマロンを抱き抱えるも、今にも親たちを救おうとマロンは手足を動かし、暴れる。

「いやぁぁぁぁぁ! お父さん! お母さん! お婆ちゃん! 離して、離してよ! みんな、死んじゃうよ!」

「駄目だよ、マロン! 私たちが行ったて、死んじゃう! だから、お願いだから、行っては駄目!」

 姉妹は互いに涙を零し、ただ悲観するしかない。

「マロン…ブラン…悲し…まないで…」

「俺たちの…分ま…で生き…抜くんだ…」

「おぬしら二人は…何も…悪くない…絶対に…後を…追うでないぞ…」

 親三人はとうとう燃え盛る炎に呑まれ、黒き灰と化し、この世を去った。

「あーーー! お父さん! お母さん! お婆ちゃん! うわぁぁぁぁぁ!」

「そんな、そんなの嫌! いやぁぁぁぁぁ!」

 その散り際をただ見るしかなかった二人はただ泣き叫ぶことしか出来なかった。

 そんな二人に一人の盗賊が背後から忍び寄り、曲剣サーベルを振り下ろそうとする。

「可哀想になぁ。俺がお前ら姉妹を慰みものにしてから、あの世へ送ってやるよ! げひひひひひひ!」

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