第三話:害獣決戦と宴

 数週間後、ブランの村の畑に野生猪ワイルドボーアが柵を破りながら突っ込んで現れ、大爪鴉ビックローレイヴンが案山子を風の刃で斬り刻み、飛来して来た。

 周りに不用意に置いてある木箱には意を解さず、作物に近づこうとする。

 野生猪ワイルドボーアは肥大化した赤毛の猪にして、力を溜め、突進力を上げる魔能技スキル猪突猛進ボーアタックル】を持ち、

 大爪鴉ビックローレイヴンは体型と共に大爪を刃のように肥大化させ、風の刃を大爪から放つ魔能技スキル風斬刃ザッパー】を持つ。

 そんな一縄筋では行かない魔物たちの内、野生猪ワイルドボーアは作物へと足を近づけた瞬間、土壌が壊れ、落とし穴にはまる。

 その瞬間、周りの木箱の中からクロスボウや刀、盾を持った村人たちが魔物相手に押し寄せる。その中にブランとハンヌの姿があり、前者は大爪鴉ビックローレイヴンに、後者は野生猪ワイルドボーアに対する指揮を取っていた。

「射撃部隊! 撃ち方始め!」

 大爪鴉ビックローレイヴンは空中で逃げようとすると、ブランの指示によって村人たちが撃つクロスボウの矢に翼を次々と貫かれ、その身を墜落させる。

「今だ、剣盾部隊! 周りを囲んで盾で押さえろ! そして、盾との間にある血脈を斬り刻め!」

 落とし穴にはまった野生猪ワイルドボーアをハンヌの指示によって村人たちは盾でさらなる身動きを封じ、盾との間から刀で斬り刻む。

 圧倒的多数の村人で二体を一体ずつ相手した魔物はすぐに敗れ倒れた。


 その数日後の夜、村の中心で焚き火が上がり、宴が行われた。

 焚き火の周りにあるテーブルには果実や蜜を漬け込み、肉質を柔らかくした野生猪ワイルドボーアのステーキ、海水から採った塩を漬け込み、小麦粉を塗し、樹海近辺で採れたオリーブの油で揚げた大爪鴉ビックローレイヴンの唐揚げ、そして、何故か、大皿に置いてある薪に巣食う白幼虫の蒸し焼き。

 前者二つの肉料理は良しとしても、虫料理だけは流石にどの世界の一般人も馴染めなかった。ある姉妹は除いては、

「おいひい! いのししさんも! からすさんも! むしさんも!」

「でしょ! ステーキはソースをつけなくても甘くて柔らかいし、唐揚げは塩加減塩梅で、肉汁を引き立たせてるし、このカミキリ…幼虫だって、クリーミーで、旨味たっぷりなのよ! でも、何でみんな食べないの?」

 そんな二人に村人たちは必死な苦笑いで口元を引き攣らせている。そこにある老婆が咎める。

「馬鹿孫娘! 虫はゴブリンの餌として聖神の教えでは縁起が悪いと、あれ程言っといた筈じゃ!」

「えっ、そうなの!? やばい、どうしよう。口を濯げばいいの?」

「今から、儂がお祓いをする。こっちに来とれ! ハンヌ、お主もじゃ!」

「はっ!? 俺も!? まっ、待てよ、長老!」

「痛い、耳が痛いよお婆ちゃん!」

「マロン! お主はあとでお祓いをするからここで待っとれい! くれぐれも虫を喰うんじゃないぞ!」

「はーい! いってらっしゃーい!」

 ブランの耳を引っ張りながら連れている老婆こそがブランやマロンの祖母にして、この村の長老、モンロー・クリケットである。

「たく、俺は虫を喰ってないのに。ブラン、お前が物知りのくせに非常識なのが悪いんだぞ!」

「ごめんなさい。だから、助けて。お婆ちゃんの手から耳を離れさせてよ。」

「お前なぁ…」

 ブランとハンヌが会話をしている間にモンローによって彼女の家に連れられ、入ったふたりが見たのはブランとマロンの両親である、父のイルガ・クリケットと母のクリス・クリケット、そして、ハンヌの父である鍛治職人のハンザ・アルブレアがいた。皆、緊迫した顔を浮かべている。

 二人は不思議そうに考えつつも、ブランは胸騒ぎがした。

 そして。モンローは真剣な眼差しでブランに対し、重い口を開く。

「単刀直入に聞こう、ブランよ。お主に前世の記憶はあるのかえ?」





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