第二話:害鳥撃退の準備
彼女の叡智はとどまることを知らなかった。
ある時はリバーシという白い表と黒い裏を持つ駒による陣取り
また、ある時は植物か動物の油・木屑の灰・貝殻の粉で作った石鹸で衛生面を整え、
さらに、ある時は村々の職人たちの力を借り、水車を利用した洗濯機、シャベルや猫車などの農具を作製させてもらい、村々に普及した結果、男女問わずに大歓喜し、ブラン・クリケットを辺境の賢女と呼んだ。
「賢女様だ! 子供たちの分まで食べさせてくれた、賢女様だ!」
「この前は私の娘の病気を治してくれてありがとうございます! 賢女様!」
「けんじょのおねぇーちゃん! また、りばーしであそぼ!」
故郷の村でも近隣の村人からよく声を掛けられ、彼女は恥ずかしくも、皆に認められたことの嬉しさを隠せなかった。
「ぬへへへ。」
「なんだよ、その笑い方?」
ブランの変な笑みに対し、隣にいたハンヌは呆れながら、ツッコむ。
「いやぁ、こんなに褒められたのは初めてだから、顔も崩れるくらい嬉しくなるもん! そういうハンヌだって、私を賢女様と讃えてもいいんだよ。」
「何が賢女だよ。俺にとってお前は面倒ごとを起こして、俺が放っておけないありのままの幼馴染だっつーの。」
「もう、何よそれ?」
頬を膨らませるブランにハンヌは顔を赤らめながらもそっぽを向く。
すると、村の農奴たちがブランに駆け寄る。
「賢女様、大変です! すぐにあちらに来て下さい!」
「えっ、あっ!? ちょ、ちょっと待…きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「だから、言わんこっちゃない。おい、ちょっと待てよ!」
農奴たちが詰め寄るや否やブランの腕を掴み畑の方へと向かわされ、心配したハンヌが彼女たちの後を追う。
ブランとハンヌが農奴たちに連れられた畑は土壌を蹄や鳥足に踏み散らかされ、ここで採れるはずの果実類の野菜が食い荒らされた。柵や案山子は無惨に壊され、中には白と茶色の糞も落ちていた。
「おいおい、見事に荒らされてるじゃねぇか。この境界に出没する害獣…いや、もしかして魔物か?」
「はい。
「大きい上に強力で、気性が荒いせいなのか、柵も案山子も通じないんですぜい。」
故に、魔物の強さ故に人里を襲うようになり、人間さへも恐れず、餌を得ようと、畑や家どころか、人さへも襲おうとする。
そして、魔物の大半は一度楽に狙えた所を襲い続ける悪知恵を持つと言われる。
農奴たちはその悪知恵によって、村の畑を喰い尽くされることを恐れ、賢女であるブランに助言を頼もうとしたのだった。
「賢女様、どうすればいいのです…って、賢女様?」
ブランは高速で何かを呟いたまま、手を顎に置き、考え込んだ。農奴たちが怪訝そうに心配し、見つめる中、ハンヌだけは彼女のそういった癖を知り尽くし、黙って見つめた。
そして、彼女は口を開く。
「ハンヌ! 親父さんの鍛冶場の倉庫にあるクロスボウと刀と盾の手入れはばっちり?」
「ああ、もしもの時に作らせた奴だろ? 改良したクロスボウはともかく、川から採った砂鉄で鍛えた反りのある剣と樹皮と樹液で作った盾も使う気か?」
「うん、鴉はクロスボウで対抗して、猪は盾で牽制して、刀で頸動脈を深く斬れば、何とかなるかもしれない。そして、お肉!」
「いや、食う気かよ。まぁ、親父と相談しなきゃな。ほら、行くぞ!」
「分かったわ。では皆さん、後はお任せ下さい。」
農奴たちはブランとハンヌの息の合った会話に呆然とし、そのまま見送った。
「流石、ハンヌだな。あのブランさんと息ぴったりに合わせられる。」
「賢女様のお知恵は何というか…原理がおかしいつうか、知らない技術があるつうか、何というか、この村の者たちが一生考えられないことを一瞬で言うんだもの。」
「長老のおばば様は何か知ってるかもしれねぇけど、今は賢女様を期待しよう。」
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