第一話:異世界転生者流農業

 彼女が再誕し、7歳になったある日、この魔法と魔物が存在する異世界での自身の立ち位置を理解した。

 ここは【アダルマ帝國】と魔物が跳梁跋扈する【魔神の森】との国境に彼女の住み所を含めて、帝国の農奴の村々が点在している。

 隣国である【ミスル聖王国】との戦争や帝国貴族の贅の為に彼女を含む農奴は彼女たちを管理する【憲兵師団】によって、月に15kgの麦を徴収されてしまう。

 そのせいで農奴たちは日常で食べる麦が少なく、さらには去年は飢饉を迎えてしまい、餓死する者も多かった。

 そこで彼女は両親に頼んで、自分だけの畑を貰うことにした。幸い、彼女の家系は代々村長をしているので、領地に関しては自由を許され、父親の知り合いである鍛治職人や木工職人に頼んで、農具を作ってもらった。

 しかし、最初に彼女がとった行動は畑を耕すことではなかった。

「おい、ブラン! 何で畑じゃなく、海に向かってるんだよ!」

「だから、言ってるじゃない。ここに良い肥料があるってお告げがあったのよ。」

「おねえちゃん! うみだよ! すごくきれー!」

 丸眼鏡を掛けた栗毛の三つ編みと黒瞳の少女、ブラン・クリケットは同じ栗毛の短髪と黒瞳の妹であるマロン・クリケットや、鍛治職人の倅である赤い短髪と青瞳の少年、ハンヌ・アルブレアと共に村から少し遠い海辺の砂浜に来ていた。

「で、そのお告げとやらでこんな関係ない所に良い肥料があるのか?」

「あるわよ。確か…あったわ!」

「しろいかいがらさんだ! きれー!」

「はっ!? それが!?」

 渋々ついていったハンヌは驚いた。彼を含むこの世界の住人にとって貝殻が肥料になるとは考えにくいからだ。

 それでも、ブランは自信満々に答える。

「貝殻はね。カルシ…土壌の酸性を中和…とにかく! 土壌を良くして、病害虫に強い麦が育つはずよ! きっと…必ず!」

「お前、本当に自信があるのか? お告げでそんな効果まで分かるのか、普通?」

「何よ! この前だって、身体の余分な汗を拭いて、暖めさせて、風邪を治したのに!」

「いや、その話すんなよ! まったく、少しは女らしく恥ずかしがってもいいのに、自信満々に脱がせやがって…」

 ハンヌは顔を仄かに赤くし、年頃のブランに裸を

「ハンヌにぃがはずかしーしてたじゃん!」

「うるせぇ!」

「あははは! ねぇねぇ、おねぇちゃん。そのしろいかいがらさんね、きれーなのにひりょーにするなんてもったいないの!」

「う〜ん。そうだね、じゃ、気に入った貝殻はマロンのコレクションにしてもいいからね。」

「ほんとう!? やったー! これくしょん! これくしょん!」

 マロンは嬉しさのあまり、砂浜を駆け巡り、貝殻を探す。

 対して、ブランはニヤニヤと怪しい笑みをこぼし、色々と目論んでいた。

「家畜の糞を肥料にしているってこの世界で聞いたことがあるし、貝殻だって立派な肥料よ。あとは、三圃式農業を実行すれば、いやまって、ノーフォーク農法を忘れる所だったわ。ふふふ。」

「全く、この姉妹って相当な変人だな。」

 ハンヌが呆れるも、かくして、大量の貝殻を得たブラン一行はそれらを細かく砕き、肥料として撒き、土壌の質を高めた。

 さらには、耕地を四分割し、耕地ごとに、かぶ・大麦・クローバー・小麦をずらして、4年周期で輪作するノーフォーク農法を行った。そうすることで、カブやクローバーという家畜の餌を得られ、冬季でも家畜を育てることができた。

 この結果、ブランのやり方は数年で結果を表し、例年の倍の収穫量と家畜の高い質を得た。さらには、そのやり方は他の農奴の村々に広がり、収穫が増えた分、彼らの食卓にも多くの麦を食すことができた。

 これが異世界転生者、ブラン・クリケットの最初の第一歩である。

 

 

 

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