第16話 放課後ショートケーキ

俺は放課後にケーキ屋に寄って、少ない小遣いで小さなショートケーキを2つ買った。

和馬は喜んでくれるだろうか。

そんな小さなドキドキを持ちながら、和馬の家へと向かった。


そんなミサトの思いとは裏腹に家では和馬とお母さんが小さな誕生日会を開いていた。


お母さんは和馬にとても謝っていた。

今までの行いを恥じるように和馬にホールケーキや和馬の欲しがっていたゲームを渡そうと試みた。

だけど、和馬はそれを受け取ることはなかった。

お母さんと仲直りは出来ても家族になるのはまだ難しかった。


でも、お母さんは受け取って欲しかった。そんな欲が言葉に出てしまった。

『和馬、今日はあなたの誕生日。だから、気持ちよく私の気持ちを受け取って欲しいの。確かに、私はあなたに対して間違ったことをいっぱいやって来たかもしれない。でも、それでもかけ違えたボタンを外して、最初に戻したじゃない。ゼロから一緒にスタートしましょう。だから...』


和馬はおもむろに立ち上がりなにもいわずにリビングから出ようとした。

お母さんは手をつかみ懇願するように言った。

『ねえ、和馬。お母さんと仲直りしたじゃない。それでもだめなの? お母さんの何がいけないの? なんで、お母さんはあなたのことを大切に思ってるのに、あなたはどうして私をそんなふうに良いところだけ利用して悪いところは全部お母さんのせいみたいにするの? ねえ、お願いだから、一緒に楽しく過ごしましょ』

和馬は掴まれた手を離すように、お母さんに向けて言葉を発した。


『母さんとは仲直りできたと思った。でも、嘘だったのかな。今の母さんは僕の知ってる母さんじゃないよ。父さんがいた時の母さんは僕の知ってる母さんだった。でも、今は本当に母さんなのかな? 母さんのこと利用してごめんなさい』


ピンポーン。

そんな親子の会話に入り込むようにインターホンがリビングに鳴り響く。

リビングにいた和馬が母との会話では見せなかった笑顔をインターホン越しに見せているのを見て、お母さんは落胆した。


リビングから玄関の扉を開けて迎える和馬と友人のミサトを見て、1人リビングでお母さんはホールケーキを一切れ食べながら声を殺して泣いた。


そうとも知らずに、和馬は自分の部屋にミサトを案内した。

ミサトはドアの隙間から女性の声を聞いて、和馬に尋ねた。

『和馬、お母さん平気なの?』

和馬はめんどくさそうに母のことを口にした。

『母さんは情緒不安定なんだよ。そっとしてあげて。僕の家には色々あるんだ。それより、ケーキ買ったんだよね。一緒に食べよ』

『あっ、うん。いいけど。お前さ、家族は大事にしろよな』

そう言って、僕らは部屋でケーキを食べながら話した。

話した時間は大体2時間くらいだった。

ミサトが時計を見て、午後7時頃だったので、そろそろ帰る準備をして、和馬にさよならをしようと玄関に向かった。

玄関で和馬は『またね』と笑って、ミサトに手を振ってバイバイした。


リビングではまだ泣いている母を中扉のドア越しで和馬は見て、何も言わずに自室に戻った。

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