晴天のち
そうして時間は流れ、待ちに待った約束の日曜日を迎えることになった。
凜は朝から部屋の鏡の前で何度も服を合わせ、ギリギリまで何を着て行こうか悩んでいた。休みの日に友達と遊びに行くことなんてこの頃ほとんどなかったから、服を選ぶのも久しぶりだった。いつもより気合を入れてメイクをしたり、髪形をセットしたりしているうちにあっという間に時間は過ぎ、脱ぎ散らかした服の片づけもそこそこに凜はバタバタと出かけて行った。
駅への道を走りながら、こんな風にワクワクする休日はいつぶりだろうと凜は考えていた。いつもと違う自分で、大好きな友達と一緒に、大好きな歌手のイベントに行ける。これから始まる素晴らしい一日のことを思うと、凜は自然と心が浮き立つのを感じた。
凜が待ち合わせ場所の駅前に着くと、侑李の姿はすでにそこにあった。侑李は黒のライダースジャケットに白のプリントTシャツ、赤のミニスカート、それに黒のショートブーツといういかにもライブ向きの格好で、スカートから伸びるほっそりとした長い足が遠くからでも人目を惹いた。壁に身体をもたせかけ、腕組みをして横を向いたその姿はとても様になっていて、そのままファッション誌に掲載されていても違和感がないように思えた。
「侑李!」
凜が呼びかけると、侑李が顔をこちらに向けた。その顔がぱっと明るくなる。
「凜! おはよう! やっぱ日曜だし人多いね!」
「うん。普段日曜あんま出かけることないから知らなかったけど。っていうか侑李、今日の服すっごい似合ってる! あたしライブとか行くの久しぶりだから、何着ていいか全然わかんなくって」
凜はそう言って自分の服を見下ろした。迷った挙句、凜は長袖のGジャンに水色ベースの黄色の花柄ワンピース、それに白スニーカーというカジュアルな服装にしたのだが、スタイリッシュな侑李のコーディネートを見ていると、自分ももっと洒落た格好をしてくればよかったと早くも後悔し始めていた。
「えー、でもいいじゃん! そのワンピの柄可愛いし、ライブだし歩きやすい靴の方がいいよ!」
侑李はそう言ってあっけらかんと笑った。それを見て凜も表情を綻ばせた。よかった、侑李はあたしのことを格好で判断したりしない。いくら自分がモデルみたいに見えて、あたしとは全然釣り合わなかったとしても、そのことであたしをバカにしたりしない。侑李は侑李だ。学校のいる時と変わらない友人の態度に、凜は密かに安堵していた。
電車を乗り継ぎ、ようやく二人がライブ会場に着いた時には辺りはすでに人でごった返していた。そのほとんどが若い女性で、シゲルの顔がプリントされたうちわや、ペンライトを持った人もたくさんおり、皆が思い思いにライブを心待ちにしているのがわかる。
「まだ一時間も前なのにすごい人だねー」凜が辺りを見回した。「さっすがシゲル。今からこんだけ人いたら、始まる頃には会場入りきらないんじゃない?」
「メジャーデビューしてから一気に人気出たもんね」侑李が頷いた。「これだけ有名になっちゃうと、昔からのファンとしてはちょっと寂しい気もするけどね」
この様子ではグッズを買うのにも並ぶことになりそうだ。ライブ開始までまだ時間があるし、今のうちにグッズを見に行った方がいいかもしれない。
凜が侑李とそんな相談をしていた時、突然聞き覚えのある声が二人の後ろから飛び込んできた。
「あっれー、侑李じゃん!こんなとこで偶然だねー!」
その声を耳にした途端、浮き立っていた凜の心にたちまち嫌な予感が広がっていった。まさか、こんなところで、どうして――。
「……久美」
凜が恐る恐る振り返ったのと、侑李がそう呟いたのが同時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます