手合わせ→理解(裏)
「団長、そんなだから鈍感だとか言われるんすよ?」
「いや、そうだな」
「あの子が他のご令嬢みたく、団長見るなり発情する子じゃなくてよかったすね」
「その言い方はあんまりだろう」
「大体あってますからね」
あっけらかんとゲラートが言う。アルフレドもアルフレドで、彼を見るなりしなを作って話しかけてくる女性には何人も覚えがあるのでそれきり強く言うことはしなかった。
(その点エスティは不思議なものだな)
自分が今まで出会ってきたどの女性とも違う。色んな柵に染まった令嬢たちとも、アリフレタ嬢のような深窓の花とも、レベッカのような男勝りなもののどれともにつかない。
(親しみやすい……そう、友人というか)
立場や性別関係なく、隣にいて心地よい。そんな不思議な感覚を自分はエスティに抱いていて、だからつい油断して目の前で服を脱ぐなどということをしてしまった。
訓練の際には男一同上裸になるのも珍しくないので、レベッカはもう慣れたものだがエスティはそうではない。そのことを忘れていた。
だというのに。
エスティはなんでもなさそうに受け入れていた。体を見る視線も、まるで芸術品を眺めるような冷静なものだった。そこに情欲の色はなかったのだ。
(やはり仲良くなれそうだ)
今は立場が立場だから難しいが、事件が片付いた折には友好を結びたい。そんな風に思えて、うんと一つ頷く。
「しかし団長、あの子はどうっすか?」
「どう、とは?」
「
ずいぶんと切り込んでくるものだ。そして遠慮がない。あれら、とはザック王子一行のことで、こともあろうにこの男は王子をあれ呼ばわりしたのだ。
アルフレドもザック王子が尊敬に値する人間かと言われれば首を振るし、自ら剣を捧げたいとは思わぬ相手だったが。そうは言ってもここまで露骨に毛嫌いはしていない。
人間を見る目に関しては年長のゲラートが誰より長けているのでそこに文句はつけない。彼がここまで嫌うのならば、それ相応の人物だったのだろう。
(エスティにあんなことができるか、か)
事件の現場を思い出す。現場は凄惨と言ってよかった。護衛騎士は全滅、そのほとんどが原型もわからぬほど無惨な屍を晒していた。
あれはただの剣術だけでできるものではない。かといって魔法にも思い当たる物がない。
生き残ったのは御者だけ。彼は逃げ出した馬を押しとどめようとして失敗し、馬に連れ去られる形で騎士団の元まで辿り着いたのだという。
彼も怪我をしていた。犯人によるものだというがあれは剣による切り傷だ。
だとすると現場の状況はなんなのかとなる。
ただ一つ確実に言えるのは。
「無理だ。腕が立つとは言っても、護衛の騎士達を殺せる類のものではない」
「っすよねー。というかあれ、団長でも厳しそうすけど」
「……俺があんなことをするものか」
「いやいや、要するに何かしらのからくりがあるってことっすよ。それこそ何か
「……なんにせよ、調べなくてはなるまい」
「ういっす、お任せください」
「……覗くなよ」
「あっはっは……、残念、可愛い子とあれこれできると思ったのにな……」
大げさに落ち込んで見せるゲラートだ。だがこれでかなり優秀な部下だから、人は見た目や素振りだけではわからない。
そう、わからないのだ。
(
アルフレドが事件現場の近くにいた理由、それは国からアリフレタ家に反乱の兆しありと言われて調査を行っていたからだ。
曰くザック王子を利用して良からぬことを起こそうとしているのだとか。
(俺は騎士だ。主君を疑うなどあってはならない。だが……)
本当に反乱の兆候などあるのかと自分に問う。ここの人達は、己が守るべきと定めた無辜の人間と何ら変わりがないのではないかと。
彼女らは権力などより、もっと身近な幸福をこそ望んでいるのではないか。ただ主の平穏を守りたいだけなのではないか。
(答えを出すにはまだ早い、か)
頭を振って思考をリセットする。しかしどうしても脳裏に張り付いた嫌な疑念は消えないでいた。
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