〜第44話 みじかにいる敵〜


「えっと、どちら様でしょうか?」


部屋を間違えたかと思ったが、教国に桃色の髪をした少女はいなかった気がする。


「あっ、失礼しました私つい勇者様に夢中になってしまい」


「‥‥‥もしかして帝国のご令嬢ですか?」


「いえ」


ん?帝国側の人間じゃないのか、やっぱり教国側か?

だとしたら幹部の娘だろうか。


「帝国第一皇女のノアラでございます」


「皇女様だったかぁ‥‥」


ノアラと名乗った子は近づいて胸を押し当ててくるが、皇帝の娘らしいので無下にはできない。

もしかして罠というやつだろうか?


「ーーノアラさんはなぜここに?」


「勇者様、さん付けではなく是非ノアラと」


「ノアラはなぜここに?」


「なぜと言われましても、勇者様を見れば誰でもこうなります♡」


王国ではならなかったけどな。


「それでなにをしたいんですか?」


どうしてもあからさまに野心を出されると敬語になってしまう。

教国側が来るまで時間を稼ぐか‥‥待てよーーーーこの状況でシアが来たらまずいのでは?


はたから見たら完全に皇女を口説いている勇者だし、まずいな。


「そうですね‥‥私と是非お茶会をしません?」


お茶会か‥‥いいんじゃないだろうか?

もちろん単にしたいわけではなく、皇女ともなれば色々聞き出せそうだからだ。


「わかりましたーーそれだけなら」


「はいっ!では私が淹れますね」


そう言って皇女の割には慣れた手つきで紅茶を入れ始めた。


ーーーーあ、今何か入れましたね。


絶対睡眠薬とかじゃん。


「どうぞ勇者様、お飲みください」


「あ、あぁ‥‥いただくよ」


毒かもしれないと思ったが流石にないだろうと、自分に言い聞かせて飲んだ。


「ーー甘い」


「嬉しいですわ、勇者様」


いや、紅茶の甘みではない‥‥薬の甘さだ。


魔力の感じはないため、前世でいう自然素材で出来ているのだろうか?

何かが込み上げてくるような気もするが、有害なものではないのだろう。


(心配しすぎたか‥‥)


「ーーーそれでは皇女様、是非聞きたいことがあるのですが」


「なんでもお聞きください」


「そうですね‥‥俺は勇者として王国に居た時があるのですが、帝国との関係はどうですかね?」


正直、最初から政治的話を聞くのはどうかと思うが仲良くなるつもりはないし、何より先ほどの会談?で帝国側から色々隠している気配を感じたのだ。


「王国ーーでしょうか‥‥そうですね、帝国は民を始め重臣までもが教国の信者ですので一国家としては恥ずかしいですが、教国と王国との関係性に委ねられますねーーーーただ最近ですと魔王軍のこともありますので支援はしているので良好なのではないでしょうか?」


ーーーー王国による魔王戦を支援しているのか。

ならもし新生魔王軍と魔王軍がグルだった場合、帝国がスパイという可能性は無さそうだな。

もしかして貴族達が何かを隠しているのも俺の気のせいだったりするのだろうか?


「そうそう、最近ですと王国の重臣にハイエルフの方がついたようなのですが、その方が最近まで帝国に訪問してきたんですよね」


「ハイエルフ?」


「はい、男性の方でしたわ。エルフなので見目麗しいのですが勇者様には及びませんわ」


ハイエルフ、最近はよく聞くな。


「ーーもしかしてそのハイエルフって強かったり」


「えぇ!我が国の魔法騎士団と模擬戦をしたのですが、まったく歯がたたなかったと聞いています」


「‥‥‥」



これはもしかして、吸血鬼が言っていたハイエルフと同一人物の可能性が出てきたな。


「では」


「勇者様、政治の話もいいですがーーーー男女の話もしません?」


突然、そんなことを言うとこちらを覗き込んでくるように顔を近づけてくる。


なぜかドキっ、としてしまう。


ーーまさか薬って媚薬か?!


勇者には媚薬は聞かないはずだが、よほど強いのだろう。

それでも理性を失うほどではないようなので良かった。


今度から知らない人から出された飲み物を飲むのはやめよう。

当たり前か。


「勇者様ぁ♡」


まさか自分でも飲んだの?!この皇女っ!


徐々に近づいてくる皇女になすすべもなく、どうすればいいか迷っていると別の気配がすると共に糸が切れたように皇女が倒れる。


「エルア様、既成事実を作るのも止めはしませんが教国側にも一言言っていただけると」


室内だからかフードを取ったユウナだった。


「既成事実なんて作ろうとしてないぞ!!」


媚薬のせいか口調がおかしくなっている。


「ーーーもしかして盛られました?」


「あぁ」


マジですか?と言う顔をして鑑定魔法でも使ったのかこちらを見つめてきた。


「うわ、結構強いやつですよこれ‥‥よく喋れますね」


え、なに普通は喋れなくなるの?こわ


「それで?解除できないんですか?」


「多分な」


解除系の魔法は専門外だが、おそらく無理だろう。


「ーーーーーーそうなんですか」


おい、今一瞬獣の目をしなかったか?

お前も敵か!!

というか最近同じようなこと起きすぎじゃないか?モテ期ってやつか?


「この女狐さんは戻しておきますけど、先ほどのことはちょっと報告しますねーー」


「ーーーーーーーーーだれに?」


嫌な予感がしたので恐る恐る来てみると、すぐに返答が来た。


「シアさんにですね」


や、やっぱりスパイだ!!

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