第2話
「ハッ ハッ」
爽やかな早朝の街中を走り抜け、街から少し離れた森へ向かう。
これが俺のいつものランニングコースだ。往復で大体4kmくらいのを5往復。その後は家に帰って師匠に剣と魔法の稽古をつけてもらう。
「よし、1回水でも飲むか」
森の最奥にある湖のほとりの岩で俺は家から持ってきた水筒の蓋を開けた。ここは滅多に人も来ず、静まりかえっている。適度に涼しく、木の間から射す光が湖面に反射してとても綺麗なお気に入りスポットだ。
カサッ
…どうやら今日は珍しく来客のようだ。
狙いは…俺か!?
俺は自分が居たところからパッと飛び退いた。
「あー、避けるんだ。なかなかやるね。」
そこには、来客───俺に向かって魔法を行使してきた20代前後の女が立っていた。
「お前、いきなり襲ってきてなんなんだ?何が目的だ?」
「あはは、そんなに警戒しないでよー。私『達』折角貴方に会いに来たのに」
「会いに来た?理由は知らんがまずお前らは誰だ?」
「ふふ、さあね。後ろの奴に聞いてみれば?」
「後ろ?…ッ!」
ガンッ
俺がさっきまで居た所にはハンマーで地面を叩いたような跡がついていた。
「これも避けるんですね。流石『大勇者トレイル』の弟子だ。やっぱり僕達じゃ勝てないかな。」
そこにはおそらく女の仲間であろう、大きいハンマーを持った20代前後の男が立っていた。
「俺が弟子であることを知っている?お前らは誰なんだ?何が目的だ?」
そういえば、この2人、何処かで…あっ!
「お前ら、『次世代勇者』とか言われてるニー兄妹だな?俺に何か用か。」
「わあ、私達のこと知ってるんだ。最近有名になってきてるなと思ってたけど、ありがたいねえ。ね、『ロア』」
「別に僕達は目立つ為に旅してる訳じゃないよ。本来の目的を忘れたの?『ニア』」
ロア?ニア? これは偶然か?
その時頭によぎったのは昔別れた弟妹のことだ。あいつらも同じ名前だったな…。
俺達兄妹は帝国の最南端にある村で産まれた。ニアが産まれて5年くらいか。魔王軍と人類の大戦が勃発したんだ。父は俺達と母を残して戦場へ。死ぬ時は呆気なかった。母は父を亡くした直後に急死。原因は分からないが村の長老は父を亡くしたショックが原因と結論をだした。俺が10、ロアが9、ニアが6の時、俺達は両親を亡くした。それから程なくしてうちの村にも魔王軍が襲撃してきた。魔王軍の1人がロアとニアを襲おうとして、俺が身代わりになって。そうだ、ロア達を逃がす前にニアに母さんの形見のブローチを渡していたじゃないか。剣と鳩を象った、勝利と平和を祈るブローチ。鍛冶屋を営んでいた親父が母さんにプレゼントした、世界に一つだけのブローチ。ニアはまだ持っているだろうか。
「ねえねえ、私達に、何か覚えはない?」
「覚え?だからお前らは有名なニー兄妹で」
「ちっがーう!それじゃなくて、ほらもっと幼い頃の記憶とか思い出してみてよ!」
「幼い時?あー、俺と生き別れた弟妹がお前らと同じ名前とか?でも流石に別人だと思うし。お前らは2人兄妹だろ?」
ん?なんかこいつらニヤニヤしてるな…
「ねえ、コレ見ても同じことが言える?」
すると、ずっと黙っていた男の方が何かを差し出した。
「これって何…は?」
そう、俺は信じられなかった。信じられる訳がなかった。だって、男が差し出したものは───母さんの、形見のブローチだったからだ。
「お前らが…なぜそれを持っている?」
「何故って、まだ分からないの?ねえ、『リタお兄ちゃん』?」
「これでも思い出してくれないのかい?よっぽど信用がないみたいだね、『リタ兄さん』。」
こいつら、まさか───
「お前ら、ニアとロアか?俺の弟妹…?」
「「!!」」
「ねえ、思い出してくれたの?ニアだよ、お兄ちゃん!」
「兄さん、僕ロアだよ。ずっと探してたんだよ!」
「!!」
俺は2人の元に駆け寄り、思いっきり抱きしめた。
「生きてて…よかった…!ニア、ロア…」
「う…うわああああああああああん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「うぅ…ぐすん。兄さん…会いたかった…」
俺達は、しばらくそこを動かず、10年ぶりの再会を噛み締めていた。
そんなリタを心配する者(爆速)がここにも1人…
「リタおっそいなー。迷子になってるのか?」
涼しい顔してとんでもないスピードで走る大勇者トレイルが森の最奥に着くまで3秒前。
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