到着。だが、走る
メズの弟であるアズを探しに行くため賊のアジトである洞窟を全速力で出口まで駆け抜けている。
もう足が動かない……やっぱり週1日くらい運動しようかな。適当に徘徊しとけば運動になるかな。
足が動かなくなってきてもうダメだと諦めかけた時、目の前に希望の光が差し込んできた。
出口が見えてきたのである。出口の光が見えた瞬間、自然と足が動くようになった。
ようやくゴールだ!異世界でこんなに走らされるとは思いませんでしたよ。
最後のスパートをかけて出口に滑り込む。もう走れない……
1回寝ようかな。
「ゴンザ!……えぇ?」
「どういう状況ですか?」
洞窟の外に出るとゴンザが賊二人を空中に浮かせて遊んでいた。絶叫アトラクションのようだ。
ゴンザの顔が嬉々としていて恐怖すら覚える。なんて遊びを覚えたんだ。今後の標的俺になるのかなぁ……
いやだな。絶叫マシン苦手なんだよなぁ……
遊ばれてる奴らって一番最初に会った酔っ払いか。顔青ざめてるじゃん。すぐにでも吐きそう。
「おい、ここにいた魔人の人たちはどこにいった?」
「オェ……そいつらなら……もういない」
「どこに行った!?」
「ウプッ……エルーチェだ……」
どこだそこ?聞いたこと無いぞ。
分からなくて当たり前か。ここ異世界だわ。
TOKYOとか言うわけ無いよな。
「どこ?」
「人間界の大都市です。エルーチェには奴隷市場があると聞いたことがあります。そこに連れていかれたんだと思います」
「じゃあ弟もそこに向かった?」
「可能性は高いと思います」
大都市か。奴隷市場ねぇ。胸糞悪い言葉だ。
メズの仲間たちが奴隷として売られそうになっていて、それを助けるために弟であるアズは単身で人間界の大都市に向かった。
早く助けに行かないとマズくないっすか?魔人のアズじゃ四面楚歌だ。
一刻も早く向かわなければ全てが最悪の方向に向かってしまう。
酔っ払いを払い捨てて、ゴンザに大急ぎで乗る。
「ゴンザ、エルーチェに向かってくれ!」
「???」
「エルーチェに向かってください!」
「ガウ!」
ゴンザは俺の言う事には首を傾げ、メズの言う事には従い元気よく走り出した。
え?一応、俺が主人だよね?なんで俺の言う事聞かないの?
俺、もしかして嫌われてる?
メズの好感度モンスターなだけか?
「なんでぇ?俺も同じこと言ったじゃん!」
「それは私も分からないです。シンさんが嫌われてるからなんじゃないですか?」
「ウッ……それはマリアナ海溝くらいまで深く刺さる言葉だね」
「マリアナ海溝って何ですか?」
「えっ?あーえっと、深い穴だよ」
「そうなんですか?物知りですね」
「あはは、それほどでも」
メズは首を傾げながらも納得した様子だった。
そうだった。この世界にマリアナ海溝無いわ。
あぶねぇー!地雷を勝手において勝手に踏み抜くところだった。
俺が異世界から来たって信じてくれるかな?
冷たい顔と目で「あ、そうですか」って言われそう。
この対応が何気に一番傷つくな。
「エルーチェってどんな場所なの?」
「分からないんですか?人間なのに」
ですよねー人間が住んでる都市のことを魔人に聞くっておかしいですよね。
でも、メズの方が異世界から来た俺より知ってるんじゃないか。
「あまり出歩かないもので……」
「私もよく分かりません。ただ、人間界の中でも相当発展した都市だと聞いてます」
「そんな場所に奴隷市場が……」
「大都市だからこそだと思いますよ」
「なんで?」
「発展するには労働力が必要です。その労働力を確保するために奴隷市場があるんじゃないでしょうか?」
「なるほど……」
メズの言う事は一理ある。人間の歴史もそうだった。
労働力確保のために奴隷とは、どの世界でもやる事は変わらないのかな。
人間って何なんだろうな。
「メズさんの弟ってすごく強いんだね」
「アズは身体能力が高いですから、基本的に何でも出来ちゃうんですよ」
「超人ってわけか」
俺と真逆の存在だ。
何でも出来る身体能力羨ましいな。
生まれ持った才能ってやつか。
なんか何も出来ない自分に泣けてくるな。
「ですが、アズ1人だけで人間大勢を相手にするのは危険すぎます」
「さすがに囲まれたらどうしようもないだろうし」
「よし!メズさん、ちゃんと掴まっておいてよ!」
「え?何ですかいきなり?」
後ろへ振り返りメズを見ると?を至るところに浮かべていた。?を浮かべながらもしっかりと掴まっている。
それを確認してから俺は前に向き直る。
「ゴンザ!スピード上げてくれ!!」
「ガウ!」
俺が命令するとゴンザは待ってましたと言わんばかりにアクセルを踏んだ。
手を離せば落とされるほどのGが全身にかかる。落とされないよう必死にゴンザに掴まる。
「こういう事なら最初に言っておいてくださいよ!」
「言ったじゃん!ちゃんと掴まっておいてって!」
「そうじゃなくて!スピードを上げるならそう言ってくださいってことです!!」
「掴まっておいて、でも伝わるかなぁって思って」
「説明下手ですかぁ!?」
とてつもないGに煽られながらメズに怒られた。
正直、メズの説教を聞いているほどの余裕はない。
少しでも耳を傾ければ体が持っていかれるのだ。
スピード調整が極端すぎるんだよォ!!!
――――――――――
「ハァ…………つい、た?」
「ハイ……つき、ました」
それから何十分経っただろうか。時間なんか忘れるほど強烈だった。
落ちるようにゴンザから降りて、なんとか二足で立つ。周りの景色はさほど変わっていないが、前は違った。
顔を上げると目の前にあったのは都市だった。少し離れたここからも分かるほど栄えた場所だ。
多くの人々が行きかい、活気のある場所である。
ただ、首輪をつけた魔人も見受けられる。人間には笑顔が見えるのに魔人には笑顔が見えない。
「ここがエルーチェ」
「早く行きましょう」
「うん」
ゴンザは近くの森に止まったようだった。ゴンザを置いて、エルーチェに二人で向かう。
早歩きで向かっていたのだが、途中から気付けば走っていた。
「やっと、ハァ……着いた」
「アズはどこに?」
エルーチェに着いたはいいのだが、走ったせいで体力が尽きた。
マジで、異世界ってなんだよ。運動しかしてねぇぞ。体育の時間か?
ヘトヘトになっている俺とは対照的に弟が心配で辺りをキョロキョロとしているメズ。
あれだけ走って疲れてないのか?バケモンか。
「おい、魔人が何の用だ?」
「しかも首輪も無しでよ。もしかして奴隷じゃない?」
「なら俺らがもらって行こうか。いい顔してるし楽しめそうだ」
「やめ……!離して!」
膝に手をついて体力を回復していたらメズがピンチだった。
男複数人に囲まれて、腕を掴まれてどこかに連れていかれそうになっている。
ちょっと待て……息が……ハァ……ダメだ。全然呼吸が整わない。
「シンさん!助け……!」
「あ?何?主人がいんの?」
「手をはなせぇ……」
「なんだよヘトヘトじゃん。俺らの方があんな奴より助けてあげられるし」
「そうだよ。だから大人しくついて来いって」
「あんな奴より俺らの方が絶対……ブヘッ」
「離せって言ってんだろうがよォ!人の話聞けやボケナスがァ!」
十分に体力が回復したところでメズを囲っている男たちに殴り込みに行った。
メズの腕を掴んでいる奴にまず一発。一発でKOした奴を見て周りに他の奴らが目を丸くする。
そして、殺意のこもった視線を一斉に向けてくる。
「カンちゃん!?てめぇ!何してんだ!」
「さきにやったのはそっちだろうが!」
「ふざけんじゃねぇぞ!!ブヘッ」
「ふざけてんのはそっちだろうがァ!!!」
そんなこんなで男ども全員のした。口ほどにも無いな。
よくこれで喧嘩売ってきたな。
「ありがとうございます」
「大丈夫?怪我とかない?」
「大丈夫です」
「良かった」
メズにも何もないみたいで良かった。
胸を撫で下ろしていると近くから爆音がした。
何かが爆発したような音。花火失敗したか?こんな昼間に花火打ち上げるわけが無いか。
じゃあなんだ?市街地で爆破実験?それとも迷惑系〇ーチューバー?
(後者はもはやテロ)
「アズ!?」
「ちょ、ちょっと!」
爆音を聞いてメズが音の方に駆け出して行った。
慌てて後を追う。だけど、メズの方が速くて徐々に距離を離されていく。
速すぎる……あぁぁぁ!!!!!!
こんな事になるなら〇足履いてくれば良かったァ!!!
メズを見失って迷子になりたくない!!!
いい年して迷子センター行きは勘弁してくれぇ!!!!
動け俺の足!!!一生の恥かくぞ!!!
「ハァ……はやすぎ……もうダメ」
「アズ……!?」
なんとか必死に喰らいついてメズの後を追った。
メズが止まったのを見て安心して俺も足を止める。
膝に手をつき、顔だけ上げるとメズの前に倒れてるアズの姿が目に入った。
それを見た俺は勝手に体がメズの方に向かっていた。
「そんな……!アズ!」
「大丈夫、まだ生きてる」
「えっ?」
「
アズはまだ生きている。かすかに鼓動を感じる。
俺は即座に魔導書で読んだ回復魔法を唱える。
すると、アズはのそっと体を起こした。
「んん……ねぇさん?」
「良かったぁ……」
起き上がったアズにメズは涙を流しながら抱き着く。
アズは何が起きているのか分からず混乱しているようで、怪訝そうな顔をしていた。
涙を流している実姉を見て状況を理解したのか、穏やかな表情になった。
「そうか、俺は生きたのか」
「シンさんが助けてくれたのよ」
「シン?」
「あ、どうも。おねぇさんにお世話になってます」
「……!?
人間!?」
アズは俺の方を見ると血相を変えて立ち上がり、距離を取る。
どこからともなくナイフを取り出し構える。
え?一応、命の恩人だよね?ん?俺〇ぬ?
どういう展開?理解出来ないんだけど。
「ねぇさん!そいつから離れて!」
「アズ!この人は悪い人じゃない!」
「まぁ一旦落ち着こうか。お茶でも飲みながら……って飲み物ないや」
「人間の言う事なんか信用できない」
「アズ!」
アズは姉になんと言われようと態度を変えようとはせず俺の方を真っすぐ見ている。
そんな見つめられると困るな。何も出てこないんだけど。
痺れを切らしたメズが俺の前に立った。
「ねぇさん!どいて!」
「どかない!この人は私たちを助けてくれた恩人だから!あなただって助けられたでしょう!?」
「っ!」
メズの言葉にアズは視線を逸らす。俺は蚊帳の外だ。
なんて声を掛ければいいか分からない。下手になにか言って刺激するのは悪手だろう。
結果、何も出来ずただ見ているだけになる。
「いたぞ!こっちだ!」
「マズい!人間がいっぱい来てる!」
にらみ合いの状態が続いていたところで兵士がたくさん押し寄せてきていることに気付いた。
このままじゃ逃げられない。今は脱出しないとな。
「ゴンザ!!!」
「ガウ!」
ダメ元でゴンザを呼んだら建物を豪快に吹き飛ばしながら来た。
来るとは思わなかったけど、嬉しい誤算だ。
「俺が気を引くから、弟と逃げて!」
「それではシンさんが危険な目に!」
「大丈夫!俺人間だし!ゴンザいるし、なんとかなるよ!」
「でも……」
「大丈夫だって!ほら早く!」
俺はゴンザに乗ってメズに催促する。
メズは俺を置いて逃げるのを躊躇っているようだったけど、今は時間が無い。
早く逃げてくれ!
「分かりました。絶対に後で会いましょう」
「分かってるって」
「アズ!こっちよ!」
「ねぇさん!?」
メズは俺たちがやってきた方向へ全速力で走り出した。
急に走り出した姉の後を追ってアズも向かう。
あとは俺が時間を稼ぐだけだな。
メズの真剣な表情を見たら変に緊張してきたな。
「よーし!ゴンザ行くぞ!右だ!」
「ガウ!」
「違う!それ左ィー!!!!!!」
出鼻挫かれた。恰好がつかないよ。
せっかく気合い入れていい感じになったのに!
ぶち壊しじゃねぇかよォ!!!!!!
「あれ?あの子じゃない?」
「んー?あーあの名前が変わってる子ね」
後ろから声がして振り返るとなんか見たことある顔がいた。
見たことある顔は背中から黄金色の翼を生やしている。
趣味わっるいなーどこのどいつだよ。
あれ?その翼どこかで……俺についてたやつか!
で、なんで見覚えのある顔がその翼生やしてんだ?
「君たち誰?」
「誰ってクラスメイトの事覚えてないの?」
「ん?……あ」
見覚えあるなって思ったんだ。
そりゃそうだよな。クラスメイトだもん。
最悪だァァァァ!!!!!!!!
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