「もうすぐ着くと思います」


 「むにゃむにゃ……好きな地名は溜池山王です」


 「あのぉ……?」


 「むにゃむにゃ……好きな方角は北北東です」


 「そんな事聞いてない…………起こしてくれませんか」


 ナビをしていたメズは目的地に近づいてきたため報告しようと後ろを振り向くとぐっすり寝てるシンがいた。

 声を掛けても訳の分からない寝言を言われるだけで会話にならない。

 なので、話を聞いてもらうためゴンザに頼んだ。ゴンザは元気よく返事をすると止まるとシンだけ器用に落とす。



 「なんだこの衝撃。手荒い真似して起こそうとするなよ」


 「寝たい時は生きてりゃ誰にもある。人間だもの」

 

 「ガー」


 ゴンザは未だに寝ぼけているシンに近づくと大きく口を開ける。

 口の中にシンの頭がすっぽり入る。そして、ゆっくり口を閉じ始める。



 「この生暖かい空気。まるで南国。1回でいいからハワイとか行ってみたいなぁ」


 「ん?獣臭い?ハワイってそんな匂いするの?行ったことないから分からないや」


 「いや、そんなわけないよな……目の前が赤い。目から出血してる?」


 「ガウ!」


 「イヤァァァー!!歯並び良いですねぇ!!!」


 ゴンザの口が閉まる直前で俺は首を引っ込めた。ガチン!という豪快な音を立てて口が閉まる。意外にも歯並びが良い。

 そして全部綺麗な歯である。歯科検診であれば全部/(斜線)だろう。

 あぶねぇぇぇ!!

 起こし方がdangerous。非常にdangerous。一歩間違えば三途の川を渡っている。

 別のやり方あったろうがァァァ!!!



 「人って簡単に〇ぬんですよ。分かってます?」


 「私は起こして下さいって言っただけです。ゴンザさんが勝手にやりました」


 「止めようとか思わなかったんですか?」


 「思いません。それで起きるなら」


 あーあれだね。あれ。限界が無い人だ。結構怖いタイプだね。

 超えちゃいけない一線を超える人だ。手段を選ばないやつだな。

 これじゃゆっくり眠れないよ。こんな人と獣が近くにいるんだもの。

 


 「はぁ……それで何ですか?」


 「もうそろそろ着きますよ」


 「本当ですか。そんなに寝てたかぁ」


 「あと少しゴンザさん。お願いしますね」


 「ガウ」


 ゴンザは調子良さそうにメズに答える。俺が乗った事に気付いてすらいない様子だった。

 いつの間にかメズとゴンザの仲が良くなってない?

 俺が寝てる間に何があったんだ。何があったらすぐに俺の事を食べようとする危険生物と仲良く出来る?

 

 

 「ウフフ」


 「ガウ」


 メズは目を細めて楽しそうに笑う。ゴンザの方も目を細めて嬉しそうにしている。微笑ましい雰囲気だ。

 メズとゴンザがまるで会話をしているようだった。メズにはゴンザの言葉分かるのかな。

 なんて言ってるのか俺も気になる。翻訳してもらおう。



 「ゴンザは何て言ってるの?」


 「ウフフ、全く分かりませんよ」


 「あはは、そうなんだ……って、え?」


 「はい?」


 「楽しそうだったから言葉が分かるのかと……」


 「分かるわけないじゃないですか。雰囲気ですよ」


 メズはにこやかな顔で軽々と言う。

 恐るべし。全くの想定外の域にいた。

 雰囲気で会話って出来るのか。高度なテクニックだ。

 


 ――――――――――


 「ここです」


 「ほう。一見、ただの洞窟にしか見えないですね」


 「派手だと見つかりやすいですからね」


 「カムフラージュのためか。悪党も色々考えますなぁ」


 敵ながら感心した。アジトを隠そうとしているという事は自分たちのやっている事がマズい事だと自覚しているのか。

 自覚があって悪事を働いているのだから胸糞悪い話だ。人間誰しも清く正しくは生きられないのだろうか。

 まぁ無理か。俺も授業中に消しゴムのカスを地面に捨てたし。悪事のレベルが低いか。



 「気付かれないように音を立てずに行きましょう」


 「はい。分かりました」


 俺たちはゆっくりと慎重にアジトの中に入っていく。壁に火が灯されてるおかげで、そこまで暗くはない。

 ゴンザがいると俺が死にかけるので入り口に待機させている。

 石などが多いので踏まないように気を付けて進む。

 中ほどまで来たところで事件は起きた。



 「パタパタ」


 「うわぁぁぁ!!!」


 突然コウモリが顔に当たったのだ。びっくりして思わず大声を上げてしまった。

 でも、無理でしょ。いきなりコウモリは。誰でもびっくりするからね。



 「大きな声上げないでくださいよ!気付かれるじゃないですか!?」


 「痛ったァ!?しょうがないじゃん!いきなりコウモリは無理だって!!」


 大声を上げたことにメズが怒り、俺の頭を叩かれた。めちゃ痛い。

 顔にコウモリ、頭に平手。何の天罰でしょうか?

 コウモリはまだしも、平手はおかしいだろぉ!!!



 「さっきカブトムシ見たんだよ」


 「ありゃゴキブリだって」


 メズと言い合いをしていると奥から声が聞こえてくる。

 ヤバい!気付かれたか!?

 早く隠れなきゃだけど隠れる場所が無い!



 「あぁ?なんだぁ、あれ?」


 「ありゃ二足歩行したゴキブリだろぉ」


 「んなわけねぇだろぉ。お前の目は節穴かぁ?どう見ても二足歩行したカブトムシだろうがよぉ」


 奥から聞こえる声が段々大きくなって人影が見えてきた。

 男二人が何か話しながらこちらに来ていた。だが、様子がおかしい。

 足元がふらついてるし、酒臭い。酔っぱらってんのか?

 男たちは俺の事を指差して、言い争いを始めた。ゴキブリだカブトムシだ失礼だな。どっちも違うわ。

 会話がおかしい。なんでこの内容で通じてるんだよ。



 「ありゃゴキブリだって」


 「違うわ。カブトムシだわぁ」


 男たちは俺が何かの虫だと勘違いしたまま通り過ぎて行った。

 何だったんだ?何も無かったから良かったけど、虫扱いされたままなんだよな。複雑だわ。

 調子狂うなぁ。緊張感無いなぁ。



 「何だったんでしょう?」


 「さぁ。先進もうか」


 お互いに困惑しながらも先に進む。

 色々な事に気を付けながら進むと広い空間に出た。

 入った瞬間、眩い光が部屋全体に灯った。

 あまりの眩しさに目を手で覆う。



 「何だここ?」


 「良くここまで来たな」


 声のした方を見ると、上のフロアに仁王立ちして不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。

 男の周りに部下らしき人物が何人もおり、こちらも不敵な笑みを浮かべている。

 バレてたぁーやっぱバレてたぁー

 そりゃバレるよねぇー

 


 「魔人も一緒にご苦労だった。大人しくしろよ」


 「みんなはどこにいるんですか!?」


 「大人しくしてくれれば会わせてやるよ」


 大人しくすれば捕まる。そんな事する訳がない。

 俺はメズの仲間を助けに来たんだ。

 


 「そんな事する訳無いだろ!」


 「そうか……なら力づくで行かせてもらう!」


 リーダー格の男の声に俺は身構える。

 メズにも気を配らないとな。



 「おい、あれだ」


 「へい」


 リーダー格の男が部下に何かを伝えると、部下は奥から何かを取り出してくる。



 「バズーカ!?それはやり過ぎだろ!」


 部下が持ってきたのはバズーカだった。それも周りにいる人数分。

 バズーカの砲口が全て俺に向く。これ全部喰らったらひとたまりもないぞ。

 いきなり火薬かよ!飛び道具は無しだって!



 「撃てぇ!」


 リーダー格の男の合図でバズーカが放たれた。

 俺は咄嗟に顔を腕で隠す。早かったな。俺の人生。

 終わりを悟っていたが、数秒後に来たのは柔らかいものが当たる感触。

 不思議に思って腕を見ると白いフワフワした物がついていた。

 なめてみると甘い。これ生クリームか?

 なんでクリーム砲になってるんだ?



 「おい。なんだあれ?」


 「いやぁ、今日ってボスの誕生日じゃないですか。だからバズーカの中身、クリームに変えておいたんです」


 「そうか……ありがとう。ってバカ野郎。なんで火薬抜いてんだよ!しかも全部クリーム砲って頭おかしいのか!?」


 「全部の方がサプライズ感出ると思いまして」


 「全部クリーム砲にしたら使い物にならねぇじゃねぇかよ!何のためのバズーカだと思ってるんだよ!」


 どうやら、部下が勝手に火薬を抜いてクリーム砲に変えたみたいだ。

 敵ながらリーダー格の男には同情する。全部はやってるな。

 俺にとってはラッキーだったけど。


 

 「バカじゃん」


 「クソ!お前ら敵にまで馬鹿って言われてるぞ!」


 「でも大丈夫です!ボスの分のバズーカもあります!」


 「早くそれよこせ!」


 「はい!こちらです!」


 「フハハ、残念だったな!まだあるんだよ!バカはお前だ!」


 ボスは部下から渡されたバズーカを手に取ると高笑いをして砲口をこちらに向ける。

 まだあんのかよ!一個だけなら何とかなるか!?

 俺はまたしても顔を腕で覆う。

 後出しは聞いてないよぉ!!



 「ん?」


 「ん?」


 何も来なかった。パァーンという音は聞こえたものの何も来ない。

 顔を上げるとカラフルな線が砲口からいくつも飛び出していた。

 バズーカ……じゃなさそう。



 「クラッカーじゃねぇか!何がバカだよ!こっちがバーカじゃねぇか!?」


 「「「ハッピーバースデー、ボス!!!!」」」


 「ありがとう。涙出てくるよ……ってバカ野郎。悲し涙出てくるわ!何やってんだお前ら!!!」


 東名高速かよ。色々渋滞し過ぎだ。

 何がしたいんだよ。てか、何なんだよこの状況。

 ただの混沌カオスじゃねぇか。



 「用途がちげぇんだよ!バズーカの中身を勝手に変えるな!!」


 「次回からクリーム砲買います」


 「買わんでいい」


 「クラッカーも買ってきます」


 「買わんでいい」


 「誕生日プレゼントも買ってきます」


 「買わんでいいって言っ……!?」


 リーダー格の男が部下と言い争いをしていると奥から突如現れたフードを被った人物に首を斬られた。

 男の首がボトっという音を立てて地面に落ちる。斬られた箇所からは血が噴き出し、地面を赤く染めた。

 一瞬の事で気を取られ、この場にいる全員が動けなかった。



 「てめぇ!?よくもボスを!」


 「ふざけんじゃねぇ!!!」


 1人の部下の怒りの声で次々に部下たちがボスを殺した人物に向かっていくが、全員返り討ちにされた。

 何者なんだ?あれだけの人数を返り討ちにするなんて。



 「あれは魔人……!?」


 賊を全員片付けた人物はフードを脱ぐ。その中に見えたのは褐色の肌に白髪。魔人の姿だった。

 上のフロアにいる魔人を見たメズの目が丸くなる。



 「アズ……!?」


 「……!?」


 「誰?」


 「私の弟でアズです」


 賊を返り討ちにしたのはメズの弟のアズだった。ここにいたか。

 弟が無事で良かった。それにしても弟強いな。



 「…………」


 「ちょっと!どこに行くのよ!?」


 「……助けに行く」


 「待ちなさいよ!」


 アズは驚異的な身体能力で上のフロアから軽々降りてくると俺たちを無視して出口に向かおうとする。

 メズが呼び止めるも一言だけ言い残して去って行ってしまった。

 アズの後を追うが、あっという間に視界から消えていなくなってしまった。

 視界からアズが消えて、俺たちは立ち止まり肩で息をする。

 速っ!全ッ然追いつかない。エンジン積んでんのか?

 


 「アズ……!」

 

 「メズさん……!ハァ……ハァ……今はここに囚われてる人たちを助けましょう」


 「そうですね……」


 アズをまだ追おうとしているメズを腕を掴んで止める。

 息を整えてから誰もいなくなった洞窟の奥へ進む。



 「ここに捕まってたのか」


 「誰もいない……」


 「助けに行くってそういう事か」


 奥へ進むと牢屋がいくつもある場所に着いた。だが、牢屋の中には誰もいなかった。

 すでにどこかに連れていかれた後だったみたいだ。

 アズの言っていた「助けに行く」というのは連れていかれた仲間を助けに行くという意味か。

 なら、早く後を追わないと!



 「シンさん!早く行きましょう!」


 「はい」


 俺たちは急いで洞窟から抜け出し、ゴンザに乗ってアズの後を追った。

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