第21話 一長一短
アザールは、兄として弟の初恋なるものを応援してやりたいし、自分の不始末で人生を変えてしまった部下の幸せも願っている。
しかし、これは両立しない。
思う相手が同じであるためだ。
しかも、話を聞くと手遅れ感があった。
相手の女性は元々結婚する相手を探していた。自分の問題を解決するにはそれが必要だったから。チャンスが転がっていたのだ。それなのにぐだぐだ言っているうちに、本人が問題を解決してしまった。そここそがつけ入る隙だったのに。
問題が解決した結果、彼女には好意以外で結婚する理由がなくなった。
むしろ下手な相手との縁談は彼女の望みを潰すことになるだろう。
そのため、未婚のほうが都合がいい面もある。
王家としてはどこかの家につながるよりは爵位をあげて、婿もらってくれないかなという意向である。
言いはしないが、どこかで文化に対する貢献ということで叙勲されるだろう。
今まで文化的貢献というもので叙勲が行われたことはない。それ専門の勲章などを与えられることやお墨付きなどはあったが、貴族の内に入れようとはしなかった。
職人のようなものは我々とは違うと言う認識があった。
アザールも聖女に指摘されるまでは気がつかなかったのだ。知らずうちに下に見ていた。そのことに自分でも動揺し、いつもの鍛冶師のところにいって、軽んじているわけではないからな、と宣言してしまった。
もちろん、怪訝そうな顔で見返されただけだったが。
彼女が爵位を得て、婿をもらう場合、弟が選ばれることはないだろう。爵位の釣り合いが取れないし、社交もやってもらわぬば困る立場だ。臣籍に降りてもそれなりに役割はある。弟がもし、しなくてもいいと言っても周りが許さない可能性は高い。
結果、彼女の望みから遠く離れてしまう。
彼女からしたら条件が悪すぎる。好き嫌い以前だ。
婿になるならあの弟子たちのほうが都合がいい。彼らは元々はそういう意図も含んでいたはずだ。しかし、いまでは立派な弟子になっている。師匠の恋人? 冗談でしょ? という感じだ。
そうなると元部下が一番手ごろであるが、あれもな……と思うところがある。
元部下は怪我をしたことが原因で婚約破棄をされた。それから微妙に女性不信だ。年上なんだから相手にされるわけがないという認識がいつまでも抜けなかったのもそのあたりが原因だろう。
そうじゃないと気がついたときにはもう遅かった。もう、都合のいい言いわけをさせてはくれない。
弟の成長と元部下が覚悟を決めるのではどちらが早いだろうか。
現時点では振られそうだな弟よ、といったところだ。個人的好意はさておいて、条件に合わなすぎる。
生まれが原因なのはさすがにかわいそうな気がして少々手を回した。狩猟の森に行くように仕向けた。少しぐらい楽しい思い出を作ってもいいだろう。
少々元部下に恨まれるかもしれないが、そこは大人の余裕で流してほしいものである。
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