第13話 半端な世界の


 田舎というほど田舎でもなく、都会といえるほどでもない地方都市に生まれ育った。

 田舎の価値観を知らないほどでもないが、都会の良さを知らないほどでもない。

 曖昧で、どちらにもいい顔をして、何にもなれないような十年だった。気がつけば、行き遅れと言われるような年で故郷にも帰りにくい。

 しかし、良い仕事があるわけでもなかった。


「急募」


 その募集の張り紙を思わず口にしてしまった。

 王都のど真ん中に出来た菓子店の窓にどーんと張られていた。もう貼られて時間がたっているのか少し変色しやや破けている。

 目立つ場所に貼られているのに今まで気がつかなかった。

 少し視線をあげて中身を確認する。


「職人になりたい筋肉系女子を求む?」


 筋肉系? と首を傾げて窓の中を見れば黒髪の女性がきびきびと働いているのが見えた。その背景にごつい男性たちがいるのも。可愛いと言えるフリル付きのエプロンと白い帽子が揺れる。


「……なにここ」


 これが私とその店との出会いだった。


 店の名前はローゼンリッター。

 王都に出来た超有名菓子店だ。王家ご用達であることもそうだが、店主が女性であることが一番の理由かもしれない。

 雇われ店主でもなく、正真正銘店の主で経営者。慣例も前例も無視した店はすぐにつぶれるだろうと言う噂だったが、現在も盛況である。

 先日、急に休みになり、店主が倒れたのかと心配されていたらしい。それ以降、弟子候補が増えたそうだ。店主の助けになりたい善意が半分、弱っているなら付け込めるだろうと言う悪意が半分といった具合らしく、どちらもめんどいと言っているらしい。


 というのが、店頭で張り紙を見ていた私にしてくれた話である。


「開店当初から張ってあるんすけど、誰も来てくれないんすよね。面接すらゼロ」


 嘆く長身の店員。私の頭半分くらい背が高い。意外と大きいと言われがちな私よりもである。

 店内を改めてみると背も高い人が多い。


「張り紙の位置、高すぎません?」


「へ?」


「私、わりと背が高いからいいですけど、普通の女の人の視界に入らないと思いますよ」


「なんだってっ!?」


 慌てるごつい店員。ばたばたと店内に駆け込みあれこれ言っているのが見えた。

 そして、店主が店の外に視線を向ける。なにか、目があったような? と思っているうちに、さっき話をしていた店員にさあどうぞと店内に案内された。


「え? あ?」


 戸惑ううちに案内されたテーブルの上にお菓子が積まれた。


「さて、いつから来てくれますか?」


 面接も何もかもすっとばして、働くことになっていた。


「……あれ?」

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