第11話 年下の。
「そういえば、この間街でかわいい子連れてたけど、姪っ子とか?」
食事を届けに行けば元上司に素で聞かれた。嫌味でもなく、素の勘違い。
町にふらっと遊びに行かないでくださいと苦言を先にいべきか迷ってやめた。不毛なやり取りなのはもう何年も前から知っている。
だから勘違いだけ訂正しておく。
「……違いますよ。話は聞いていると思いますが、例の菓子職人です」
「ああ、……は?」
「いつもは可愛い娘さんですよ」
いつもは、とつくのは、厨房の彼女は悪魔将軍くらい怖いからだ。そして、その怖さは厨房から広まりなぜか彼女は怖い大女ということになっている。
もちろん、厨房に入ったら大きくなることはないが、なにか威圧感があるのは確かだ。最初、どこかの刺客でもやってきたのかと思ったくらいである。何かあったら取り押さえるべきか? と観察していたが、何回か見た後に無害だと放置することにした。
ところが、なぜか、興味を持たれた。
「いや、そっちもだけど。なんで、連れ歩いてんの? え? デートだった?」
「違います。
食材の買い出しのときに荷物持ちをお願いされました。
礼に食事をおごってもらったりしますけどね」
一人で並ぶのも寂しいのでと有名店の行列に並んだりもしたが、それも手近な男手として活用されただけだろう。
独身だとか、恋人の有無とか確認されたが、それは、心置きなく使い倒してもよいかという確認に違いない。
「荷物持ちなら弟子がいるじゃないか」
「弟子ができる前からの付き合いでした。そう言われてみれば、ほかにいるならもう付き合わなくてもいいんですね」
「わ、悪かった! そ、そう言う意味ではなかったんだ」
「なにが、ですか?」
「別に好きに出かければいいじゃないか。普通に、デートだろ」
「そんな勘違いしませんよ」
元上司に何とも言い難い表情で肩をぽんと叩かれた。
「姪っ子とかからかって悪かった。あんな若い子ひっかけるなんてと思ってさ」
「ですから、違いますって」
「いやいや、あれはその気のある態度だったぞ」
「十も上の男なんてただのおっさんです」
「婚活と焦った女が、ただのおっさんとデートしない」
「……そ、そうですね」
指摘されるまで考えたこともなかった。いや、考えないようにしていた。
その気がないと早めに断ることも大事ではある。年の差もあるし、もっとふさわしい人がいるだろう。年下でも良ければ、殿下も乗り気のようだから。
それならなおさら。
「……なんか、不満そうな顔だな。じゃあ、私が代わりにデートでもしてこよう」
「既婚者はすっこんでてください。出禁されますよ」
「じゃあ、奥さんとデートしてこよう。お忍びデート」
ご機嫌そうな第二王子を放置して帰ることにした。あれの面倒を見るのはもう俺の仕事ではない。あれから10年もたっているのだから。
「売り込んであげるよ。いいやつだってね」
後ろから掛けられた声に思わず返事をしてしまった。
「それはもう言われてます」
いいやつって普通は、対象外ってことじゃないのか?
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