第10話 原点回帰のオムライス

「はあ!? 私のほうがうまいに決まってるでしょ」


「まあ、姉さん、慢心してますのね?」


「なんですって!」


「いいでしょう。勝負です」


「受けて立つわ。私こそが最強と思い知らせてあげる」


「ふふっ、負けフラグのセリフですよ。

 三日後にこの店で」


「わかったわ」


 というわけで、三日後にオムライス勝負が決まりました。





 平和な日本という国からなんかの事故で異世界召喚された従姉と私。それから四年、なんとかこの地でバタバタな日常を送っていた。


 昨年は聖女様に発見され、王様にも見つかり、知らないうちに弟子一ダースと店と経営権とお墨付きをもらい大変なことに。

 姉さんも姉さんで事務員的書類仕事をしていたら、お役人に目を付けられ指導していたらぜひ王城にと誘われていたらしい。断ったと事後報告がきた。 


 そんな感じな去年でしたが今年は平和だったはず。さっきまでは。


「……そんなまずい話題だったんですか?」


 呆然とした顔で言いだしたのは、最近出入りするようになった八番目の王子様。六番目の兄が私の弟子なんかになっているせいで、顔を出しているようだ。同胎の兄弟ということは先週くらいに聞いた気がする。


 元王子、現何とか伯兼弟子は苦笑している。この話は、私たちが召喚されたときまでさかのぼる。その時の話は語り草になっているらしい。

 私たちが最初に召喚されたとき、私と姉さんはオムライス対決をしていたのだ。

 その時に持っていたフライパンと皿とオムライスを持ったままである。なお、そのオムライスは無限オムライスと言う謎の物体になって現地に残されている。食べても無くならないって怖くない!? と我々は食べていないが、それなりにおいしいらしい。チャレンジャーな錬金術師にあきれるばかりだが、今では肝試しとか勇気を試すとかそういう使い方をされているようだ。


 この世界に米があるかといえば、ある。

 ただ、お米どころで育成された我々を満たせるものではなかった。私、某美女の名前の米を信奉していて、姉さんは某お姫様を熱愛。家で使う米は五キロ使い切ったら入れ替え制だった。

 そんな我々からしたら、お米、まあ、お米とそっと目をそらしていた。もちろん、オムライスなんて作ってなかった。

 ところが、火種をぶち込んだのがこの八番目の王子様。


「おむらいすっておいしいんですか?」


 普通のかわいい質問だった。


「おいしいわよ。オムレツを上にのせて、半熟のうちに崩して」


「いえいえ、古式ゆかしくロールですよ。ロール。美しく巻くことが、腕の見せ所」


「あら、でも、ビーフシチューをかけるのもおいし」


「ケチャップ一択では?」


 この辺りでもう雲行きが怪しいどころじゃあなくなり。

 オムライス対決三日後と相成ったわけである。


 私のほうが喧嘩を売っているように聞こえるかもしれないが、そうかもしれない。


「世の中には譲れない嗜好というものがあってね」


 まだ幼さの残る王子様の頭をぽんぽんと撫でた。うむ。早く成長せよ。それで私を嫁にとかいわないかなぁ……。私、マジで婚期を逃しそうなんだ。肩書がつきすぎて並の男が逃げていく。

 昨年知り合った王城のシェフとはいい感じの友人でいつまでも友人……。なぜだ。


 いっそ結婚してくれと攻めてみるとか? ありか?


「決めた」


「なにを?」


 怪訝そうに見てくる兄弟に秘密と伝え、シフト表の見直しをすることにした。

 勝負には胃袋を借りないと。



「お久しぶりですね。巣を出てくるの珍しい」


 三日後に姉さんは一人ではなく、ツレがいた。老人扱いすると怒る学園長と寄宿舎の武術系教師と錬金術師。この三人も出てくるのはかなり珍しい。


「補助金の話があるという話でな。ついでに昼食を」


「ジャッジはしないという約束だから悪しからず」


「うむ」


 ご飯処にされてしまった。まあ、背後に弟子をそろえている私が言えた義理でもないが。なにせ、数を作るから自分たちで食べるのは飽きるんだ。


「じゃあ、はじめましょ」


「そうですね」


 オムライスの原料は色々あるが。


・卵

・牛乳

・バター

・ライス(チキンライスやピラフなど)

 ※ソースはお好みで


 このあたりがスタンダードだろうか。牛乳入れない人もいるが、卵の固まり具合が違うので私は入れている。生クリームもよいけど使い切れないともったいないので常備している牛乳がいい。

 ライスは悩んだ末にチキンライスを。目指すは喫茶店系。


 姉さんも用意する材料の布陣は変わらない。味付けの細部が違うとか言う話。姉さんは焼きケチャップとかし始めるので流行り寄りという感じ。あるいはファミレス系。


 卵を溶いて牛乳を入れて、バター入りのフライパンでじゅーっとやる。たまごが固まる前にかきまぜるのがコツではあるがやりすぎもやらなすぎもよくない。

 まとめる前にライスを入れて包む。


 ちょっと皺が寄っているのが気になるけれど、可もなく不可もないオムライスが出来上がる。

 続いて姉さんもオムレツを作っているけれど、納得のいく出来上がりではないようだ。


 黙々と卵を焼いていく。結果物はギャラリーが勝手に食べていっている。


「母さんが、よく作ったのは薄焼き卵巻きで」


「あ、うちもそう。姉妹で同じことしてるっていうか、おばあちゃん直伝かな」


「でしょうね……。あれがおうちの味というやつで」


 しかも中身がチャーハンで。アレをオムライスと言えるのか。


「……なんか、食べたくなりますね」


「そうね」


 異界に来て四年。戻れそうもないというのはわかっていて。諦めてこの地で生きる気持ちの結果が婚活だったりもするので。


 最後のオムライスは薄焼き卵巻きだった。


「これはこれで」


「お客さんには出せませんけどね」


 おうちの味。

 わりとうやむやに勝負は終わりました。


 というわけで勝ったらしようとしていたことは延期。ほっとしたのか、つまらないのかはわからないけれど。


 ついでの報告と言う話で、錬金術師と姉さんの婚約の話を聞きました。まあ、お付き合いしてないのが嘘だろみたいな生活してたので妥当なところ。むしろ、ほかの男紹介されたら腰を抜かすわ。

 そんな、御一行様を見送って私は伸びをした。


「さて、明日からもびしばしと働くか」


 今しばらくはお仕事が恋人で行こうかと。諦めで婚活とかいうのも失礼な話ではあるので。

 別に困ってないしというところが大部分をしめているのだけど。


 あのフライパンから繰り出されるオムライスがすごいという噂が、いつしかフライパンがと噂されることになるとはこの時は知らなかったのである。

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