第2話 敵か仲間か
俺は殺気の溢れたユウジを前に、しっぽを巻いて逃げ出した。今のままじゃフツーに勝てん。とりあえずどこかに隠れねえと。
両手をぴったりと足に付け、頭をぶんぶんと左右に振りながら逃げるが、華奢なユウジ君では俺に追いつけないらしい。遅いね〜。
大通りを真っ直ぐに逃げていると、細い路地から聞き慣れた声がした。
「こっちです稲村さん! 早く来てください」
誘われるがまま路地裏に逃げ込む。そこには地下へと続く階段があり、ブロッコリー頭は廃れたビルへと俺を誘った。
「はあ、はあ……着きましたよ稲村さん」
中は思ったより広いが、同時に暗くもある。見知らぬ面々に俺はコミュ障を発揮しつつも、ウッス、と頭を軽く上下した。
「なんで知らない人なる者を連れてくるのですか?」
「すみません諏訪さん……稲村さんとは一応知り合いで、逃げているところをみて放っておけなくて」
「貴方なる者の事情は聞いていません。そいつはアナライザーの擬態なる者かもしれないのですよ? 貴方なる者はそれを分かっていて――――」
「カノン、そこまでにしなさい」
天使のような声だ。だが、暗くて顔がよく見えないからなんとも言えんが。ブスかもしれん。
「それに、私たちだってアナライザーである可能性は捨てきれないでしょ。むしろ、ここに6人もいるんだから1人くらいアナライザーでもおかしくないよ」
「ヴロォォォォォォォッサムッッッッッ! その通りだぜ諏訪ァァァ!」
天使と巨漢に諭され、諏訪と呼ばれる少女は何か言いたげな様子でもじもじしている。
「いや、でも……」
「心配する気持ちはわかるけどね。でもここは、一旦落ち着こう」
「ま、そういう事だ。なんなら諏訪、俺が今ここで"否定"してやってもいいが?」
細身の長身の男を中心に、バチバチと電撃が流れる。その風貌は、まるで将棋部に入りつつ教室で小説を書いていることを自慢するがみんなに無視されて心を閉ざしてしまったようなこじらせ中学生のように見える。だが、諏訪のあの怯えよう……実力者であることは確かだ。
「ありがとうございますみなさん……。外人さん、電気お願いします。まだお互い名前くらいしか知らないですし、とりあえず自己紹介でもしておきましょう」
部屋の照明が点き、全員の顔面が露になった。
右からブロッコリー頭、巨漢、超絶美人、こじらせ中学生、根暗少女。
順番通りに自己紹介が開始した。
「あ、俺からいきます稲塚さん。俺は本部コウヤ、階級はオームです」
「アサガオッッッッッッ! 俺は輝波クリス! クリスって呼べェェェェェエ!」
「私は前水カスミ。なんて呼んでもらっても構わないよ」
「……天川セイジ。セイでいい」
「私なる者は諏訪カノンなる者です。よ、よろしく」
「稲村ソウヤっす。誕生日は一月七日、イナの日って覚えてください」
牛みたいな笑い方をしてしまったが、こいつら全員俺よりも不細工だから良いだろう。いや、前水さんの前でみっともない姿を見せてしまったのはマイナスだったが。
「自慢じゃないが、一応俺はクーロンだ。だから付近にいるバランの生態情報を瞳に与えられている」
そう言うと、セイはこめかみに人差し指を当て、地面に地図のような物を映し出した。
そこに載っていたのは高輪にいる生存者、そして死亡者のリスト。前者が28名で、後者が8名だ。
「な、もう8人も……!? 私なる者の友人なる者、マキトだけでは無かったんですね……」
「そうだ。夜富、武岡、永田、緒方、石川、三木、前田、小林。尊い犠牲たちだった」
「聞いたことのある名ばかりだぜダンデライオン! 最悪、生存者の28人の中にまだ5体のアナライザーがいる可能性があるってことだろサンフラワー? 骨が折れそうだぜトウチュウカソウ」
「そうだよ」
骨の髄まで肯定が響き渡る。やはりクーロンは発言一つですらこんなにも重みを感じるものなのか。
ってか、クリスの語尾はなんなんだ。
刹那の沈黙の後、前水さんは天使のような唇を動かした。
「……即席だけど、一応私たちはチームだからね。これ以上犠牲者を増やさないためにも、協力してアナライザーを見つけ出そうよ」
「そうしよ」
俺が一番最初に返事をした。このボクがッ!
「そうと決まればここに居ても始まりません。稲村さん、とりあえずみんなで他の参加者を探しに行きましょう」
「待ってコウヤ。闇雲に人と出会ったとしても、誰がアナライザーなのかわからないんじゃない?」
「それなら俺に秘策があるぜチューリップ。方法は教えられないが、任せておけトリカブト」
「頼もしいなる者ですねクリスなる者さん……!」
諏訪をはじめ、本部や前水さんはクリスに羨望の眼差しをむけている。
なぜ方法を教えられないのかなぁ? クリスの言葉に疑問を持っているのはボクだけか〜? まあ前水さんが良いなら俺もいいけど。
……いや、セイも疑ってるみたいだな。
続々と地上に出ていくメンバー。俺とセイが最後に残ったが、俺は前水さんに着いていくと決めたんだ。
可愛いよ〜〜〜〜。
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