ショック・シビリティ
今際たしあ
第1話 アナライザー
『各務防衛機関に告ぐ。東京都某所にて、アナライザーの出現を確認。具体的な位置は現在解析中』
校庭のスピーカーを介し、学園内に響き渡る警報音。
若い女性の声で告げられたそれは、一般の生物とは異なる電磁パルス・通称"電値"を体内で発生させることのできる特殊人類である、バランにとって出動を要請する物だ。
この俺、稲村ソウヤも例外ではない。学園に在籍する全ての生徒は、個体差こそあれど誰もが電値をその身に擁している。
はあ、またボクの出番……かな。
不細工だが並びだけは綺麗な白い歯を覗かせると、スピーカーからは再び雑音と共に女性の声が流れた。
『出現地点、解析完了。各員、東京都・高輪ゲートウェイ駅に直行せよ』
やれやれ、みんなボクが殺しちゃうよ〜。
丈に合わない学ランのホックを開け、腕を胴体にぴったりとくっつけつつ頭を左右に揺らして学園を後にする。
チームや作戦なんて関係ない。手柄を立てるのは強力な個の力――――いや、ボクの力だ。
◇◇◇
電車は既に運行を停止しており、俺は電値を使いリニモのように線路上を滑って高輪ゲートウェイ駅へと向かった。しかし、目的地を前にしても戦闘の様子はおろか、アナライザーの姿すら見つからない。
本部が出現地点を読み違えた……? いや、それはありえん。他の学生たちや隊服を着たベテランのバラン達も続々と集まってきている、とりあえずは様子を見てみるしか――――うん、暇だな。
ため息をつき、二次元アイドルアプリを開こうとしたその時だった。
「アーーーーー低学歴のオマエらはツライネエ!」
アナライザーの醜悪な叫び声が強力な電磁パルスとなって辺りを包み込み、反応する間もなく俺たちは飲み込まれていった。
俺、死んだ?
苦笑いを浮かべ、自分自身に問いかける。いや、黒い稲妻に飲み込まれただけだ。まだ鼓動を感じる。今、怒りを感じるよ。
かっこいい部位と言われて調子に乗ってしまった原因である目をうっすらと開く。そこは高輪ゲートウェイ駅。しかし、何かが違う。高輪ゲートウェイ駅を中心とし、俺たちを囲むように巨大な円が出来上がっている。
閉じ込められたってことか?
強力な電磁波のせいで、空からも出ることが出来ない。
途方に暮れていると、背後から汚ねぇダミ声が話しかけてきた。
「おい稲村、不細工がこんな所で何してんだ?」
「うい〜ユウジ、オメエ酷すぎだろ。てかお前もブスじゃねえか」
細身で不細工の鈴木ユウジと、頬エラメガネの武岡リョウだ。俺たちバランは電値の総量や実績により
一応言っておくけど、俺はリョウより普通に強え。だから最下層のカス共が気安く話しかけるなよ、という対人バリアを張った上で俺は軽く手を上げた。
「ウッス」
「ウッスじゃねーよブス。どうなってんだよこの状況」
「あ? そんぐらい自分で考えろ。どう考えてもあの気色悪ぃアナライザーのせいで高輪に閉じ込められたんだろ」
「暴言厨キモイね〜」
周囲にも、俺たちと同じく状況を飲み込めていない奴らが彷徨いていた。片っ端から潰すぞ〜?
「だったらアナライザーのやつをぶっ殺しちゃえばいんじゃね。よゆーだろ」
「俺はな。アンペア如きがしゃしゃんな」
「フツーに早く帰ってゼリア行きたいからさ、さっさと倒して帰ろうぜマジで」
ゼリアは近所のファミレスのことだ。
舐め腐った態度を取っていた、その時だった。
脳内に直接、先程のアナライザーの声が響く。
『アーーーーーカワイソウダネエ! ボクらは既にキミたちバランの中に紛れ込んでイルヨ! 底辺のキミたちにヒントをアゲチャオウカネエ、ボクは全部で5体! ボクらを全員殺すか、キミたちが全員死ぬまでこのフィールドは解除されないカラネエ!』
くそ、寄りによって擬態タイプのアナライザーかよ。こいつは骨が折れそうだ……が、まあこのボクが全員殺しちゃえば問題ないぞ〜?
気づかれないよう、2人に視線を送る。おや? もしかしたらこいつらも同じこと考えてるか?
「……武岡ぁ」
「あ? なんだよ」
ユウジは体にバチバチと電撃を纏った。
「死ねブス。Wi-Fi・デーモンッ!」
空中に飛び交っている無数の無線が、有線となって悪魔のようにリョウに突き刺さる。その姿はさながら、ウニのようだ。ユウジの能力は体の大きなアナライザーにはほとんどダメージが無いが、人間相手には即死になりうる殺傷力を持つ――――そうか、俺はこれまでの知識を塗り替えなくてはならない。階級はあくまでアナライザーに対する個々の能力の指標。しかし対人となれば、階級は大きく変化する――――
今のユウジは上位層、J級のバランと言っても過言では無いだろう。
「武岡はアナライザーじゃなかったぽいな。じゃあ稲村、死んでもらうわ」
旧友に対する血も涙もない発言。これは俺も腹を括らなきゃいけないらしい。
「殺しちゃうよ〜〜〜?」
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