ドラマーIN US#5サニーサイド2

矢野アヤ

第2話 崖っぷちを歩く

 Rの母親のジェニファーは、ドラムのレッスンを続けた。息子Rが収監され、警察官のご主人と別居した後も。椅子に座ってもただ泣くだけの時もあれば、お酒の匂いをさせて来る時も多々あったと、ドラムを教える夫は言う。

 Rの収監後に、Rと高校時代のガールフレンドの間に、娘、ライリーが生まれた。ガールフレンドとその家族、そしてジェニファーが週交代で引き取り育ててきた。ライリーが一歳を過ぎると、レッスンに連れてくるようになった。初めはジェニファーのひざに座ってドラムを叩いていたライリーも、最近は自分で椅子に座って叩けるようになっていた。

 ジェニファーは、Rが収監されて二年が過ぎる頃には、地元のブルース・ジャムに参加し演奏するまでに、元気を回復していた。自分やライリーが演奏する写真やビデオを、FacebookやYouTubeに載せ始めた。

 日本だと、まだ裁判の続くこんな時に、不謹慎だと言われるのではないかと思う。Rから違法薬物を購入し亡くなった中学生の家族や友人たちの目に止まったらと、心配した。でも、S N Sのコメント欄には、友人、知人たちからの温かい言葉しか見られなかった。改めてアメリカで生きることの、厳しさと温かさを思った。

 皆が崖っぷちを歩いているようなものかもしれない。我が家も、もし突風が吹いていたら、足元の崖が崩れ落ちていたら、今はなかった。人にも神にも、ただ、守られて来たのだと思う。

 だから、だれも責めないのかもしれない。だれも、責められる立場にないことをわかっている。親戚や友人を探せば、同じような状況の人がいるかもしれない。そして、誰かを責めることに、何の解決もないことも。

 ジェニファーが、自分の人生を取り戻したかに見えた頃、また痛ましい事故が起こった。預け先で、その家にあった薬を誤って飲んだライリーが、救急搬送先の病院で亡くなったのだ。

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