第10話 魔法使いの国

 「魔法使いってなんで人間をさらうの?」

 「人間の肝臓を売るためだ。」

 「肝臓を?なんでまた」

 「人間の肝臓は私たち魔法使いにとって麻薬のようなものだ。私の組は捕まえた人間から肝臓を抜き取って売ることを稼ぎの一つにしている。」

 「思ったより気持ち悪い理由だったね。たださ君らは魔法使いって名乗っているけど、僕らとあまり見た目が変わるようには見えないんだよね。体の構造も似ているようだし。なんで人間の肝臓がそんなに価値のあるものとして売られてるの?」

 「.....詳しい理由は解明されていないが人間の肝臓を食べると魔力が上がることが証明されている。金持ちの好事家たちは肝臓を食べることで魔力をあげ、自らを強化して保険をかけている。そのために人さらいが職業の一つになっているのが今の現状だ。」

 「なるほどね。レベルアップの課金アイテムみたいな。そんな感じなんだ。

そっちに連れてかれた人たちはもうすぐに肝臓を抜き取られちゃうのかな

?つまりは今まで連れていかれた人で生き残りっていうのはいないの?」

 「それは...多分少ないと思う。」

 「多分?」

 「私たちの組は連れてきたら肝臓はすぐに抜いている。肝臓が再生するまで人間を飼っておくリターンが少ないからだ。しかし組織によっては人間を飼って肝臓の再生を図るところがあってもおかしくはないと思う。」

 「うーん。人間をさらってるところはアーロの所属している組織だけじゃないってことか。そもそも君はどんな組織に入ってるの?」

 「私はフィクサーズという組織に所属している。」

 「で?」


 「私を含めて三人の魔法使いが人間を狩りにこちらの世界にきている。」

 「うん」

 「......」


敬人はアーロの右肩に手をかけ強く握りながら言葉をつづける

 「それだけってことはないでしょ。全部で何人いるんだろうとか、ほかの二人がどういう魔法使うんだろうなとか、君らはどうやってこっちに来たり帰ったりしているんだろうとか気になるところはたくさんあるじゃん。」

肩をつかむ手に力が入る。

 「痛っ」

 「まだやりたい練習ってたくさんあるんだ。とりあえず右肩から先なくなったときの練習しようか。」

言う終わるよりも前にアーロの肩はゴギっという音とともに敬人に握りつぶされ地に臥せる。

 「------っ」

 「フィクサーズだっけ?もうちょっと教えてよ。治してあげるからさ」


アーロにとってフィクサーズは自分を受け入れてくれた家のようなものだった。自分の失態による落ち度で危険にさらすような真似はできない。

彼女はただ懇願することしかできなかった。


 「ほかの組織のことや魔法の世界に関して私が知ってることは何でも話す。だからフィクサーズのことは許してください。あそこが私の居場所なんです。なくなったら生きていけません。」

 「うん、いいよ。もともと拷問とかするつもりもなかったしね。黙っちゃったから脅しちゃっただけで。」

アーロの必死な訴えと反対にさして興味はなさそうに応え、つぶれた肩は煙となって体に戻っていく。


 「じゃあ聞こうか。君のいる組織以外のことを。」


「....話すにあたってだが、君らは私たちの世界のことをどこまで知っている?どこから話したらいい?」

 敬人のほう、というより奥のカウンターでお酒を飲んでいるバニラに向けてアーロは問うが、バニラは楽しそうに手を振りこちらを見るだけで何も答えない。


「まだ僕は何も知らないからさ、魔法使いの国がどこにあるのかっていうのと、あとはどんな人たちが僕ら人間を襲っているのかっていうのを聞きたいな。ほら、最初にこっちに来た三人の魔法使いのこととか」

「わかった。しかし魔法使いの国がどこにあるのかっていうのは説明がしにくくて。私たちと君たちの住む地球とはかなり離れていて魔法による行き来以外となると不可能と言っていいほど難しいと思う。」

「私たちが住む星には太陽がない。太陽というかこの星のように近くに構成が存在しない。」


「へぇ。そんなところに人が住めるんだ。」

「代々星を温める魔法を使う一族が存在している。彼らによって私たちは生きながらえているといっていい。」

「星を温めるかぁ。すっごいなスケールが大きい。」

「温めるっていうのは単純に温度を上げるだけなのかい?」

今まで黙ってこちらを見ていたバニラが初めて会話に参加する。

「そうだ。その一族が毎日の気温をコントロールしている。」

「てことは魔法使いの世界はずっと夜なんだ。」

「...その通りだ」

「君らが夜じゃないとこっちに来ないことと関係あるのかなぁそれ?」

「.......私たちは夜じゃないと魔法が使えない。」

「ふーん。そうなんだぁ」満足げに笑いながらアーロの顔を遠くから覗く。

値踏みするようにねめつけ、しばしの沈黙が生まれる。


(なるほど。温度をあげる魔法使いがいるっていうことに僕はすごいと思っただけだったけどああいう風に情報を引き出すこともできるのか。相手が従順になったからって油断してた)


「魔法使いの国のことはこれくらいでいいだろうか?いいならば先ほど聞かれた三人の魔法使いの説明をしたいのだが。」

「ああ。うん。よろしく」


「最初にこちらに大々的に攻め込んだ三人っていうのは今魔法使いの国を支配しているレイゼルズっていうところの魔法使いのことだと思う。一人はさっき話した星を温めている一族、ジャバー家のカドゥル。もう一人は雷の魔法を使うレムズ、もう一人は私たちもよく知らない。」

「国のトップの方々が先陣きって侵略しに来たんだ。」


「あの襲撃の以前から魔法使いはちょくちょく来ていた。先遣隊の調査が終わったから大々的に捕獲に踏み込んだんだ。」

「なるほどね。そのレイゼルズってところの魔法使いの能力は他には知らないの?構成人数とか」

「人数は知らないが戦闘員だけでも10や20ではないと思う。それに戦いを生業にしてる魔法使いはそれぞれ能力を隠すのが基本だ。カドゥルの魔法を知っていたのは有名だからだし、レムズの能力は応用がきくからとあまり隠してないから知っていただけだ。」


「そっか。じゃあ最後にほかの組織に関して知ってることだけ教えてよ。レイゼルズとフィクサーズだけってわけじゃないでしょ」

「あと知っているのはゴラーズというグループだけだ。ここはこちらに来る魔法使いも3人ほどしかいないグループだけど各員の能力は知らない」

「なるほどね魔法使い同士って言っても互いのことはよく知らず、か。商売敵だしそんなもんなのかな。」


「バニラ!僕はこれでいいけど他になにか聞きたいことってある?」

バニラは薄く微笑みながらこちらを軽く首を横に振。

「よし、じゃあアーロ、練習に入ろうか。これ、昼に買っといた睡眠薬だからさ、飲んで寝てね。寝てさえくれれば痛くは無いはずだからね。」


練習で自らの体がどういじくられるのか、想像を放棄したアーロは素直に睡眠薬を飲む





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