第9話 田無敬人vsアーロ②

魔法。魔法使いが使える。魔法は1人につきひとつの系統が術者の物心着く頃に発現する。魔法を使うには魔力が必要であり、魔法の規模や効果によってその消費量は異なる。

また、系統の解釈次第で新しい魔法を生み出すことが出来る。


「もう大体手は尽きたよね。今までの練習で見た技ってそのくらいだったし。」


敬人は吸血鬼の能力として、夢への介入を体得していた。気絶し、練習相手にならなくなったアーロを、それでも練習相手として使うために。


敬人が夢の操作を覚えるのにそう時間はかからなかった。

バニラに初めて会った日、敬人は家に帰るまでの記憶が存在していない。吸血鬼の特性と照らし合わせ、敬人はこの記憶の不存在をバニラによって夢を操られて帰宅したからであるとをつけていた。


「あ、そうだ。私のことはバニラでいいわよ。親にさんなんてつけるものじゃないものねぇ。」


バニラに血を吸われ、薄れゆく意識の中で告げられた言葉に僕は確かに答えた。「わかりました」と。


夢への介入の発動条件は眠りに入る前に話しかけ、返答を貰うこと。

敬人はアーロの夢に入り、強烈な敵対意識を植え付けた。夢のみならず実際の体が動き出す程に。


 「アーロ、君は記憶がないのかもしれないけどこの数日僕は君を操って戦ってもらってたんだ。」

 「操って?なにを言ってるんだ」

 「意識を絶たれる技も何度か貰っちゃってさ、攻略法見つけるのに結構苦労したんだよね。」

 抑揚の少ない声調で敬人は続ける。

 「使い魔とか出しながら戦ってたこと知らないでしょ、君。」

 敬人の下半身はアーロによって閉じ込められ、アーロはいまだ敬人の攻撃をただの一発も受けていない。しかしいくら切っても復活し、あまつさえ自分の技をすべて見られているアーロの戦意は尽き欠けていた。


 「このままやれば君は倒せると思うんだ。たださ、さっきバニラが君を治したよね。僕まだあれのやり方よくわからないんだよね。」

 「なにを...」 

敬人は少し申し訳なさそうに言う。

 「今から君を壊してさ、治す練習に使おうと思うんだ。」

 「は?やだよ。やめてくれよ」

これから起きることを想像し、少し狼狽した様子である。

 「安心してよ。外傷を治すだけなら夢の中にずっといてもらえば痛みとかはないと思うんだよね。寝て起きてみればきれいな体で変わりなくっていう感じでさ。」

アーロは安堵した。しかし続く敬人の言葉に表情は一変する


 「でも僕今から魔法使いを倒そうと思ってるんだ。というわけでさ、いくつか質問があるからそれにこたえてくれたら寝させてあげようかなって。拷問っていうとちょっと引いちゃうけど、ついでだし教えてほしいなって。」


自分がこれからされること想像し膝から崩れ落ちる。上目遣いで敬人を見ると申し訳なさそうな声とは裏腹に、新しいおもちゃを見つけた少年のような少し高揚した雰囲気すら見せる。

 「まずは切り傷から行こうか」



 「めちゃくちゃ言うね彼」

 竹本は二人に聞こえないくらいの声で話しかける。

 「そうねぇ。まだまだ吸血鬼の力をつけてくれるみたいでわたしも嬉しいよ。」

 「いや嬉しがっちゃうのか。拷問はいやだとかいうけど内容は普通に拷問じゃない?躊躇なくできちゃうのちょっと怖いんだけど」

 「怖いなんて言わないでよぉ。いい子なんだよケイトは。今だって私に褒められるために覚えた技見せて新しいのも覚えようとしてる。いいこいいこだねぇ」

 「褒められるため?」

 「そうだよぉ。わたしが吸血鬼の力に慣れてって言ったから今日まで頑張ったんだし、魔法使いを倒そうって言ったから情報を聞こうとしてるんだよケイトは」

いかにも満足げな、少し得意げに話す。

 「にしても勢いがすごいというか。あそこまでとことんやる子だとは最初おもわなかったなぁ」

 「ふふふ....でしょう。わからなかったでしょうねぇ。でも私はケイトがそういう人だと思ったから眷属に選んだんだぁ。」

バニラのグラスが空になり竹本がかわりを作るため階段をあがる。空のグラスだけが乗ったテーブルに肘をつきバニラは今頑張って練習をしている敬人を眺める。

まだ夜は長い。


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他人を治す方法は自分を治すことの応用技術みたいなものだった。傷を煙にしてごまかして、元の通りに復旧する。他人の体で行う感覚に比べれば楽なものだった。どんな怪我でも対応できるように。


切り傷の治療中、アーロは必死に耐えていた。血のナイフで腕を、足を、腹を、切られては治され続けた。それをマスターした敬人に次の手順として右手首を落とされた時も涙はにじみ声は漏れ出たが必死に耐えた。切り傷の治療に四肢の損傷までは自分でも予測できている範囲のことではあったからである。


 アーロの所属するフィクサーズは30人程度を抱える魔法使い世界の中規模のやくざのようなグループである。中でも人間の世界に行けるのはアーロを含めて3人しかおらず、そのメンバーに抜擢されるため日ごろから訓練は受けていた。拷問への耐性のある程度はあった。それにより四肢の欠損という苦痛の度合いとしては最大級でありそうな拷問さえ乗り切った。


 「切断系の傷の治療の特訓は終わったから次は打撲とか骨折系だね。」

切り傷の治療をマスターした敬人は続けて打撲の練習を開始しようとする。

まだまだ終わりそうのないこの拷問、そして普通と違い、治されながらも続いていくこの拷問は、肉体の受けれるダメージ許容量に関係なく敬人の意思によって続く。

忍耐のダムは決壊した。


「すまない。すべて話す。話すからもう夢の中に、夢の中に逃げさせてくれ」

ただ泣きながら懇願することしかできなかった。 



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