第8話 田無敬人VSアーロ①

 「いいだろう。正々堂々戦ってやる」

アーロは目の前の少年の余裕の表情に恐怖を覚えていた。10日前には勝負にすらならなかった少年が油断もあったとはいえ、自分に一発パンチを当てている。その威力はすさまじく、ガードで出した腕を降りきるほどであった。また、斬っても斬っても煙となって復活する能力は自分の能力とはすこぶる相性が悪い。その上でアーロは言う。決してハッタリでない。確かな自信とともに。


 「フィクサーズ所属、斬撃の魔法使いアーロだ。吸血鬼田無敬人、お前を殺す。」

 「一里塚高校二年、吸血鬼バニラの眷属の田無敬人です。アーロ、君に勝つ。」

敬人の左手の甲からバニラの使い魔、リドムが姿を現し、アーロに近づく。敬人はいつものようにアーロから7歩ほど下がった位置まで静かに歩く。

 アーロを拘束しているベルトが消える。

 

 「輪切りトロンソン

敬人の体が達磨落としのように8等分に斬られる。


アーロの魔法「斬撃」は対象を魔法の刃で断ちきり、切り裂く魔法である。対象を細かく斬ろうとするほど消費する魔力は大きくなり、相手の魔力によっては防がれる。

また、「斬る」という行為の解釈次第ではモノ以外も斬ることができる。

魔力を持たずましてや再生能力も持たない人間相手では一番大きめに切れる輪切りトロンソンで十分であった。しかし敬人にはもう通じない。分割された敬人の体は一瞬で赤い煙となり、煙が集まりまた体を作りだす。


戦闘を見ているバニラが飲み物を持ってきた竹本に話しかける。

 「ケイトは再生のイメージに煙を選んだんだねぇ」

竹本は少し嬉しそうに答える

 「通い続けて三日目くらいにね、自分の腕を切って煙にする練習をしてたよ。バニラちゃんの煙管から思いついたんだって。」

 「そうかい...ふふ...なるほどねぇ。」


復活した敬人は少し笑い、アーロまでの距離を縮めようとする。


 「分断クープ

ケイトの足がモモから切断され、慣性にあらがえない敬人の体は宙を転げる。

 「時間稼ぎを..」斬られた足は煙となり、また敬人に集まろうとしている。

 

 「斬り抜きアンポルテ

再生しようと敬人の周りに集まろうとしていた煙が切られる。切られた煙は一部がケイトの体に戻ったが半分ほどは立方体のまま空中に残り、透明な入れ物に入っているかのようにそのまま地面へと落下した。敬人の足は膝程までしか再生をしていない。

 「あれ、切り取られちゃったか。逆にいいけどね」

脚の再生ができなくとも敬人に動じる様子はない。どころか敬人は空中で体制を整え両足から血を噴出し、アーロのほうめがけて突進する。

 「っみじん斬りアッシェ

敬人の体は細切れになりアーロの体を通り抜ける。

 「惜しかったね。当てれると思ったんだけどなぁ」煙となって再生しているが依然として膝から先はない。

 「気色悪い動きをしてっ。斬り抜きアンポルテ

振り向きざまに先刻敬人の足を奪った魔法を撃つが、敬人は素早くその場から飛びのく。

 「アーロ、君トロンソンとかいうなます切りの魔法は得意そうだけど多分切り取りの魔法は得意じゃないでしょ。」足を切られ、膝立ちの状態でありながらも余裕がある。敬人の表情が先刻の笑顔から変わり、少し落ち着いた面持ちになった。

 「なにっ」

 「次元を箱状に切って今の世界と分離させておいとく魔法だよね。確かに食らったらやばいんだけどさ、君それ当てるの自信ないから一旦足切って再生するために煙になったとこ狙ったんでしょ。」


元来アーロは努力家ということもあり斬り抜きアンポルテも十分に練習を積み重ねていた。しかし人間相手なら輪切りトロンソンで十分であり、普段それしか使ってなかった結果、勝負勘が衰えていたのだろう。対峙してからわずか10日でその差異を感じ取って見せた敬人にアーロは改めて危機感を覚えた。


━━こいつは生かしておけない。こいつが魔法使いの世界に来ることは阻止しなくてはならない


 「意識断ちピケ

敬人の目から光が抜け体が崩れ落ちる。

「動けなければ当たるでしょ。脳と心臓分離しとけばさすがに死ぬよね君も」

アーロが敬人の体に近づき、呪文を唱える。

 

斬り抜きアンポルテ


しかし敬人は再び足から血を噴出させ、アーロの斬り抜きアンポルテを回避する。もはや血の勢いで宙に浮きながら敬人は言う。

 「意識を断つ技か。初見でくらってたらやばかったけどさ、夢で君を操ってるときにもう見たんだよね。回避はしにくいけど、僕と君の間になにか生き物がいればそいつが先に受ける。」地に臥した蝙蝠を指して続ける

「このためにちっちゃい眷属の召喚とか頑張って覚えたんだよ」


「くそが..」どっと疲れた様子でアーロがつぶやく。戦闘中に敵を無力化できる意識断ちピケは決まれば強力な分消費する魔力も大きかった。


「もう大体手は尽きたよね。今までの練習で見た技ってそのくらいだったし。」

 




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