第6話 夜遊び②


 


 「え、魔法使い?」

 

 「ふふ。せいかぁ~い。びっくりしたでしょ。捕まえといたんだぁ私が昨日の夜。すっごい逃げようとするし、大変だったんだよぉ連れてくるの」

 「そりゃあ逃げるでしょう。捕まえられそうになったら。魔法使いって言っても見た感じ僕ら人間と同じように見えますね。すごい幸せそうな顔して寝てる。」

 「そういう夢見せてるからね。心の準備はいい?起こすよ。」

 「え?」

バニラが指を鳴らすと女性がゆっくりと目を開ける

 「ひぃいぃぃいいい。化け物!!ばけものーーーー!」女性はバニラを見るや否や叫びだす。いったいどんな連れてきかたしたんだ。


 「こんばんは魔女さん。ちょっと落ち着いてねぇ。」

 「..........っ」

 (すごいな、泣きながら無理やり口ふさいで黙ってるよ)

 「偉いねぇ」バニラが魔法使いの頭を撫でるが彼女は依然として怖がっている。

「実は折り入って魔女さんにお願いがあってねぇ、そこにいる男の子、ケイトっていうんだけど、彼と戦ってほしいんだよね。」

 「え」僕が?

 「殺す気でねぇ。やってもらって、ある程度協力してくれたらおうちに返してあげるよぉ。」

 殺す気で?

 「あんしんしてねぇ、いうとおりにすれば五体満足で帰れるからさぁ」

魔法使いがどうにか涙をこらえながら口を開く

 「恩情はありがとうございます。。しかしある程度、では困る。どこまでやれば解放してもらえるのだ?」家に帰すという言葉を聞いて少し冷静になる。

 「ケイトが満足したら返してあげるよ。期間はちょっとわからないかなぁ」

 「「満足?」」魔法使いとハモってしまった

 「うんそうだよ。ケイト、君は今からこの魔法使いに勝つために頑張るんだよ。いろいろ試してみて、吸血鬼の力になれようねぇ。」

 なるほど吸血鬼の練習みたいなものなのか。全然勝てる想像はつかないが必要なことだしやるしかないんだろうな。

 「わかりました、やりましょう。」

返事に力が入りすぎたのか、バニラが少し驚いた顔で、しかし優しく告げる。

 「いい子だね、頑張りなよぉ。」

 「はい!」

 「じゃあ魔法使いちゃん、今から君を縛ってるベルトを消すから、それを開始の合図として使うわね。」

 「いいだろう」さっきまで泣いていたとは思えない精悍な顔つきになっている魔法使いにつられて、僕も少し緊張してくる。

 「じゃあスタート~~ぉ」

ベルトが消える


 「輪切りトロンソン


視界が血でにじみ、魔法使いが地面ごと右上に上昇していく。

どちゃっという音を立てて僕の体だったものが崩れ落ちる。

 「こんなんでいいのか?」

薄れゆく意識の中で少しあきれたようなバニラへの問いかけが聞こえる。

斬撃の魔法使いアーロへの一回目の敗北だった。


敬人の頭のパーツをくっつけてバニラがささやく。

 「負けちゃったねぇ。」首から上だけなのにうっすらと聞こえる。

 「じゃあ治ろうか。この程度のけがならもともとの君の血で余裕だよ。吸血鬼の傷の治りは復活の仕方をイメージすればするほど早くなるからね。最初はゆっくりでいいから頑張って治してみよう。」


 しばらくして僕の肉体は再生し、なんとか元の恰好まで戻ることができた。

魔法使いは再び椅子に固定され、バニラは小さなカウンターでキセルを吸い、お酒を片手にこっちを眺めていた。

 「27分42秒だねぇ。これを縮める練習をしながらどうにかしてアーロちゃんを倒そうねぇ」

 「アーロちゃん?」

 「あの子の名前だって。さっき教えてくれたんだ。」

 「そうですか」

思った以上に何もできなかった。多分僕はベルトが取れてから一歩も動いてすらないだろう。こんなで勝てるのだろうか。

 「準備ができたら好きな時に声をかけてねぇベルトを外すから。」

気づけば竹本もバニラと同じテーブルに座り僕らを眺めていた。どうやらバニラにおかわりの飲み物を作っていたらしい。

 「再生のコツとかって何かないんですか?」とっかかりが欲しい。

 「イメージだよ。吸血鬼がこうやって復活したらかっこいいなって。いいかい?人間だった時の癖とかは私たちにとっては邪魔でしかないからねぇ。」

たしかに、バニラはいくら切られても相手にひたすら進み、血で作った武器を状況に応じて変化させていた。そう、人間離れしていた。

 「ほら、さっきばらばらに切られてたけど、痛みとかもう感じないでしょう」

 「確かに」

イメージか。そうたしかバニラは敵に切られたとき、肉を集められた血だまりを作っていた。そしてその血の池から金の斧銀の斧の神様みたいに頭から再生させていた。

ただ僕あれゾンビみたいだなって思っちゃったんだよなぁ。もっと別のイメージを持つべきだろう。切られても早く復活するイメージを。

 「吸血鬼...か。」ふとバニラに目をやる。


きれいな顔、自身にあふれた微笑み、ばっちり決まった服装。大人の世界のことはわからないがキセルを吸う姿もお酒を傾けるしぐさも絵になっている。この人を楽しませるために頑張りたいと改めて思える。


 「バニラ、僕があいつを倒すまでまだかなりかかると思うんだけど、付き合ってくれるか?」

バニラはやさしく笑って言う。

 「もちろんよぉ」

椅子に縛られている魔法使いの顔がこわばる。

 「お前私に勝てるつもりでいるのか?手も足も出てなかっただろう!」

 「うん。多分僕はこの後何回も瞬殺されると思う。復活のコツをつかんで、さらに君に勝つまではかなり時間がかかると思う。アーロさん、悪いんだけど付き合ってくれるとありがたい。」

バニラは無邪気に笑う。しかしアーロはそんな敬人の発言に恐怖を覚える。

 「気持ち悪いよお前!恐れる心とか少しはもてよ!」

僕は本当に本心からアーロに告げる

 「怖いよ、魔法使いと戦うのは。でもさ、僕は結構楽しいんだ今。」

 「お前、異常だよ。」震える声が返ってきた。


そこから三度負けた。

 「もうそろそろ朝になるわねぇ。今日は終わりにしましょうか。」

 「はい。なんの進歩もなくすいません。」

 「ふふ...明日からも頑張ろうね」

バニラは敬人の頭をなでる。

 「ケイト、帰る前にこれをあげるわぁ」

バニラが敬人の手の甲にキスをするとそこに蝙蝠の印が現れる。

 「これね、私の使い魔なの。呼べば出てくるし、頼めば魔法使いちゃんの拘束も外してもらえるからね。」

 「ありがとうございます。あの、竹本さん今日学校の帰りにも練習をしたいんですが、ここ使わせてもらってもいいですか?」

 アーロは恐怖し、弱弱しく言う。

「お前あれだけ今日負けといて、もう午後には来るのか?」

アーロに目をやりつつも竹本は応える。

 「うん。いつでも使っていいからね。」

 「ありがとうございます。では今日はこれで失礼します。バニラ、次はいつ会える?」

 「そうだねぇ、アーロちゃんに勝てるようになったらかなぁ。まあ私もたまにこの店には来るけどね。」

 「そっか。わかったならなるべく早く倒せるようにするよ。」

敬人か店を出ると竹本はバニラに話しかける

 「すごいの連れてきたね。彼、ちょっと頭のねじ外れてない?」

 「すごいでしょう、私の楽しいこと見つけるセンス。」

 「いやーおみそれしました。」竹本は笑って言う

 「じゃー私も帰って寝るわ。血が足りなくなったらあげてね。お代は私が払うから。ケイトのことよろしくね。」

 いかにも眠くなさそうなのにわざとらしくあくびをしながらバニラは階段に向かう。

 「バニラちゃんは見ないのか?」

竹本が聞くとバニラはキセルを一息ふかし、振り返る。


 「彼、私をまねようとしちゃってるからねぇ。いないほうがでそうじゃない?オリジナリティ。」

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