第6話

私は、なんとか冷静に振る舞うことができました。

しかし、彼女の瞳には不思議な力があり、私の心の奥底まで見透かされているような気がしました。「ええいいわよ、どうぞご自由に見ていってちょうだい」

バーバラは、余裕の表情でそう言いましたが、私は構わず部屋の中を調べ始めました。

隅々まで確認した後、特に異常がないことを確認しました。

そして最後に窓を開きましたが、外の様子は普段と変わらず、何もおかしな点はないように思えたのです...............しかしその時でした。

バーバラが、突然笑い出したのです。

「ふふ、まさかこんなに簡単に騙されるとはね」彼女はそう言いながら、楽しそうに笑っていました。私は背筋が凍るような思いでした.............まさか、彼女の罠にかかってしまったのでしょうか?

「どういう意味ですか?」と尋ねると、彼女は微笑みながら答えました。「あのね、ここはもう既に私が支配した領域なのよ」

そう言って彼女は私に近づいてきました。

私は本能的に思わず後退りしてしまいましたが...........すぐに壁にぶつかってしまいました。

逃げ場がないのです............!

「さあテレーシズ、大人しくしてちょうだいね」

.............しかし、彼女の表情はどこか寂しそうに見えました。

そして彼女は、私の目を見つめながら語り始めました。

「私は1000年もの近く生きてきたの、ただ仲間は皆いなくなってしまったわ.............」

まるで独り言のように語り始めた彼女に耳を傾けながら、私は何も言えずにいました。

「皆、老いには抗えないのね。あの人も、もうどこかに行ってしまったわ.............。ねえテレーシズ、あなたは一体何のために生きているの?」

彼女がそう尋ねると、私の頭の中に様々な思い出が蘇ってきました。

それは、私が生きてきた中で出会った人々との思い出でした.............皆かけがえのない存在であり、私にとっては掛け替えのない存在です。私は彼らと共に過ごしてきた日々を振り返りながら答えました。

「はっきりとしたことはわかりません.............」と私は正直に言いました。すると彼女は残念そうな笑みを浮かべながら言いました。

「そう.............。」

「でも、私には守りたい人がいるんです」

「...............へぇ?」と彼女は興味深そうに聞き入っていました。

私は、そのまま話を続けました。

「その人はとても優しくて、いつも私を励ましてくれるんです。 その人がそばにいてくれるから、私はいまここで立っていられるんです。」

彼女を見ながら、言いました。


「...............あなたにも、そんな大切な人がいらっしゃったんじゃないですか?」

私は、バーバラに尋ねました。

「えぇもちろん、私には守りたい人たちがいたわ..............」彼女はそう言うと、遠い目をしながら話し始めました。

「でも彼らは皆、先に行ってしまったわ..............その度に私は辛い思いをしたの」

バーバラは悲しそうな表情を浮かべながら、話を続けました。

「私もあなたも、いつかは死んでしまうけれど...............それでもその一瞬を、精一杯生きるしかないのでしょうね」彼女の言葉には重みがありました。きっと長い時を生きてきた中で多くの別れを経験したのでしょう。しかしそれでもなお、生き続けることを選んだバーバラの強さを感じました。「ところでテレーシズ、あなたはこの森がどれだけ恐ろしい場所か分かっているのかしら?魔女の住処には、本当に危険なものも多いのよ..............」

私はそれを聞いて、ゾッとしました。

しかし、同時にこの森には何か秘密があるような気がしていました。

私がそのことについて尋ねようとした瞬間、彼女はそれを察して先に話し始めました。「それでもあなたは知る覚悟がある?」

私は正直に頷きました。すると彼女は微笑みながら言いました。「なら、私についてきなさ..............!?」

その瞬間、彼女の言葉を遮るように突然大きな地割れが起きました。

そして地面の中から何かが現れました...............それは、巨大なドラゴンでした。

「そんな............まさか!?」私は思わず叫びました。すると彼女は真剣な眼差しで言いました。「テレーシズ、力を貸しなさい」しかし、私は動けませんでした..............何故なら、目の前のドラゴンがこちらを睨みつけるように向いていたからです。

彼女を見ると、彼女もまた私と同じように固まっていました。

しかし、次の瞬間には彼女が先に動き始めました。彼女は私の方を向いて口を開きましたが、その時でした。

突然大きな音が響き渡り、目の前で何かが弾けるような感覚を覚えました。

それと同時に、ドラゴンも姿を消したのです.............一体何が起きたのでしょうか?私は戸惑いながらも彼女を見つめました。「テレーシズ、今すぐ逃げなさい!」バーバラの叫び声を聞いて我に返った私は、すぐにその場から駆け出しました。

しばらく走り続けた末に振り返ると、ドラゴンの姿は既に見えなくなっていました。

彼女は無事なのか...........?不安を抱きながらも懸命に走り続けましたが、途中で力尽きてしまい倒れてしまいました。

しかし次の瞬間には、誰かに優しく抱き起こされている気がしました。

.............目を覚ますと、バーバラが私を見つめていました。

どうやら、彼女も無事だったようです。

「テレーシズ、あなた大丈夫?」彼女は心配そうに尋ねました。私は立ち上がりながら答えました。

「はい、大丈夫です」

すると、彼女は安心した表情で微笑んでくれました。その笑顔を見ると、不思議と心が安らいだ気がしました。

改めて彼女の容姿を見ると、本当に美しいなと感じずにはいられませんでした。

そんな彼女に見つめられていると、鼓動が速くなっていくのを感じました。

それは、今はいないフォルネウスさんの微笑み方によく似ていたからです。

ああ、本当に2人は仲良しだったんだな............。

しみじみ思っていると、彼女が話し始めました。

「テレーシズ、あのドラゴンの名前はジグルドというの。彼は私の友人なのだけれど.............」彼女は深刻そうな表情で語り始めました。

「あの子、私があなたのことを気に入ったことがいやみたいで。」

私は、一体どうすればいいのか分からなくなってしまいました。これからどうなってしまうのか不安になりながらも、彼女の言葉に耳を傾けました。

すると彼女が優しい微笑みをたたえながら言いました。「ごめんなさいね。でも大丈夫よ、テレーシズ.............あなたならきっと、乗り越えられるはずよ」と言ってくれたのです。

その言葉を聞いた瞬間、私は心が軽くなった気がしました。そして、改めて彼女の顔を見つめました。

「................私は、とてもじゃありませんがあなたが悪い魔女だと思いません」

心から思ったことを伝えると、彼女は複雑そうな顔をして言いました。

「でも、私は人間たちに散々悪いことをしてきたわよ?」

彼女は笑いながらそう言いました。

確かに彼女の行いは許されるものではありませんが、それでも私は彼女を信じることにしたのです。

「でも、あなたは私を助けてくれました」私がそう言うと、彼女はあははと笑いながら頷きました。「ありがとう」と言って私の手を取りました。

その瞬間、不思議と優しさに包まれているような感覚を覚えました。

まるで、彼女が私の全てを受け入れてくれたようでした。

ーーそれはかつてのフォルネウスさんのように。


「じゃあ、気をつけてね」

彼女は微笑みながらそう言うと、手を振って去っていきました。

私は、その背中を見送ることしかできませんでしたが、不思議と不安や恐怖心はなくなりました.............むしろ、彼女と一緒に居ることが楽しく思えてきました。

それから私は森を後にして、再び旅に出ることにしました。

彼女のおかげで、少しだけ前向きな気持ちになれた気がしたからです。

「ありがとうございます、バーバラさん」

小さく呟きながら私も手を振り返しました.............そして、そのまま前を向いて歩き出しました。

この出会いは偶然ではありませんでした!

彼女と出会えた奇跡を大切にしながら、これからも進んでいこうと心に誓いました。



王都への帰り道、私はずっと考え込んでいました。ジグルドというドラゴンのこと.............そして、バーバラさんのこと.............。

今さっき起きたことは、現実だったのでしょうか。

到着してからも、ずっとその事を考えていましたが、なかなか答えが出ませんでした。


「ふむ、バーバラという西の魔女に、謎のドラゴン.............興味深いな」

国王陛下にご報告をするために謁見をしにきた私。しかし、バーバラさんの話をすると、陛下は興味深そうに耳を傾けてくれました。

「はい..............、彼女は一体何者なのでしょうか?」私が尋ねると、陛下は顎に手を当てながら考え込みました。

「..............テレーシズよ、一つ提案がある。頼めるか?」それから、陛下は何か思いついたように言いました。

「その魔女バーバラを、ここに連れてきてはくれぬか」

私は陛下の提案を聞くと、思わず目を丸くしました。

「バーバラさんを、ですか?」

思わず聞き返すと、陛下は頷きながら続けました。

「そうだ、この城に連れてきてほしいのだ」

私は戸惑いながらも頷いて答えました。しかし陛下は更に続けて言いました。

「ただし、決して無理強いしてはならない.............彼女の意志を尊重して欲しい」とおっしゃったのです。

私はその言葉の意味を理解するまで時間がかかりましたが、意味を理解した途端ハッとしました。

(.................バーバラさんも、魔女とは言えど1人の人間だものね)

そう理解しましたが、同時に疑問も浮かび上がりました。

(でも、どうしてわざわざここに連れて来る必要があるのかしら............?)

疑問を抱きながらも私は陛下に承諾の旨を伝えました。

そして後日、私は再び森を訪れることにしました。

バーバラさんを見つけたのはいいのですが、大きめの黒いローブを被り、何やら薬の調合をしているようでした。

「こんにちは」私が挨拶すると、彼女は信じられないものを見たかのような顔をしていました。

「え?あなた、また来たの!?」

びっくりした様子で彼女は言いました。

「はい、また来ちゃいました」私は微笑みながら答えました。

すると、彼女はため息をつきながら言いました。

「あのね..........前にも思ったのだけれど、あなたは本当に変わっているわね..........」

呆れたように話す彼女でしたが、どこか嬉しそうでもありました。

きっと彼女も、私が会いに来てくれたことを喜んでいるのでしょう(?)

私はそう信じることにしました。

作業を進めながら、「どうして来たの?」と彼女が聞いてきたのです。

「あなたともっとお話ししたいからです」と答えると、彼女は少し恥ずかしそうな様子で笑いました。

「ふふっ、そうなのね。でも、どうして私なんかと?」彼女は首を傾げながら質問しました。

「あなたが良い人だからですよ」私は本心を伝えました。すると彼女は驚きの表情を浮かべた後、目を逸らしてしまいました。耳が赤くなっているところを見ると、どうやら照れているようです。

そんな彼女を見ていると、私も恥ずかしくなってしまいました。

でも不思議と嫌な気分ではありませんでした............むしろ、とても幸せな気持ちでいっぱいでした。そして私は思い切って彼女に尋ねました。

「あの、もしバーバラさんがよければですが..........一緒に王都へ来てくれませんか?」

「いやよ。」

即答でした。あまりの即答さに驚いてしまいましたが、それでも私は諦めませんでした。

「どうしてでしょうか?」

食い下がると、彼女は少し考える素振りを見せてから答えました。

「だって、ジグルドのこともあるし..............第一、人間に良く思われてないかもしれないじゃない」彼女の言葉を聞いた瞬間、思わず笑ってしまいました。

(やっぱりこの人は、優しい人だわ)彼女は微笑みながらも困った表情を浮かべていました。

しかし、私はどうしても彼女を王都へと連れ出したいと思っていたのです。

だから、彼女の目を真っ直ぐに見つめながら言いました............今度はもっと真剣に、そして心を込めて彼女に向かって言いました。

「私は、まだ出会って日が浅いですが、貴方を良い人だと思っています。どうか考えていただけませんか?」

すると、バーバラは驚いた様子で固まっていました。そしてしばらく沈黙が続き..............それから、彼女がゆっくりと口を開きました。

「わかったわ.............そこまで言うのなら、王都へ行くわよ」

そう言った瞬間、彼女は突然立ち上がりました。そしてこちらを向いて言いました。

「案内してちょうだい、女騎士さん?」

その表情には、少し照れと戸惑いが混じっているようでした。

しかし、それでもしっかりと私を見つめてくれる眼差しは真剣そのものでした。


私たちは、森を後にして王都へ向かいました。

そして到着した時には、もう夕方になっていました。

「着いたのかしら?いいところじゃない」と彼女は言いました。

私たちは王都へ戻ってきたのです。

彼女は少し躊躇していましたが、それでも受け入れてくれたようでした。

二人で並んで歩いていると、周りの人々が私たちを見て不思議そうな表情を浮かべているのが分かりましたが、それでも気にしませんでした。

むしろ誇らしい気持ちでいっぱいでした。

何故なら、彼女が隣に居てくれるだけでこんなにも幸せな気持ちになるのですから。

このまま平和な時間が永遠に続けば良いのにな、と心の中で思いました...............しかし、そう上手くはいかないようです。

突然、後ろから声が聞こえてきました。

振り返ると、そこには見覚えのある少女が立っていたのです。

「ちょっと待ちなさい!あんた達!」その少女は怒りに満ちた声で叫びました。

私たちは何事かと思い顔を見合わせると、少女は私たちを睨みながら言いました。

「あなたね!?身元がわからない女性を、連れて歩いているというのは」彼女の言葉に驚きながらも、私は冷静に答えました。

「いいえ、違います」

すると、彼女は驚いた様子で目を見開きました。

「えっ?そうなの?でもその方はどなたなの?」思わず聞き返してしまいました。

「えっと、それは...............」と口ごもっていると、バーバラが口を開きました。「テレーシズ、大丈夫よ」そう微笑みながら言いました。

「この人は、私の友達なの」その言葉を聞いた瞬間、私は思わず笑ってしまいました。

まさか、彼女が私のことを紹介するとは思っていなかったからです。

でも、彼女に認めてもらえたようで嬉しかったです。

そう思うと、更に喜びに満ち溢れました。

そして、私は彼女に向かって微笑みかけながら言いました。

「ご挨拶が遅れましたね、この子は遠方からのお友達なんです」

その様子をみた彼女は目を丸くしていましたが、すぐに我に返りました。

「...............まあ、それなら問題ないわね!でも今後は気をつけてくださいね」そう言って彼女は去っていきました。

その様子を見て安心した私は、胸を撫で下ろしました。

(良かったわ.............バーバラに何も言われずに済んで)

ホッとしていると、バーバラが声をかけてきました。「テレーシズ............あなた、本当に変わっているわ」と笑いながら言いました。

私も、つられて微笑みながら頷きました。


私たちは再び歩き出しました。

それからしばらくの間二人で歩き続けましたが、途中で疲れてしまったので、休憩を取ることにしました。

「ふぅ...............」私はベンチに腰を下ろしました。するとバーバラが私を見て不思議そうな顔をしています。

「疲れたかしら?」と尋ねてきたので、私は首を横に振りながら答えました。

「いいえ、まだ大丈夫です」と答えたものの、実際のところ少しだけ疲労を感じていました。

ですが、それ以上に充実感がありました。

彼女との時間を過ごすことは、とても楽しいものでしたから.............。

そんなことを考えているうちに、バーバラが私の隣に座り、呟くように言いました。

「..............どこかの国の王様に会うなんて、300年ぶりかしら」

「えっ?」私は驚いて聞き返しました。

だって、目の前にいるバーバラはそんなにも年を重ねているように見えないくらい、若々しく美しいからです。

彼女は微笑みながら続けました。

「こう見えて、私は国王専属の医師でもあったのよ?今は一人で生活しているだけ。..............あの事件があってからね。」

そう言って彼女は遠くを見ました。

まるで、遠い過去を見ているようでした。

私は何か事情があるのだろうなと思いましたが、それを聞くことは出来ませんでした。

すると彼女がこちらを向き、言いました。

「さて、そろそろ行くわよ。あなたの国の王様はどんな方かしら?」

バーバラは、楽しそうに笑いながら立ち上がりました。

私も立ち上がると、彼女について走りました

(..................バーバラが、結構楽しそうで何よりだわ)心の中でも、嬉しい気持ちでいっぱいでした。


それから私たちは王城へ向かいました。

.............しかし、途中で異変が起きました。「テレーシズ、..............ごめんなさい、ここでお別れよ」そう言いながら彼女は私を突き飛ばしました。

そして次の瞬間、突然現れた巨大な怪物によって連れ去られてしまいました。

私は一瞬の出来事に頭が追いつかず、呆然としていましたが、すぐに我に返り彼女を追いかけ始めました。

しかし、彼女の姿を見つけることはできませんでした............仕方なく、引き返すことにしました。

王城に戻った後は、国王陛下へ報告しなければなりませんので、気が重くなりましたが仕方ありません。

私は意を決して、謁見の間へ向かいました。

部屋に入ると、陛下は私を見て優しい微笑みを浮かべながらおっしゃいました。

「どうやら、魔女バーバラを連れてくることは難しかったか............」

私は頷きながら答えました。「はい、................バーバラは..........」と言いかけると、陛下は苦笑いしながら言いました。「彼女は何千年と生きておるから、移り気なんじゃろう。」私は驚いて言葉を失いました。

国王陛下は、私の目を真っ直ぐに見据えて言いました。

「では、何が起こったのか聞かせてほしい」

私は陛下の言葉を信じることができずにいましたが、国王陛下の表情が真剣だったこともあり、それ以上追及することはしませんでした。

「わかりました............では、お話をさせていただきますね」と言うと、陛下は静かに頷かれました。

私は彼女と会ってここまで来たことや彼女の過去について、そして今さっき起きた信じられないことも含めて、全てお話することにしました。

国王陛下は、真剣な表情で聞き入っておられました。

「..............以上でございます」そう言って深くお辞儀をすると、陛下は私に労いの言葉をかけてくださいました。「ご苦労だったな.............ありがとう」

私は恐縮しながら、頭を下げました。

すると、陛下が私に向かって言いました。「ところで、テレーシズもだが.............魔女バーバラは無事だろうか?」

私は考えを巡らせた後、答えました。「..............おそらく、大丈夫だと思われます。彼女は賢い方ですから」すると陛下の表情が少し和らいだように感じました。

私は次の一手を考えながらもその場を後にしました。

(一体どうしましょうか.............。)しかし、悩んでいても仕方ありませんので、とりあえず彼女を探しに行くことにしました。

私は近くの王都内を探し回りました。

だけれど、いつまで経っても彼女を見つけることはできませんでした。

それでも諦めずに探し続けることに決めました。

それから数日間、私は広い王都内を探し続けましたが、結局見つけることはできませんでした。

それから更に数日が過ぎましたが、未だにバーバラさんの行方はわかっていません。

(どこへ行ってしまったのでしょうか?)

心配な気持ちでいっぱいになりましたが、今は彼女の無事を祈ることしかできませんでした............きっと、どこかで無事でいると信じています。

そしてある日、私は陛下から呼び出しを受けました。

私は急いで謁見の間へ向かいました。

「失礼いたします.............国王陛下、お呼びでしょうか?」と尋ねると、陛下は真剣な顔で言いました。

「テレーシズよ、君の元に魔女バーバラと名乗る女性から手紙は来なかったであるか?」という言葉に驚きましたが、平静を装いながら答えました。「いえ、お見受けしておりません............確かに、数日ほど前に彼女の捜索依頼を出したきりですが.............。」

私が答えると、続けて陛下が言いました。「実は彼女から手紙が来て、頼まれたのだが.............、テレーシズを森に招きたまえと...........」

その言葉を聞いた私は、絶対に彼女の仕業では無いと悟りました。

なぜなら彼女は、わざわざそんなことをするような方ではないと知っているからです。

(もしかしたら何か知っているのかも)私は陛下に切り出しました。「陛下、実は.............」私は捜索時に森での出来事や召使いらしき人に追い出されたことを話しました。

すると、陛下は頷きながら言いました。「そうか、やはり何か裏の手が絡んでいたか............テレーシズよ、もう一度行って来てはくれないか?できるだけ多くの騎士団を派遣する」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が飛び跳ねるような感覚に陥りましたが、すぐに落ち着きを取り戻しました。そして微笑みながら答えました。

「...............かしこまりました」そう答えた後、私はすぐに森へ向かう準備を始めました。

それから数日後、再び森を訪れました。前回と同じように暗い森を進んでいきましたが、今回は魔物に襲われることもなく、簡単に進めます。

(それにしても、静かすぎるわね..............)不思議に思いながらも、私は周囲を警戒しながら進んでいきました。

しかし、今回は何事も起きずに目的地へとたどり着くことができました。


(まさか、バーバラが助けてくれたのかしら?)そう思いましたが、おそらく違うでしょう...............とすると、一体誰が何の目的でこんなことをしているのでしょうか?しばらく考え込んでいると、後ろから可憐な声が聞こえました。

「テレーシズ..............?」久しぶりに聞くその声に驚きましたが、すぐに振り返りました。

するとそこには、バーバラが立っていました..............しかし、何だか彼女の様子がおかしいと気づきました。

彼女は目を瞑り、俯きながら立っているのです。

私が模索しながら声をかけると、彼女はゆっくりと目を開けてこちらを見たのですが、その瞳からは生気が感じられませんでした。

そして、私に向かって申し訳なさそうに言いました。

「ごめんなさい...............あなたをここへ呼び出すつもりは無かったの、多分私の召使いが手紙をお送りしたかもしれないわ」その言葉を聞いた瞬間、私はショックを受けてしまいましたが、同時に安堵感も感じていました。

なぜなら、彼女の仕業ではないということがはっきりしたからです。

私が黙っていると、彼女は続けて言いました。

「................あの怪物は、あなたの命を狙っているとわかって、私はいてもたってもいられなくて。」

バーバラは、命をかけてでも助けてくれたんだと思うと、私はか彼女感謝しきれないほどのありがたさを感じました。

ありがとう、とお礼を言おうとしたその時、突然目の前に誰かが現れました。

それは黒い燕尾服を着た男性でした。


宝石のように美しい赤い目をして、長身の方でした。

そして彼は、私に微笑みかけてきました。

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