第16話 過去の遺産

 昔のまま朽ちずに、かなりの規模で過去の施設が残っていた。


 居住区画へ移動して、ルクに部屋を割り振って寝る事にした。


「ノボル! この回す物は何ですか?」


「捻ると水が出る」


 初めは少し濁った水が出たが、すぐに綺麗な水に変わった。


【施設の浄化システムが回復しました。空気と水の供給は可能です】


 ルクに風呂の入り方を教える。


「ノボル! お湯が出ます!! この雨を降らせる物は何ですか?」


 シャワーに過剰に反応する。

 ライトの点灯と消灯、ドアの開け方と閉め方など部屋の機能を一通り教えた後にルクを部屋に置いて、倉庫へ移動した。


 食料は長期保存用の食品を見つけたが、流石に時が経過しすぎてしまっていて、内部で科学変化してドロドロになっていたり、触ったら粉々になってしまう保存食しかなかった。


 食料はルクが持っている1日分ほどしか残っていないな。


 武器は……バズーカの様なレーザー射出装置が10個ほどあったが、火薬式の銃器などはなかった。

 防具も防刃ベストや防弾チョッキのような物ではなく、レーザーを反射するような物や、チャフを発射して熱源を誤魔化す用な物が置いてあった。


【ここにある武器は、戦争中に民間武装として国から支給されていた様です。武器をお探しなら格納庫に、戦車があります】


 お! それは凄い。


 格納庫へ移動すると、戦車と言うよりも装甲車のようなキャタピラ式の乗り物が3台停車していた。


 戦車?


【最後の世界大戦時は、火薬式ではなく光学式かミサイル系の武器が主流になっていました。昇が想像している様な火砲が付いている戦車は存在しません】


 なるほど、海で戦艦が消えたのと同じ様な理由か。

 乗り込んでみると操縦方法も簡易であり、燃料も発電衛星からの電波で補給出来る優れものであった。

 燃料の残量も満タンと表示上なっていた。


 だが、この地下から地上へ出る事が可能だろうか?


【格納庫出口に地下水路があります。潜水モードで行けば地上の川の中に出る事が可能だと予測できます】


 素晴らしい。的確な回答が助かる。流石インディである。

 居住区画へ戻ってルクを乗せたら出発しよう。


 これからの計画を考えながら居住区画へ戻った。

 風呂に入った後に疲れが出たのか、ルクがベットで寝ていた。


 全裸で布団もかけずに寝ているために、少しクラっとくるが、そこで疑問が湧く。

 ロボットにも性欲がある?!


【昇の身体は、出来る限り生身をトレースして擬似的に類似させています。性欲はもちろんありますが感情の起伏は、ホルモンバランスの仮想プログラムで起きる仮想の感情の為に、昇の場合は容易に制御可能です】


 本能的ではなくて仮想のものだったのか……寂しく感じるがこれも仮想の感情なのか……


 ルクに部屋に保管されていた毛布をかけようとしたが、朽ちていて使い物にならなかった。

 ジャージの上下のような高分子ビニールで製造された部屋着が毛布以外にあったので、その服を体の上にのせておく。


 再び格納庫にもどって出発の準備をする。


 戦車と言うより装甲車の荷台に、倉庫で見つけたバズーカの様なレーザー射出装置と持ってきた棒とルクの食料を入れただけでスペースがなくなった。


 かなり狭い荷台である。


 準備が出来たところで、ルクを迎えに行くと置いてあった服に着替えて待っていた。


「ノボル! この服凄いです。軽いし、どうやって編んだかわからない。不思議な布です」


 ルクを見ると、女子高校生の体育授業中のような姿だった。


「ここから脱出しようと思う。こちらに来てくれ」


「何があるのですか?」


 二人で格納庫に到着すると、ルクが驚く。


「見た事も聞いた事もない鉄の箱ですね。これは何ですか?」


「鉄の馬車みたいな物かな? 馬がいなくても魔法で動くよ」


「魔法? 本当ですか? ノボルは、魔法使いなのですか?」


「まぁ、今の人から見たら魔法使いかな?」


 ルクにわかるように、曖昧に回答する。

 原理を話しても、理解できないだろう。


 装甲車のハッチを開けて、二人で乗り込む。

 二人乗りで車内は結構広いが、余分な物を置くほどのスペースはなかった。

 車中泊は、難しい感じである。


「じゃぁ出発」


 ハッチが閉まり、車内灯が点灯して正面の画面に外の様子が写される。


「え! ここは? 壁を貫通して外が見えるのですか? 魔法って凄い!」


 ルクが、驚く。


『はじめましてルク。私は、インディ。昇の相棒です』


 装甲車が喋りはじめた。


「え?インディ?」


 私も驚かされる。


『昇と私の会話中に、昇が放心する為にルクが心配するのでロボット三原則に基づき、ルクの精神的ストレスを判断。その解消の為に車内の外部出力装置によって音声出力する事にしました。これにより、ルクの心配が減少し、ルクとの意思の疎通が可能になります。非常用に車内のメモリーにも私のバックアップをインストールしましたので、独立したオート操縦が可能です』


「あら! この乗り物さんには、精霊が宿っているんですか」


 ルクが、現状を脳内変換したようだ。


「そ、そうだよ。私には、精霊の加護があってルクがって気にいって出て来たみたいだ」


「凄い! インディ様よろしくお願いします」


『昇に命名された名前は、インディ様ではなくインディです。インディと呼んでください』


「インディよろしくお願いします」


『はい、ルク。ルクを保護対象として仮登録から正式に登録しました』


 ルクの想像力に合わせて、私が魔法使いとインディが精霊という話で今後は旅をしていこうと思う。


 説明が面倒な事と、この世界では理解できる人はいるのだろうか?


「インディ、出発してくれ」


 キュルキュル……


 遠い昔から動いていなかったキャタピラ式の装甲車が動きはじめた。


 格納庫の水路出口から出発する。

 目の前に、凄い流れの水路がある。

 ここに入って大丈夫なのか?


 躊躇なく侵入したが、思ったほど揺れない。

 正面のモニターは、フロントライトに照らされた水路の中の水中の様子が映っている。


「水中でも明かりを放つランプですか? 魔道具ってやつですね?」


 ゆっくりと水路を水の流れる方向へ進んでいく。


用語説明


レーザー射出装置

力調整可能な赤外線ビームを用いており、高出力でターゲットの破壊、低出力でターゲットのセンサー温度を上昇または破損させることができる。この兵器は発射するたびにエネルギーパルスを生成するための最小限の使用コストしか必要としない。


チャフ発生装置

電波を反射する物体を空中に散布することでレーダーによる探知を妨害するもの。電波帯域を目標とし誘惑と飽和を任務とした使い捨て型のパッシブ・デコイである。


戦車

戦線を突破することなどを目的とする高い戦闘力を持った装甲戦闘車両である。一般に攻撃力として敵戦車を破壊できる強力な火砲を搭載した旋回砲塔を装備し、防御力として大口径火砲をもってしても容易に破壊されない装甲を備え、履帯による高い不整地走破能力を持っている。昇が乗り込んだ戦車の時代には、ミサイルとレーザーがメイン兵器になっていた為に、火砲の代わりに多数のミサイルを搭載している。


装甲車

装甲を備える自動車である。昇が乗り込んだ戦車は、火砲がない為に外見は装甲車に見える。実際は、車体に多くのミサイルを隠し持っている強力な戦車である。


ジャージ

ルクが今着ている服。伸縮性のある厚手のメリヤス編みの生地で作られた衣類製品。 本来は、「ジャージー」という。 ジャージは、耐久性・伸縮性があり、軽くて動きやすいことから、トレーニングウェアに多く使われる。ルクのジャージは、ポリエステル100%と保存状況が良かった為か年月劣化があまりなかった。

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