第13話 ヘルテ村
ヘルテ村へ接近すると、肉の焦げた臭いがしてきた。
「これは、人間の燃えた臭いだな」
「デシュタールは、そんなに簡単に人を殺すのか?」
「私が留学中はここまで酷くなかったが、第一王子が皇帝になった頃からだな」
「前皇帝は?」
「第二王子に殺されて、その王子を倒して第一王子が引き継いだ形になっている」
血族のドロドロの政権争いだな。
村の入り口まで着くと入り口に柱が立ててあり、人間が串刺しになって並んでいた。
「これは、酷い」
ルクが目を伏せる。
村の広場に人が集まっており、なにやらやっている。
「今日の処刑は、俺に不味い飯を出してきたこの男だ」
デシュタールの兵士が、柱に括り付けた男にナイフを刺していたぶっている。
30人程のデシュタールの兵が広場の中心に集まっており、周囲に村の人々が悲壮な顔で、殺される男をみまもっている。
「ルク、レベロ。ひと暴れするか?」
「いいわよ」
「嬉しい作戦だな」
二人が剣を構えて、馬車から飛び出した。
ちょっと待て! 聞いただけでまだ何も相談してないんだが! 気が早すぎだな。
仕方なく私も馬車から飛び出して、広場の中心を目指す。
「おまえら、なにも……グゲ!」
すれ違ったデシュタールの兵を黒い棒で、叩きのめしながら前進する。
ここからは、乱戦になった。
「敵襲だ!!」
「何者だ!」
「なんだコイツら! 強すぎる」
あちこちから、兵の怒号が聞こえる。
ルクとレベロも倒しまくっている様だ。
あの二人って、かなり強いな。
私は5人ほど、デシュタールの兵を張り倒して広場の中心に辿り着く。
「貴様ら何者だ! 私をデシュタール騎士団の疾風のモストと知っての狼藉か! 生きて帰れると……ブギャ!」
長話を始めたリーダーらしき人物を黒い棒で、吹っ飛ばした。
顔面が完全に潰れたので、即死だろう。
それにしても、凄い威力だな。
【黒い棒ではないです。カーボンケーブルです。周囲スキャンを実施しました。デシュタールの兵隊は、あと16人です】
インディが、状況を教えてくれる。
ルクとレベロと私で残りの兵隊を倒して、息がある5人を縛って村人へ渡した。
「お前ら、こんな事をして生きて帰れると思っているのか?」
「私の心配より自分の心配をした方が良いぞ」
「グハ! やめろ! た、たす……」
縛ったデシュタールの兵隊が、村人からリンチを受けていた。
村人の中から40歳ほどの、恰幅が良い男が出てきた。
「助かりました。私はこの村の村長の息子のベスです。毎日、何かしらの理由を付けては、村人が殺されていました。あなた方は何処のどなたなのでしょうか?」
「デシュタールに恨みがある旅の傭兵です。この村にいれば、また増援などに襲われるのではないですか?」
「そうなりますね。来週にデシュタールから開拓民が来る予定だったらしく、我らを奴隷にする予定だったようです。とにかく隣国のエルタ国へ亡命しようかと考えています。そこまでの護衛として雇われませんか?」
エルタ国は初めて聞く国の名前だ。あとでルクに聞いてみよう。
「レベロ、村人の護衛するか?」
「お、良いプランだが、ノボルの案内は良いのか?」
「まぁ、あとは、すぐだろうから大丈夫だよ」
「そうだな、ノボルが良いならそうするか」
白金貨をまた一枚、レベロに投げつける。
とっさにレベロが左手で受け取り、驚いた顔を向ける。
「な?なんだ?」
「選別だ。お前も亡命しとけ」
「有り難くもらっとくが、良いのか?」
「構わないが、馬車をもらっていく。良いか?」
「釣り合ってないが構わんよ。ベスさん、無償で護衛するから食料を少し分けてくれ」
「構いません。では、準備が出来次第急いでいきましょう」
ルクと二人で数日分の食料を積み込んだら、遺跡を目指す事になった。
亡命の準備が終わった家から、火を放って村が燃えて行く。
「レベロ、縁があったらまた会おう」
「ノボルとルクも元気でな!」
手を振って別れた。
用語説明
エルタ国
多くの国と接している商業中心の国。商業都市リカルが、最大の都市で首都に当たる。各都市の商業ギルドの長の7人による決議で国が運営されている。各都市で独自の法律が存在する。武力は傭兵中心だが、傭兵ギルドの本部が国内にあるために、侵略を受けることはまずない。
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