第3話 施設からの脱出
目が覚めると、培養槽の中だった。
前と違うのは、私が入っている培養槽の外にあった他の培養槽が割れていたり、液が抜けていたり、中のものが腐っている。
施設も薄暗かったが、今は真っ暗である。
だが、肉体の機能に付加された暗視機能で、昼間のように明るく外が見える。
知識を私にインストールしている最中に、施設が壊れたようだ。
得た知識量は、完全ではないが大体は理解できた。
これにより、私の置かれた立場も理解できた。
冷凍睡眠で未来医療を待っていた私の身体は、長い年月で両親も死に親族が管理していたが、運営していた病院が破綻して放置されていた。
それを引き継いだ軍の研究機関が、私を引き取った。
非人道的な実験をしていた時代に入っていて、科学技術は飛躍的に進化しており、ナノマシーンなどを流用する時代に迄なっていた。
初期の契約通り私の病の治療が実験として行われて、同時に解凍もされていた頃に、大規模な戦争が勃発して地上が大変な事になっていた。
私が今いる施設は、地下50階ほどのジオフロントであり、戦争による多くの爆撃で地下に埋もれて忘れられた施設になっていった。
閉じ込められた施設の研究員も死に絶えた頃に、私が目を覚まして過去の自分の病気が治った状態で復活した。
そのまま培養槽を出れば良かったのだが、周囲に誰もいなかった為に、本来の施設の機能である創生設定を行い再び眠りについた。
私を創生する為に多くのエネルギーを使用した。
自家発電の供給電力が足りない事と、老朽化の為に施設全体が朽ちていったようだ。
とうとう私の外見と機能が完成したが知識を入れている最中に施設が老朽化で壊れた為に、私が途中で目覚めたという事である。
私が冷凍睡眠してから……およそ数百年経過している事に驚いた。
当初は、100年未満だったはずだが?
【供給エネルギー不足と有機物の補充が、ほとんど無かった為に、創生の進行が遅延しました。身体機能に異常なし。全ての付加可能な機能を実行できます】
知識のインストールは、どの程度なんだ?
【貴方の生体の脳には、15%ですが、身体制御用チップには98%入力済みです。不足分はチップから取り出す事が可能です】
目の前にメッセージが表示される。
ほとんど終わってるんじゃん。
【生体の脳の入力には、あと38年必要ですが、チップからのコピーをしますか?】
なんか、イメージ的に全部入れたらパンクしそうだ。
現在15%だが、知らないことがない気がするほどの信じられない知識量だ。
【では、コピーをキャンセルします】
君は誰なんだい?施設は壊れたはずでは?
【付加可能な機能を総てを貴方に入れたので、あなたの身体制御用チップに入っている施設管理人工頭脳からコピーした思考プログラムです】
これは、便利なのか?この培養槽を出たいんだが?
【非常用電源を遠隔操作で起動……不可能……培養槽の非常用リジェクトを起動……成功】
背中に刺さっている何かが抜けた感触があり、培養槽の蓋が開いて中の培養槽液が飛び散り、マウスピースを外して外気を吸った。
ゲボ、ゴホ、ゴホ!
激しく咳こんだ。
「あ、あ、喋れるな」
背中に、施設との通信用のプラグが刺さる穴が開いていた。
【背中の接続ターミナルを閉鎖します】
背中の穴が塞がって行く。
匂いも感じた。
ここは、腐敗臭が凄い……早く施設から出たい。
施設の地図が頭に浮かぶ。
様々なログデータが頭に浮かんで、現在の施設情報が理解できた。施設の通常出口が、何かしらの原因で閉鎖されている。
地上に出る方法を模索する。
【供給電源が総てロストしており、非常電源も使用不可能です。格納庫にある作業車による地上迄の掘削を行えば可能です】
格納庫を目指す事にしたが、格納庫までいく通路が崩れて土砂で埋まっていて通れない。
ここは、地下50階で地上まで150m上がらなくてはならない。
ほかに方法はないか?
【エレベーターシャフトに入れば、地上10m付近までは、行くことが可能。それ以降は、外気吸入用のダクトから外に出れる可能性があります】
エレベーターまで、移動した。
半開きになったエレベーターを見つけて、体を滑り込ませる。
非常点検用のハシゴが、上に伸びている。
ゆっくり慎重に登って行く。
ハシゴの何本かが、老朽化で朽ちている場所があり、危険極まりない。
土砂が埋まっていて途中から上に行けなくなった。
周囲を見ると壁に通気用のダクトがあるのが見えるが、カバーがしてあり、少し遠くに位置していてジャンプして一発ではいらないと落下してしまう。
自分の機能で使えるものがあるか?
【身体能力が最大値ですので、最大で蹴りを入れればダクトに付いたカバーを貫通する事が出来ます。性能は、ノーマルモードで通常の人型生物の100倍ほどです】
100倍って……10kg持てるなら1000kg持てるって事か……
思いっきりハシゴを蹴り、ダクトに飛び蹴りを入れる。
ダクトを塞いでいるカバーに足が刺さって止まった。
ハシゴを蹴った際に、ハシゴが砕け散り、戻る退路が無くなった。
もう、ここに入るしかないのか……
足が刺さっているカバーの足とカバーの隙間に手を入れて広げて中に入る。
匍匐前進でどうにか進める幅と高さだった。
100mほど匍匐前進するとカバーにぶち当たる。
パンチで吹っ飛ばして先に行くと部屋に出た。
部屋に入る際に、高さ2m程の所にダクトの出口があったために落下して頭をぶつける。
「イタタ……いや?痛くないな?」
【肉体が強化されています。この程度ではダメージになりません】
もはや、別人だな。
考えたら裸でここまで来てしまった。
周囲を見渡すと、居住区っぽい生活感がある部屋だった。
収納があったので調べると服が入っていた。
取り出そうとすると触った瞬間に粉々になった……
時間経過の弊害か?
粉の中に、何故か崩れない服があった。
青いジャージの上下だった。
高分子ビニール製だから、朽ちなかったのかな?
服が壊れないように、ゆっくりジャージの上下を着る。
心配していたが強度は低下していなかった。
部屋を出る。
ここは、まだ地下5階程である。
通路を出ると階段まで辿り着く。
用語説明
培養槽
培養液に満たされた水槽の様な物で、外部の細菌やウイルスおよび環境変化から守り、安定した状態に内部部を保つことができる。
インストール
外部データを特定の物に適切に入力していく作業
ナノマシーン
原子レベルでの機械であり、分子構造などを変更したり構築、分解することができる小さなロボットの集合体。一体では、小さな力だが数が多いため大きな力を発揮することもできる。
人工頭脳
計算機コンピュータによる知的な情報処理システムであって、思考する事が可能。
ジオフロント(Geofront)
地下に作られた都市
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