最終話 いつまでも《彼女》は、清楚なくせに変態で最高な声で俺に囁く

 今日は星霜 冷の配信3周年記念だ。おそらく記念配信が行われて、そこでスーパーチャットなども飛ぶだろう。


 そんな記念日に、俺は想いを口にしようと思った。


 まぁほぼ、前回、言いたいことは言えた気もするが、それは謝罪の面が多かったし。


 ここは男として、確認の意味も込めて、ハッキリと言葉にするべきチャンスだと思った。


 星霜 冷は、夜8時からライブ配信を始めた。


 挨拶やら、これまでの星霜 冷の変遷の振り返りやらをしていった。


 その中で、辞めそうな時、ある視聴者に救われたということも言っていた。


 俺だ、と思って少し胸が弾んだ。


 予想通り、様々な金額のスーパーチャットが飛ばされていて、俺もそれに続こうと思った。


 周りのリスナーと比べたら、なけなしのお金だったが、メッセージの内容だけは負けないようにしようと思った。


 2000円のスーパーチャットを送った。


 メッセージはこうだ。


 配信を初めて間もない時からずっと見て、応援してきました。〝星霜 冷〟だけでなく、性格も、外見も、何もかもが好きです。なのでこれから、こんな俺だけど、よろしくお願いします。


「スーパーチャットありがとうございます!これからも私は一リスナーのために頑張りますので、こちらこそよろしくお願いしますー!」


 もちろん、雪本が星霜 冷として、俺の名前を言えるわけは無い。上手い返しだなと思った。


 でも、ライブ配信が終わったあと直ぐに、RISEが来た。


『スーパーチャット、送ってくるなんてびっくりしましたよ』


『ごめん。驚かせるつもりはなかったんだが、配信で出会ったし、配信で気持ちを伝えるのもありかと思って』


『その、気持ちって、、あのスーパーチャットって、やっぱり告白ですか?』


 きた。ここが運命の別れ道だ。


『あぁ、だから、配信で言えなかった本当の答えを教えて欲しい』


『私、一リスナーのために頑張るって言いましたよね』


『うん』


『その、一リスナーを、並木充に変えてください。そういうことです』


 並木充に変える。


 俺はその時、雪本が言ったことを思い出していた。


 スーパーチャットありがとうございます!これからも私は一リスナーのために頑張りますので、こちらこそよろしくお願いしますー!


 並木 充のために頑張るから、こちらこそよろしく。


 つまりは、、OKということか!?


『つまり、OKってことか!?』


『もう、今の言い方で察してくださいよ!直接言わせないでください!』


『ごめんごめん。でも、成功して良かった。コメントで気持ち伝えるのなんて、変わっててるから内心ヒヤヒヤだった』


『いえ、、むしろ、サプライズみたいで、驚きが強い分、ドキドキして、最高でした』


『やっぱり、雪本は変態だな!』


『う、うるさいです!!』


 そうやって怒ったスタンプを送ってきた。


 とりあえず、告白が成功したみたいで俺は心底ほっとした。しかも、気に入って貰えたみたいで良かった。


 この時は、ほっとした気持ちが強かったけど、後になって雪本が俺の彼女ということへの、嬉しさが爆発して。一人で、飛び跳ねるかのような気持ちになり、俺はテンションがおかしくなって


『雪本、改めてだけど、こんな俺だけどこれから宜しくな』


『こちらこそ、こんな私ですけど、よろしくお願いします』


『初めての恋人ができた暁のデートとして、俺どこでも連れてくし、なんでも奢るから、行きたい場所なんかあるか?次の休日どこか行こう』


『そうですね……』


 ◇


「きたーー!!USG!!!!!!」


 こんな雪本を見るのは初めてだった。俺と同じく雪本もテンションが上がっているように見えた。


「まず何から乗りに行く?」


「あれ、乗りましょう」


「さすがのチョイスだな」


 雪本が選んだのは、様々な虫達のヒーローや悪役が出てくる、スパ、ではなく、ゲテモノーマンだ。


 4Dのリアルな体験型アトラクションで、匂い、水、温度、そして振動と五感の全てで楽しめた。


「並んだ甲斐がありましたね」


「結構並んだけど、面白かったなー」


 アトラクションに乗ったあと、通されるお土産売り場で俺たちは感想を語り合っていた。


「これ買っていいですか?」


「いいよいいよ。今日だけはな。全部奢ってやる」


「やった!」


 子供のように喜ぶ雪本は珍しい。素直に可愛かった。


「で、それなんなんだ?」


「魔法の昆虫味ビーンズです」


「うげぇ、、またゲテモノかよ」


「失礼ですね。こう見えても昆虫は美味しくて、栄養も抜群なんですよ。一粒食べます?」


「いや、そんなに良いものなんだから雪本が独り占めしなよ!俺はいいからいいから!」


「そ、そうなんですか?じゃあ遠慮なく……と思わせて、えい!」


「うわっ!」


 雪本の不意打ちで、俺は昆虫ビーンズをパクッと食べてしまった。


 普通にクソまずかった……


 その後はサメのアトラクションやホラーハウス、モンスターが出てくるゲームのコラボアトラクションに乗った。


 最後には、某ロボット映画の視聴型アトラクションだ。


 そのアトラクションの前の待機室では、キャストの赤い服を着たお姉さんが、トークショーのような事をしている。


「そこの、カップルおふたりさん?どこから来たの?」


「東京です」


 俺は答えた。


「あーら、シティボーイとシティガール!!いい感じに都会に染ってていいわねぇ!!お似合いのおふたり過ぎて妬いちゃうわぁ!」


 その声に周りにいた客たちの視線が一気に俺たちに向けられる。


 とんでもなく、気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。雪本を見ると、顔を真っ赤にしていたが、悪い顔ではなく、俺と同じ気持ちだということがわかった。


 ◇


 いつの間にか時は、流れ、俺たちは大学生になっていた。


 俺と雪本は、一緒の大学に通い、そして一緒のサークルに入っている。


 放送部、そしてまたの名をASMRサークル。


「雪菜」


 俺はそのサークルの部室のドアを開けて、〝彼女〟の名を呼んだ。


「充君、遅いですよ」


 清楚なのには変わりないが、高校時代とは、またひとつ雰囲気が大人になった雪本 雪菜が、俺にそう言った。


「悪い悪い、授業長引いちゃって」


「それじゃあ、今日も、録音始めますか!」


 雪菜は、今日も俺のために、そして自分のために、変態で魅惑的な良い声を響かせるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。皆さんの応援のおかげもあって、最後まで自分の思うように物語を作ることが出来ました。

この作品で得た経験を生かして、次回作を執筆していますので、これからもよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銀髪美少女JKの清楚で無口な昼と変態で囁く夜 黒兎しろ @utumi_yushin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ