第20話 あなたのために
俺の計画は始まった。
まず、企画書の作成だ。俺は、即座に取り掛かっていった。
企画書とはいっても、そんな形式ばったものじゃない。
単に俺が、雪本にやって欲しいことを並べただけだ。
だけどその企画書の出来は、誰にも負けない自信がある。
星霜 冷のファンだから、雪本が好きだから、俺は無限のアイデアが湯水の如く、湧いてきたんだ。
それは、VTuberの雪本じゃなくて、ASMR配信者としての雪本を、星霜 冷を輝かせる良いものになっていると思う。
俺が生半可な気持ちでないことを証明してやる。
そして、あのマネージャーとは違って、本当に雪本の可能性を信じているのは俺だって、支えられるのは俺だって、証明してみせる。
あとは、、雪本本人のやる気の問題だった。
雪本がどうやったらやる気を出してくれるかだ。
もし、俺と雪本が両想いであるのなら、それがわかっているのなら、答えは単純明快で、デートをすればいい気分転換になる。あの時、償いとはいえ、雪本から出かける誘いを受けた時は俺は有頂天になっていた。
でもそれは好きな人だからこそで、雪本が俺をなんとも思っていないとまでは無いだろうが、度合いは分からないし、確証は持てない。
それでも、心を通わせて、そして、相手のためになにかするには直接会って話すのが一番だと思う。
最初からそうじゃないと決めつけてたら、前へは進めないんだ。
雪本に、デートの提案をしよう。
まぁまず、そのためにはちゃんと謝らないといけないけど。
そしてあとは、ASMRについて、だな。
マネージャーに負けない。そのためには知識をつけるしかない。
俺はその日から毎晩、ASMRの勉強に明け暮れた。頼れる自分になって、雪本のために何かをしてあげれられるようになるために。
そして2週間経ち、俺は雪本に謝りに会うことにした。
いつもの屋上で、俺と雪本は集まっていた。
無言で見つめあったあと、俺は口を開いた。
「ごめん、雪本。俺あの時、熱くなりすぎて、お前の気持ちを考えず、先走って、マネージャーに失礼なこと言って、喧嘩になって。本当にごめん」
「私、喧嘩が一番嫌いなんです。人の喧嘩を見るのも大嫌い」
「でも、、あなたの真剣な目とかを見て、後から私のために本気で熱くなってくれたと思うと、別にいいのかなって」
「でも、嫌な思いをさせたのは事実だからごめんな」
「それはそうです。でも、嫌な思いをしたけど同時に、初めての思いもしたんです。こんなに人に思われるのが嬉しいって思い」
雪本は胸に手を当てながらそう言った。
表情は穏やかで、暖かい。
そんな雪本を見ると、俺の心を締める鎖も解かれていった。
「この2週間の間に、俺、星霜 冷のASMRの企画考えてみたんだ。まぁ、企画っつってもこうした方がいいんじゃないかってアイデアを適当にこのノートにまとめただけだけど」
俺は雪本にASMRの企画案をまとめたノートを手渡した。
雪本は、ノートをパラパラとめくり、驚いていた。それもそのはず、ノートの前ページに文字がびっしりと埋まるほど俺はアイデアを書き連ねていた。
「すごい。これを1人で?」
「あぁ、、一応」
「ありがとうございます」
「いや、全然、俺が雪本のためにやりたかっただけだから」
「本当に〝私〟のために、ですか?〝星霜 冷〟のため、じゃなくて?」
雪本は、分かってるくせにわざとらしくそう聞いてくる。ニヤッとした微笑を浮かべていた。
「ああ、そうだ!!星霜 冷の為じゃなくて、俺はお前のために、やった!」
「ふふっ、それって、、、、」
「前からずっとそうなんだよ」
「私も、あなたのために何かをしてみたいです」
「もう、雪本は十分、俺のために色々やってくれたよ」
「いえ、まだまだですよ。もっと、やりたいんです」
「じゃあ、楽しみにしとく」
「はい。ぜひ楽しみにしててください。あなたのおかげでやる気が湧いてきたので、絶対いい、ASMR作品、作ってみせますよ」
「よし、いつもの雪本だな。良かった良かった」
雪本の表情は、やる気に満ち溢れているような前向きで光り輝く表情だった。
俺の行動で、雪本をやる気にさせることが出来て良かった。それよりもまず、雪本にちゃんと謝ることが出来て、仲直り出来たことが何よりも良かったんだけど。
「なんか不思議だなぁ」
雪本は、しみじみと独り言のように呟いた。
「なにが?」
「半年前くらいまで、今いる世界と全然ちがくて」
「なるほど、それは俺も同じだな」
「あなたとこうしてずっと話すとは思いませんでした。そしてこんなにも仲良くなるなんて」
「俺もだよ。まさか、クラス1の注目されている人間と俺のような人間がこんなに関わることになるなんてな」
「やめてくださいよ。私、注目されるの嫌いなんですから」
「いやいや、それは無理があるって。何しなくても注目されるでしょ、見た目がそれな時点で」
「それってなんですか?」
「それは、それだよ」
「ちゃんと言葉にしてください」
「あーっと、銀髪で琥珀色の目をしていて、雰囲気は、、」
「そうだけど、、そうじゃなくて、あなたはその見た目をどう思ってる、、か、です」
俺に言わせる気か。でも、思ってることをもう何も隠さず、真っ直ぐに伝えると決めたんだよな
「可愛いと思ってる。その一般的に、とかじゃなくて、俺は誰よりも可愛いと思ってる」
「はい。よろしいです」
雪本は満足したようだったので良かった。俺は汗がやばいけど。
「でも、、良かったです」
「ん?」
「なんだかんだ、あなたと仲良くなれて」
雪本はそう言って満面の笑みを浮かべた。
その笑顔に一切の濁りは無く、純度100パーセントのキラキラとした笑顔で、俺はやっぱりこの笑顔が好きだった。
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