第15話 仲直り
「はぁ、、、」
俺は、家に帰り今日のことを思い出して、布団に閉じこもった。
こんなはずじゃなかった。
本気を出して、息巻いていたのになかなか上手くいかず、ついにはこんな大失敗をしてしまって、俺はもうどうすればいいのか分からなくなっていた。
あの熱はもう冷めきって、初めて俺は、挫折感を味わっていた。
気持ちが沈み、その週は抜け殻のような日々を過ごした。
誰とも関わらず、まるで貝のように殻に閉じこもって。
何もかもあやふやにしていた。
そして、何も出来ぬまま、その週が終わった。
渡辺ですら、俺を避けているようだった。
雪本の方は、声のことについて色んな人から聞かれ、ついには、もう、包み隠さず地声を出し始末となった。雪本は相当戸惑っていたし、こうなったのも俺の責任だった。
◇
「おい、充、もうそろそろ元気だせ」
週明け月曜日、渡辺はそう言って俺を励ましてくれた。ちょうど、俺の気持ちに整理が着いたのか、割り切って物事を考えられる時だった。
「渡辺すまないな。いろいろと」
「いいぜ。困った時はお互い様だ」
「また、相談にも乗ってくれるか?」
「いいよ。俺は聖人だからな」
「ありがとう」
「だが、雪本さんは、聖人かどうかは分からないぞ」
渡辺は釘を刺すようにそう言った。
「相談、雪本さんのことだろ?」
「あ、ああ」
渡辺は全ての状況を察しているようだった。
俺があの日、渡辺に言われて、雪本に謝って、でも、上手く謝れなくて、とても失望されたことを。
「充、俺に、恋愛の相談は正直言って、いいアドバイスをできるか分からないから得策じゃないぞ」
「それでも、、お前にしか頼めないんだよ」
「じゃあ、俺に言えることはひとつだ」
「誠意を見せるんだ。俺はそれしかないと思う」
「誠意か」
「お前が、見せてるつもりなら、まだ足りないってことだと俺は思う。どんな過ちを犯したやつだって、素直に反省して、誠意を見せて償いの心を持てば、必ずいつかは許してもらえるはずだと俺は思う」
「わかった。ありがとう」
結局、俺に足りないのは素直さだった。
そして、誠意。
やるべきことは、変えるべきことはただひとつだったんだ。自分の心を変えろ。
踏み出せ。
もう、何もかも失ったから、恐れることは無いじゃないか。
今俺に出来ることは、我武者羅にぶつかることだった。
◇
「ごめん、ちょっと話があるから、屋上に来てくれないか」
周りに人だかりを作っている雪本に、人の波を引き裂いて、俺は話しかけた。
視線がざっと集まるが気にしない。
「分かりました」
そして俺たちは、屋上へ。
「これまでの事、そして、雪本との約束を破ってしまったこと、本当に悪かったと思ってるごめん」
「まだそんなこと気にしてたんですか。もう許してますよ。それに、そのおかげで今はクラスのみんながよく話しかけてくれるようになりましたし」
「でも、それじゃ俺の気が済まないんだ。雪本はあの時、凄く悲しそうな顔をしてたから、本当にそういう顔をさせて悪いなと」
「べ、別に、あなたが気にする事じゃないでしょう?それに今は、この通り。あなたのおかげで笑えてます。だから気にしないで下さい」
「それは本当に良かったと思う。でもそれを、、一時でも俺が壊して嫌な思いをさせてしまったことを本当に後悔してるし、あと、それは俺のエゴからやってしまったことで……だから、雪本の為にやった事じゃないのかもしれないから本当にごめん」
「はぁ、、許します。あなたのエゴでもなんでも、私が嫌な思いをしてしまったとしても、今この状況を作り出してくれたのはあなたのおかげで、逆に感謝したいくらいなんです。それに、そんなに私に真摯に、ひたむきに謝っている時点で、全てあなたのエゴとは思いませんよ」
雪本は、暖かな日差しのような優しい呆れ笑いで、包み込むかのようなトーンで諭すようにそう言った。
「俺には分からないよ。でも、少なくとも、俺にはエゴがあったと思うし、、あと、普通に普段から雪本をからかっていたのも悪かったと思ってる」
「もう、、!なんかやりずらい!じれったい!!素直に私の為、、って言ってください。正直に!認めてください!そうしたら、全部許します。これまでのこと全て!!」
雪本は、声を張り上げて、そう言った。雪本がこんなトーンで話すのは初めて見た。
「あ、ああ。俺は、、その、、雪本のために、やったんだ、、だからそのごめん」
「やっと言えましたね。いいですよ許します。まぁ約束を破ることはいけませんが、人間そんな時もありますからね」
「うう、、ごめんなさい、、」
「でも、このおかげであなたの新たな一面が見れて良かったです」
「え?」
「並木くん、意外と真摯な面もあるんだなと。あなたなら、そんなことどうでもいいや、時が経てば、流れに身を任せればどうにかなるだろうの精神の人だと思ってたので」
「俺もまぁそういう人間だと自分でも思ってるよ」
でもな、雪本、俺、本気になったことに関しては、いい加減に出来ないんだ。
「ふふ、おかしな人ですね。あなたは」
「よかった、、、、」
俺は、思わず心の中の声が漏れてしまった。
「ん?」
「いや、、ようやく、雪本の可愛い笑顔が見れたから」
「っ!?」
雪本は声にならない声を出して、少し頬を赤く染めた。その後、咳払いをしてから話し始めた。
「まぁでも、お、お詫びと言ってはなんですが、休日少し付き合ってもらいたいことがあります」
「は、はぁ。何に?」
「それは当日のお楽しみです。ですが、悪い思いは恐くさせません。なので、罰や償いと言ってはなんですが、休日、一日、私と付き合ってください」
「分かった。全力で罪を償わせてもらうよ」
「そ、その言い方は、重すぎますから!」
真剣なトーンでそう言うと雪本から強烈なツッコミが帰ってきた。いつもの二人にいつの間にか戻っていた。
雪本からの償いの提案は、思ってもみない提案だった。
それは俺からしたら、罰というよりもご褒美だ。
そう、休日に男女が一日付き合うこと、それってまさに、デートなんじゃないか!?
休日が本当に楽しみすぎる……!
雪本と仲直りできて、俺は一転して、心を躍らせていた。
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