第13話 彼女と俺の変化


「うおおおおおおお!!」


 俺は、自室で叫んでいた。俺は変愛を自覚してから、世界が違って見える。


 なんかパワーが漲る!!!!


 これが恋愛の力かと思った。俺は、本気になったものには、夢中になって全力を尽くせるのだ。


「どうしたの?充」


 母親が俺に叫びを聞いて、自室のドアをノックした。


「俺、今超やる気出ることできたんだよね」


 俺はドアを開けてそう言った。


「あの充がついにやる気モードになったのね!」


 母親はそう言って手を合わせた。


「充1回本気になるとすごいものね。懐かしいわ。昔、お父さんと釣りに行った時、いつまでも帰ってこないと思ったら……」


 母親は昔話を始めた。


 それは確か中学の夏休み、父親の仕事が休みということで、俺の趣味である釣りをするために海へ行った日のことだ。


 朝から行って昼には帰って来る予定だったにも関わらず、なかなかヒットしないので俺は引くに引けず、夜、日が暮れかけるまで粘ったのである。


 その結果、夕方に一気に大漁ヒットし、沢山の種類の魚を、そして大物も釣りあげた。


 俺は本気になったら、《狙った獲物》は逃さないのである。


「懐かしいなー、最近釣りしてないしまた行きたいな」


「それで、今度はどんなことに本気になったのよ?」


 母親は俺にそう聞いた。


「な、なんでもいいだろ!」


「ふぅん、心配してたけど充も青春してるのね」


 母親は満足そうに、俺の自室から出ていった。


「しかして、、、はァァ、思い出した。」


 俺は深いため息をついた。


 ぜってえ俺不利からのスタートじゃねえかあああああああ!!!!


 そう、本気になったはいいものの、状況が状況である。


 まず、第一にこれでに雪本にいろいろなからかいをしてしまった。そこが先ず1つ目の過ち。


 そして雪本との出会いがASMRの配信を通じて、道というアカウントでしつこくコメントをしていたキモオタだということがバレている事だ。これが2つ目の過ち。


 もうこれ以上過ちを繰り返さないように、そして、その上で雪本に自分の気持ちを上手く伝えれるように、もっと良い自分を見せられるように頑張らないと。


 この時の俺は燃えていた。しかし前は見えていなかった。だから、俺は、3つ目の過ちを犯してしまうことになる⎯⎯⎯。


 ◇


 とりあえず、この事情を知る唯一の人物、渡辺に相談だと思った。


「なぁ、こういう状況なんだがどう思う?」


 俺は学校で、渡辺に先程の過ちを含め、相談した。


「どうってお前、それでも、雪本さんと屋上で話せてるんだろ?」


「ああ」


「なら大丈夫だって、あの他人を寄せつけないオーラぷんぷんの雪本さんが、お前と二人っきりで話してくれてるんだろ?それだけで凄いじゃんか。あの雪本さんがお前に心開いてるってことだ。好感度が無かったらそんな事しないって」


「まぁそれはそう、、か」


「だから今日も話に行けよ」


 渡辺はそう言って俺の肩を叩いた。その言葉に後押しされ、俺は今日も屋上で雪本と話す約束をした。


 ◇


「鬱アニメって見ますか?並木くん、アニメ好きですよね?」


「う、鬱アニメか。俺はあんま見ないな」


「なるらのってアニメめっちゃ面白いんですよ!!私このアニメ、鬱アニメとして大好きなんですけど、鬱アニメ初心者にもオススメです」


 雪本は、以前とはうってかわって、自分のことを、自分から俺に話すようになっていた。人見知りで引っ込み思案な雪本からしたらこれは大きな変化だった。やはり、渡辺が言った通りに、俺だからこんな話をしてくれるのかなと、ドキドキして、彼女が何かを話しているが、上の空になる。


「話聞いてます?」


「お、おう……聞いてるよ?」


 俺はそう空返事をした。変わったのは、彼女だけではなかった。俺も、前だったら雪本と話している時に、こんな上の空になることは無い。


「とりあえず、なるらの見てくださいね」


「ああ、暇な時見とくよ」


「やっぱり素直ですね?いつもなら、鬱アニメなんか好きなんて、陰湿な奴だなぁって言いそうなのに」


「俺そんな酷いこと言ってたか?」


「バンバン言ってましたけど……」


「そ、それはごめん」


「う、うーん?やっぱりおかしい、おかしいです」

 そう言って、雪本が顔を近づけて、俺の顔を覗き込んでくる。俺は思わず、戸惑って顔を逸らしてしまった。


 正直、顔が真っ赤になっていたと思う。俺としたことが。雪本に手玉に取られるなんて....


「ふふ、まぁいいです。あ、あとあなた好みのASMRまた収録しときましたから、星霜 冷の動画、楽しみにしてくださいね」


「お!それは普通に楽しみだ!ありがとうな!」


「べ、別に、あなたのためだけに撮ったわけじゃないんですけどね?」


 そう言って雪本はわかりやすい反応をした。


「それと、こんな声とかもどうですか?」


「今日の、並木くんいつもとちょっと違ってなんか、、その、、かわいいですねっ……」


 雪本は、俺の耳元で、そう囁いた。


 俺は思わずクラクラして、倒れそうになった。


 これ以上俺を、責めないでくれ。好きな人に、そんな思わせぶりな態度とられたら、気持ちが込み上げすぎてどうすればいいか分からなくなる。


 まだまだ、どう気持ちを伝えればいいか悩んでいる最中なのに、想いをぶつけてぶつかればいいんじゃないかという欲求的考えが浮かんできてしまう。想いが溢れそうになってしまう。


「いつもの調子はどうしました?ふふっ」


 雪本は、小悪魔で、何かを企んでいる思惑があるような、そんな不敵な笑みを浮かべた。


 やはり、雪本は俺の事、、好きなのか?


 確信は無い。


 でもひとつ言えるのことは、俺はこのままじゃいけない。


 どうかしないと。でも、どうすれば……


 俺はこの時もっと冷静になれていれば、今後起こる失敗を起こさなかったのかもしれない。


 ただ、この時はきっと、恋という魔法に、盲目にされていたんだ。

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