第12話 恋の始まり2


<雪本 雪菜サイド>


6月15日。


私は、この日を並木くんの誕生日だと知ってから、ずっと意識してきた。


押してダメなら引いてみる。特攻をやめて、逆に避けるようにして、あえて意識させようとして、それが上手く言っているのか、並木くんの態度は少し前と変わったように思える。


そう、意識している可能性があるということだ。


そして、誕生日に、並木くんの好きな物をあげれば、それはさらに強まることに違いない。


「よし、やるぞっ」


私は、マイクの前でそう意気込んだ。


<並木 充サイド>


「充、おはよう。それと誕生日おめでとう」


朝起きると、母親にそう言われた。


「あぁ、今日誕生日だったか」


俺は、今日誕生日だということを言われて思い出すのだった。


「自分の誕生日も忘れてるの?若いのに」


「まぁ、誕生日なんて、美味いもん食えること以外にいい事ないしな。歳老いるだけだし」


「アンタ、おじいさんみたいなこと言うわね」


「大人っぽい考え方つって欲しいな」


親とそんな会話をした後、俺は家を出た。


俺は昨日ステーキや出前の寿司を食えるらしい。それだけでまぁ、誕生日の価値はあった。



「よう、充、あっそういえば今日、お前の誕生日だっけ?」


教室に入ると、渡辺がそう話しかけてきた。


「あぁ、そうだよ」


「おめでとう。お前ももう16歳か」


「なんだよ、浮かない顔して」


「いーや別に」


「あーわかった、お前、どうせ誕生日はただ歳をひとつ重ねるだけで死に近づいているからめでたくないとかひねくれて考えてるんだろ?」


「おう。当たり。さすがだな渡辺」


「お前と何年の仲だと思ってんだ」


「中学からだからそんな長いわけじゃないけどな」


俺の憂いというか、このモヤモヤは誕生日の事じゃなくて、雪本と接することで感じたものだ。


それを、渡辺とやり取りして、まだ引きずっているのだと自覚するのだった。



放課後、雪本と今日も屋上で会うことになっていた。誘ったのは雪本の方からだった。


「こんにちは、並木くん」


屋上へ着くと、雪本は俺にそう言った。


「ああ、なんだよ改まって」


「今日、あなたの誕生日ですよね。だからこれ、あげようと思いまして。誕生日プレゼントです」


そう言って、雪本は平たい四角形の物とUSBを手渡してきた。


「ありがとう、なんだこれ?」


「花園沙耶香の限定ボイスCDと私、星霜 冷と水蒼 羅々のこの世にひとつしかない限定ボイスです、内容はあなたに向けてなので」


「は?マジで!?す、すげえ!」


「水蒼 羅々に直接頼み込んだんですからね。噛み締めるように聞いてください!もちろん私の、星霜 冷のボイスも」


「お、おう。大事に聞かせてもらう……」


「どうかしましたか?」


黙って俺はそのプレゼントを見つめ、またモヤモヤが募るのを感じた。


「い、いや、単純に何故そこまで俺のためにいいものをプレゼントしてくれたのかって。しかもこの花園沙耶香のCD限定品なんだろ?」


「花園沙耶香のCDは、家にもう一枚、あるので大丈夫です。まぁ、私のボイスと水蒼 羅々のボイスは少し大変でしたけど」


「そこまでしてくれて、なにか俺に頼みたいことでもあるのか?貸しを作る以外に意図は取れないんだが」


「はぁ、手の凝ったプレゼントするなんて、意図はひとつしかないでしょう。その人に喜んでもらいたいからですよ」


「んぅ……あ、ありがとう....」


俺はぎごちなく、雪本にそう感謝した


「ま、まぁ、もし、私の誕生日に何かくれるのであれば、それの期待もありますが?」


雪本はそれにぎこちなく、何かを装うようにして答えた。


「分かったよ。流石にここまでされたら、アレだし。俺も考えとくわ」


「やけに素直ですね……」


「俺は別にひねくれてるだけで素直ではあるぞ」


「普通にそれは矛盾してるんですが……まぁいいです。とにかく、渡し終えたので私の用事はこれで終わりです。あなたは何かありますか?」


「いや特に、このプレゼントの内容楽しみってこと以外ないな」


「では帰りましょうか」


雪本のその一声で、俺達は帰ることにした。



家に帰っても、そして翌朝になっても、俺のモヤモヤは消えなかった。


俺は、ずっとこのモヤモヤを抱えたまま過ごしていたが、昨日でついにもう、耐えられなくなった。


俺は、このモヤモヤを打ち明けようと思った。親友である渡辺に。



「渡辺、今日ちょっと、屋上来れるか?」


放課後、俺は渡辺にそう話しかけていた。


「え?ああ、いいけど、どうした?」


「ちょっと相談したいことがある」


そう言って、俺たちは屋上へと来ていた。


渡辺は何が何だか分からない様子だった。それもそうだ。渡辺は、俺達のやりとり、俺と雪本が知り合いであることすら知らない。


「お前、、雪本 雪菜のことまだ好きだよな?」


「きゅ、急にどうしたんだよ、充。ま、まぁ好きだけど?それがどうかしたのか?」


渡辺は赤面しながらキョドってそう言う。それを見ると流石にやりきれない。やりずらい。


「俺、お前に黙っててほんと悪いと思ってる、だけど、今、言わせてくれ」


「おい待て!まさかお前!雪本さんと付き合ってるのか!?」


「違うよ。お前が馬鹿でほんと助かる。おかげで言いやすくなったよ」


「いや、俺が馬鹿と言うよりも、今の流れはそう言う流れだろ!!」


俺はその渡辺のツッコミを無視して話し始めた。


「俺あるきっかけから雪本と放課後この屋上でよく話してたんだ」


「お前、放課後俺との帰宅の誘いを断って抜け駆けしやがってたのか!?許せねぇ!」


「お、おい落ち着け。抜け駆けとかじゃなくてだな、たまたま偶然が偶然を呼んだんだ。詳しいことは言えないけど」


「は?どういうことか全然わからんぞ」


「雪本と秘密にしてることがあるんだよ」


「み、充、お前もう雪本さんと秘密を共有する関係に、、、?はやすぎるだろ」


「いや、その秘密をきっかけに話すようになったんだよ。俺がたまたまその秘密を知っててさ。何かは言えないが」


「ほう。で、今更なんで俺にそれを話そうと思ったんだよ?」


「それは、最近、雪本と話してるとモヤモヤするんだよ」


「ほーん、それは、恋、だな」


「は?そんなわけ」


「お前鈍感すぎるんだよ。女子と放課後二人っきりで、しかもクラス1の美少女の雪本さんとずっと話してきたんだろ?お前はもう彼女の虜になってんだよ!!」


「そうは言っても、俺はあいつをからかいがいあるおもしろいやつとしか認識してないと思ってるんだが、、」


「雪本さんにそんな一面が。ならなんでモヤモヤしたんだよ?今実際にしてるんだよ?」


「なんか急に態度が変わって、強気にものをいうようになったと思えば急に避けられてな。まぁ、俺が避けられるようなことをしたから当たり前かもしれないが、、でも最近また急に俺にめっちゃいいプレゼントくれるし、混乱してモヤモヤしてんだ。雪本の行動原理が分からなくて」


俺はここ最近のことを、彼女の声の事以外を全て渡辺に隅から隅まで話した。


「お前さ、それ、途中からモヤモヤしはじめたと思ってる?」


「は?どういうことだ?」


「お前がその雪本さんの行動によって、ようやく心の中に最初からあったモヤモヤに気づけただけで、元からそのモヤモヤは最初からあったものなんじゃないのか?」


「……。どういうことだ?このモヤモヤが最初からあるって、、」


「それはな、、おそらくだぞ?俺はモテたこともないし宛にすんなよ?」


渡辺はそう保険をかけてから、話し始めた。


「俺が思うに、雪本さんのことを知ってると思ってたのに知らないことが沢山あってもっと知りたいと思ってても、行動出来ていないお前自身へのモヤモヤってことだ」


「一理あるかもな」


「まぁ宛にすんな。とにかく、単純でいい。お前は雪本さんが好きなんだよ」


「ば、バカそんな訳……!」


「まだ認めないつもりか?認めないと、いつまでもモヤモヤしたまただぞ?」


渡辺は呆れたようにそう言った。


「わかった、一旦は認める。そんで、家でじっくり考えてみるよ」


「ああ、それでいい」


渡辺は深く頷いた。顔に少し影ができていた。


「ありがとうな。渡辺。あとごめんな」


「許す。それが親友ってもんだろ」


渡辺はそう言ってはにかんだ。

俺は、こいつが親友で本当に良かったと思った。



俺は、1人で考えた。


あの日あの時、雪本と出会って、雪本の正体を知った時、その時のことを思い出す。


自分の好きな星霜 冷の中の人が彼女で、それを知ったけれど、まだ彼女のことは何も知らないなと思った。だから、これまでこんなに中庭やら屋上へ、彼女に色々なことを聞くために連れ出したのではないか。モヤモヤを、解消するために……


渡辺はすごいなと思った。全部アイツの言った通りだ。


俺は、、ようやく理解した。ようやく。


俺は、最初から、このモヤモヤを心の奥底で溜めていて、それに気づいていなかっただけなのだ。


俺は、雪本 雪菜のことが、好きだったのだ。

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