人工知能要因就労不成就補助金制度
そういうわけで、仕事を奪われた人々は自宅待機……と思いきや、やるべきことは用意されていた。それは、胡麻すりだった。
この決定には何か、行き違いがあったとしか思えない。
草案や策定にもやはり人工知能が関わっているはずだが、いくら有能とはいえ、幾多の間違いを犯してきた人間が作った知能である。そして明らかな人為的ミスであることは間違いないのに政権側が決してそれを認めないのも、昔ながらのお決まりの流れだ。
「人工知能要因就労不成就補助金制度」
全てはこの法律に定められている。そこには、胡麻すりの出来に応じて「人間手当」の代わりの手当が支給されると明記されていた。
支給には、個々で設定した目標とそれに対する達成度の申告が必要だ。目標の目安については年齢や健康状態などに応じて基準が明確にされている。
「AIが胡麻すりを覚えた時が人間の終わりだ」
このような類いのジョークや風刺が散見される。しかしその点は安心して良い。細則にて、人工知能に「胡麻すり」を禁止している。
この法律は世論を混乱させた。まずはゴマスリか、胡麻すりのどちらであるのかだ。政府の見解は「どちらも有り」で、余計に炎上した。
「身体的、体力的に物理の胡麻すりが出来ない者は、ゴマスリをしろと言うことか。屈辱だ!」
そういう街角インタビューの叫びが、一部の人々の胸を打ったことは記憶に新しい。
しかし批判や署名活動の影響は限定的で、可決された法案にのっとり生活は少しずつ変化していった。
目上の者に対するゴマスリには向き不向きが有った。それに加えて行為自体に対する嫌悪感だ。仕方がなく山椒の木で作られたすりこぎ棒を手にする者が、多数派であった。
人間手当を求める者。今の仕事に固執する者。ゴマスリ(心理)に奔走する者。胡麻すり(物理)に精を出す者。日本国家に愛想を尽かし、海外での暮らしを希望する者はすでに国を出た。一人一人がそれぞれの幸福を考え、追い求める。
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