最終話 初仕事…オレタタエンド

占い屋の準備は概ね整ったと言えるだろう。

玄関の外の扉に看板を掛けると僕は今日から占い師デビューと相成った。

早速のことだったが右隣の富士と異国の美少女がインターホンを鳴らした。

玄関を開けて彼女らを招くと仕事部屋へと向かった。

「本格的ですね。どの様な占いをしてくれるんですか?タロットとか?」

富士は僕の対面の椅子に腰掛けると机の上に手を置いて部屋中を見渡していた。

「富士って言ったな。何か迷いは無いか?」

若は僕の隣に立っており進行するように口を開いていく。

「迷いですか…なんだろう…今のままで良いのか気になりますね」

「今のままで良いとは?」

「その…引っ越したほうが良いのか迷っていて」

「元気よ。うってつけの質問が来たぞ」

若は僕の方へと視線を向けて薄く微笑む。

「何?どういう意味ですか?」

当然のように疑問を抱いたであろう富士は僕と若を交互に見つめて視線を彷徨わせている。

「元気は二択に強いんだ。だから占いと言うよりも…迷っている二択の質問をした方がいい。進んだほうが良い道を示してくれる。これも占いと言っても過言じゃないだろう」

「そうなんですね…でも二択って…自分でも50%は当てられると思うんですが…」

「ふっ。分かっていないな。様々な要素が絡み合うと二択が一番当てにくいものだ。選択肢は二つしか無いのに…何故か二択になると外しやすいのは欲が出たり邪念が浮かんだりするからだろう。二択で迷ったら元気に占ってもらうのを勧めるよ」

「じゃあ…占ってほしいです」

富士は僕にその様な同意の言葉を口にして僕は少しだけ悩む。

だが何故か心の直感が示す答えは既に頭に浮かんでいた。

「引っ越さないほうが良いですよ」

「どうして…こんな危険な部屋はちょっと…」

「いえ。どうしてかまでは答えられませんが。その少女と一緒にいるのが正解だって思うんです」

「ですか…メリーさんと一緒にいるのが正解なんですか?怖いですよ」

「メリーさん…?え…?」

僕と若は思わず顔を合わせてキョトンとした表情を浮かべた。

「座敷童子じゃないんですか?」

「違いますよ。その娘は座敷童子なんですか?」

「らしいです。失礼ですがメリーさんは何をしてくれるのでしょう?」

「何も…ただずっと一緒にいるだけです」

「う〜ん。わからないことだらけですが…大事にするのが良いと思います」

「そうですか…少し怖いんですけど…」

「多分まだ好感度と言うか完全に懐いていないんじゃないですか?こちらから心を開いて対話を試みるとか…好きなものを聞いて買ってあげるとか…色々としてあげないと何もしてくれないのが続くと思います」

「そうなの?」

富士は後ろに控えているメリーさんに尋ねていた。

メリーさんはコクリと頷くだけで口を開こうとしない。

「そっか…じゃあ私もコミュニケーション取るように頑張ります」

「そうした方が良いですよ」

「ありがとうございました。心の靄が晴れたような気がします」

「ですか。初回なので料金は千円で良いですよ」

「千円で良いんですか?」

「もちろん。それだけで助かります」

「では」

そうして富士は会計を済ませると右隣の部屋へと向かおうとしていた。

「あ…もし良かったらでいいんですが…」

僕はそんな言葉を口にする。

「なんですか?」

部屋を出ていこうとしていた富士は振り返ると僕らに視線をやる。

「SNSか何かで宣伝しておいて貰ってもいいですか?」

「あぁ〜。ここのことをですか?」

「ですです。僕はスマホを持っていないので…」

「了解しました。じゃあ」

そうして富士は部屋を出ていくと隣の405号室に戻っていく。

「まぁ口コミが回るまでは暇だろうけど…気長にやろう」

若は僕にその様な言葉を口にして軽く背筋を伸ばしていた。

「今日は何を食べようか」

僕らはそこから他愛のない会話を繰り広げて一日を過ごしていくのであった。


僕と若の日常的であり非日常的でもある物語はここから始まろうとしている。

だが今回は一先ずここら辺でお別れということで…。

二人の物語はこれからも続くのであった。


              完

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