ウィザード・セクト候補試験編

31話 候補試験前の思い出作り①

 ミステリウム魔法学園に編入して五ヶ月の月日が流れた。ウィザード・セクト候補試験まであと二ヶ月をきり、夏休み期間に突入した。この世界にも夏休みが存在することに驚きながらも、ウィザード・セクト候補試験に向けて魔法の特訓や課題をして過ごしていた。そんなある日、アランさんから手紙が届いた。セドとレオナの部屋にお邪魔し、皆でアランさんの長文の手紙を読んで呆れていた。


「夏休みなら帰ってきて。それだけの話よ」

「まぁ、それは分かるが……」

「眠くなってくるねぇ~」

「愛のある手紙! 羨ましいわぁ~!!」


 『愛しき弟子』『愛らしい』『目に入れてもいたくない』『ツンとしているところも可愛い』などなどのウザすぎる内容の手紙を読み終えた私は平然に、本来の内容を察し、三人に伝えるとセドはドン引きし、マリアンヌは欠伸をしながら私の肩に頭乗せてきて可愛いし、レオナは両手を頬に当て、くねくねと腰を動かしているし、おそらくセドの反応が正しいのだろう。私はもう慣れたことだからまっっったく気にも留めていない。


「んで、どうするんだ? 一旦帰るのか?」

「一応そのつもりだけど、セドたちも来る? アランさんやかましいけど、アノールもルイさんもいるから安全……は保障するよ?」

「何故疑問形なんだよ……」


 セドは頭を抱え込みながら行くか悩んでいると、マリアンヌとレオナが『行きたーい!!』と挙手した。


「いいよ! 念のためだけど、アランさんへんた……変人だけど、ルイさんやアノールがいるからまぁ大丈夫だと思うよ!!」

「それなら俺も行く。マーティン教授に色々教われるいい機会だ」

「さて外泊届けだしてこよー!!」



 次の日、私たちは外泊届を出しといたおかげで、無事ルイさんの家へ向かえることとなった。マリアンヌは今朝三つ編みのハーフアップに結んであげて、桃色のフリルワンピースを身に纏って可愛い。私の私服は学園に入る前の白色のフリル付きのブラウスに、水色のミニスカートでいつもはポニテにしているけど、今日はマリアンヌに左サイドにお団子を作られたアップ? という髪型にさせられてしまった。女子二人で先に街の中を見て回り、お土産を探し時間を潰していると、レオナの声が聞こえ振り向くと、半袖黒パーカーの中に白いワイシャツを着ているセドと、桃色Tシャツにベージュ色の半袖無地ジャケットを身に纏ったレオナが手を振っていた。周りにいた女性や男性たちが一斉にこちらを見つめて何やらコソコソと話し始めたり、黄色い歓声(悲鳴)を上げたりと不思議な現象が起こった。


「なになになに!? 怖いんだけど!?」

「放っておけ。それで何を見ていたんだ?」

「ルイさんに初めて出会った時、チョコサンドを貰って食べたのを思い出して……」


 目の前に並べてあるチョコサンドに目線を向けた。するとセドはレオナを呼んで、何故か店から離れさせられた私とマリアンヌ。暫くするとセドは両手くらいの大きさがある箱を右手に持ってこちらに向かってきた。


「それって!?」

「俺とレオナのおごりだ。別に今日くらい良いだろ……」


 セドは耳をほんのり赤く染めながらそっぽ向いて言った。レオナは『んふふふふ』とにやけてセドと私を交互に見てくるし、マリアンヌはへにゃって笑ってる。可愛い。一人首を傾けていると、後ろから『おぉいた』とアノールの声が聞こえた。振り向くと執事服を纏ったアノールの姿があった。


「アノール!!」

「先輩な? まぁ夏休みだからいいか。それよりアラン様が干からびて待っているぞ」

「何時ものアランさんの様子ね」

「それを聞いても平然してるな……ある意味勇者だぞ貴様」


 アランさんの対する反応にセドは又もやドン引きしてしまった。


「そう?」

「こいつとアラン様の対話は成立しないことが日常茶飯事だったからな。さて、ルイ様もお待ちだ、ついてこい」


 アノールはそう言って私たちの前を歩き始め、その後ろをついていった。



 数分後、ルイさんの家という名の屋敷につき、玄関を跨ぐと久しぶりの悲鳴に近い叫び声が聞こえた瞬間ドタバタと階段を駆け下り、私に抱き着いてきた変態がいた。


「ルナァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「うるさい変態」

「久しぶりのデレ隠しキタ!! 可愛いなぁ~やっぱりルナがいないと僕○にそう」

「ご勝手に?」


 いつものやり取りをしていると、セドは『やべぇ奴だ』と呟き、アランさんのことを危険人物だと認識した。レオナは目を丸くしてアランさんを見つめて数秒後『きゃ〜!!』と叫んだ。


「んだよ」

「セドちゃん越されるわよ!! ルナちゃん取られるわ!!」


 レオナはセドの背中をバシバシと音がなるくらい叩き『うるせぇ』と怒られていた。


「取られるって?」


 レオナの言葉に首を傾げた私にアノールとマリアンヌが『鈍感力高め女子』呟いて私の背中を押してリビングに向かった。リビングに着くとソファーの上で優雅にくつろいでいるルイさんがいた。久しぶりの和服姿のルイさん。こちらをちらっと見て『おかえりなさい』と言ってくれた。


「ただいまです!」

「お邪魔してま~す」

「アイリーンさん。レナード君たちも一緒ですか?」

「はい!」


 元気よく返事をすると『そうでしたか』と微笑み、ソファーに座るよう促された。アノールから紅茶を貰い、しばらくルイさんと雑談していると、セドとアランさんがにらみ合いながらリビングにやってきた。その後ろから『あらら』とレオナが二人を交互に見ながら歩いてきた。


「アラン。いい加減にやめなさい。私の教え子たちですよ?」

「このガキは許せん」

「俺もこいつだけは……」


 何故か対立しているアランさんとセド。頭に来た私は二人に目掛けて凍る雨アイスペレットと唱え、凍った雨を勢いよく降らせた。


「いだだだだだだだだ!!」

「いい加減にしないともっと痛い目に遭いますよ? セドも同じ!!」

「すまねぇ。もう喧嘩しない」

「ぼ、僕もごめんルナ!」


 セドは頭を下げ、アランさんは私に土下座をかましてきた。ため息をつく私とルイさん。その光景を見ていたアノールは『セドの方がまだましだな』と言うと、アランさんは今度はアノールを睨みつけ、またまた私に説教を食らうことになってしまうのであった。

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