30話 転生者

 ───数週間後




 いつも通り私は、真面目に授業を受け、放課後を迎えた。




 すると、何故かレオン先輩から、屋上に来いと呼び出されてしまった。




 クラスメイトのレオナに、『なに!? 愛の告白かしらね!!』と、からかわれながらも、1人で屋上へ向かった。







───屋上




 ドアノブをひねるとそこには、空はオレンジ色に染まり、夕陽が照らされている地上で、腕を後ろに組んで寝そべっている、金髪のロングヘアが目に映った。




「レオン先輩」




 私は寝そべっている先輩の名前を呼んだ。




 数秒後に閉じていたワインレッド色の瞳がゆっくりと開き、私の顔を見るなり『よぉ〜不思議ちゃん』とニンマリと笑みを浮かべ、身体を起こした。




「不思議ちゃんって…」




「隠す必要は、もうねぇぜ? お前、この世界のもんじゃねぇよな~? 俺のスキル【魔眼】は、あらゆるものを見通す。魔力量やをな」




 【魔眼】か……。




 これ、確実に転生者だってバレたかもしれないと、パニックに陥っているとレオン先輩は、声を出して笑った。




「フハッ!! 誰にも言わねぇよ」




「な、ぜ……ですか?」




 戸惑いながらも、震える声を何とか絞りだし、レオン先輩に問いかけた。




「言えば、お前自身が、かわいそうだからだよ。せっかくの人生を、かき乱したくないんだ。それに、噂とか陰口とか、俺は大嫌いなんだよ」




 レオン先輩は、青空を見上げながらそう言った。




 アランさんやルイさんには申し訳ないと思いと、仕方がないという複雑な感情を抱きながら、私はレオン先輩にぽつりぽつりと、自分が転生者だということを明かした。







「依り代ちゃん? の身体が? 不思議ちゃんなのか…? そうかぁ~。1つ聞きたいんだが、生前よりもこっちのほうが楽しいか?」




 私の話を聞き終えた先輩は、その場に立ち上がり、ズボンに両手を入れてから、顔を私に向けた。




 ワインレッド色の瞳と、赤い瞳が絡み合う中、2文字で答えた。




「はい!」




 笑顔で答えると、レオン先輩は『よぉし!!』と、頭をわしゃわしゃと撫でてきた。




「うわっ!?」




「それは良かったな!! そんで、今の話。俺だけ、聞いていたんじゃねぇのよ。いいぞ、出てこい!!」




 先輩は人の頭を撫で終わると、扉に向かって叫んだ。




 すると、アノールとセド、レオナにマリアンヌ、ルーカス部長を含む騎士ナイト部の皆が姿を見せた。




 私はレオン先輩のネクタイを掴みかかり、今までにない怒りを感じ、抑えきれずに声を上げた。




「嵌めやがったな!!」




「おい、ルナっ! 話をよく聞け!!」




「全部知ってたくせに。私をおとしいれたかったのか! アノール!! 転生者だから? ルイさんに気に入られているからか!?」




「違うに決まってんだろう! この馬鹿ッ!! お前のことは、妹のようで可愛いに決まっている!!」




「だとよ。いい加減、離さねぇか? 意外と苦しいんだぜ? この体制。首が締まって死ぬ」




 レオン先輩はヘラッと笑い、ネクタイを掴んでいる右手首を優しく握った。




 私はネクタイから手を離すと、マリアンヌが駆け寄り、私を抱きしめた。




「マリ…アンヌ?」




「私たちね、ルナちゃんのことずっと心配してたの。毎日、放課後になると1人で、教室に残って、予習や復習してたり、アノール先輩とコソコソ何かしてたり。授業に、あまり追いつけていない感じがしてて……」




「マリアンヌの言う通りだ。それにこの前、ケイン先輩に魔力制御が、得意ではないことを見破られてから、少し様子が可笑しかった」




「セドちゃんやマーちゃんの言う通りよ? そ・れ・に、編入試験の時、あんな魔力量があると、普通に見えないもの。氷の使い手は稀少だから、そのせいかな? と思っていたのけれど、校長の質問で『師の呪いを解く』って言っていたから、只者じゃないと感じていたのよ。


 でも、あまり深堀するのは趣味じゃないから、皆で様子を見守っていたのよ? アタシたち」




 セドとレオナは、歩み寄りながらそう言った。




「別に【転生者】だからって、嫌ったりしないよ? だって、ルナちゃんは私たちのお友達だもん! だから1人で、何でもかんでも抱え込まないで? 次、隠し事したら絶対に、許さないんだから! ねっ?」




 マリアンヌは笑顔で抱きしめながら、私の頭を子供をあやすかのように、ゆっくりと撫でた。




 感情の整理が出来ずに、私は静かに涙を流した。




 その様子を見ていたアノールたち。




 すると、ルーカス部長がパチンと両手を叩いた。




「さて、一件落着したのであれば、【転生者】について少し、お話ししましょうか。どの資料にも、【転生者】について、あまり記載されていませんでしたが、言い伝えがあるので、それをお伝えします」




 ルーカス部長は、1冊の薄い本をローブの内ポケットから取り出し、本の内容を読み始めた。




「──今から100年前、【原初ノ神カオス】は世界を破滅に追い込もうとしていた。


 空は闇に覆われ、雨も降らなければ雪も風も吹かない中。1人の【転生者】が現れた。


 その【転生者】は、【金星の使いヴィーナス】を召喚し、原初ノ神カオスを倒すことに成功した。


 だが、原初ノ神カオスを倒したことによって、【転生者】は呪われてしまった」




「それで何故、呪われてしまったんですか?」




「分かりません。最後のページが破られているので、どう言った内容なのか……。でも、【転生者】、はと呼べるのでしょう」




 ? 




 そういえば、どこかで聞いたことがあるような……? 




 思い出そうとしていると、ユノ先輩が心配そうに声をかけてきた。




「だ、大丈夫?」




「えっ? あ、はい! 少し考え事していただけなので」




「……そう」




 少しほっとしたのか、雰囲気が柔らかくなったユノ先輩。




 すると、レオン先輩が私の頭に、腕を乗せてきた。




「難しいことは置いといて! 別に不思議ちゃんが、何人目の【転生者】だろうが関係ない。今が楽しいのであれば、それでよし! なっ!」




「今日のところは、レオンの言う通りですね。ルナが生前よりも、楽しくこの生活を送ってくれるだけで、嬉しいですから」




 ルーカス部長の言葉に、全員頷いた。




「このことは、先生方は知っていますかね?」




 ネオ先輩は、ルーカス部長に問いかけた。




「マーティン教授や校長は知っていますよ。ルナの話は、僕たちの秘密にしよう。


 他の生徒に聞かれれば、処理するのが大変ですから。1年組はルナのサポート頼みます。僕たちでは、どうにもならないことも、ありますのでね。


 勉強も今度からは、セドたちにも聞くのも、良いと思います。その方が気も楽だろうし、互いに予習や復習にもなりますよ」




「任せてください~。ルナちゃんのことなら、何でもやります!」




 マリアンヌはそう言うと、頬擦りをしてきた。




「頼もしいです。それでは解散しましょうか。ルナ、これからは僕たちにも頼ってくださいね」




「そうだ! 部長の言う通り!」




 ルーカス部長の言葉に、何故かネオ先輩が、自信満々にうんうんと頷いた。




「ありがとうございます!!」




 自分が転生者だということを、みんなに伝え、無事和解することが、出来たのであった。












───そして、この出来事を見守っていた3人の影があったのであった。






ミステリウム魔法学園編~完~

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