30話 転生者

 次の日の放課後、私は何故かレオン先輩に呼び出され、同級生のレオナに『なに!? 愛の告白かしらね!!』とからかわれながらも一人で屋上へ向かった。屋上のドアノブをひねるとそこには、雲一つない青空の下で腕を後ろに組んで寝そべっている金髪のロングヘアが目に入った。


「レオン先輩」


 閉じていたワインレッド色の瞳がゆっくりと開き、私の顔を見るなり『よぉ〜不思議ちゃん』とニヤつきながら体を起こした。


「不思議ちゃんって……」

「隠す必要はねぇぜ? お前、この世界のもんじゃねぇよな~。俺のスキル【魔眼】はあらゆるものを見通す。魔力量やをな」


 【魔眼】か……。未来予知ができるということはもしかして、転生者だってバレた? 昨日もそうだったけど。バレたらどう対処すればいいの!? 本当に学園生活終了しちゃうよこのままだとさぁぁぁ!!


「誰にも言わねぇよ」

「何でですか?」

「言えばお前自身がかわいそうだからだよ。せっかくの人生をかき乱したくないんだ。それに噂とか俺は嫌いなんだよ」


 レオン先輩は青空を見上げながらそう言った。アランさんやルイさんには申し訳ないと思いつつ、もうバレているのでは仕方がないという複雑な感情を抱きながら、私はレオン先輩にぽつりぽつりと、自分が転生者だということを明かした。


「依り代がいるのか。そうかぁ~。一つ聞きたいんだが、生前よりこっちのほうが楽しいか?」


 私の話を聞き終えた先輩はその場に立ち上がり、私の方に振り返った。ワインレッド色の瞳と赤い瞳が絡み合う中、二文字で答えた。


「はい!」


 笑顔で答えると、レオン先輩は『よぉし!!』と頭をわしゃわしゃと撫でてきた。


「うわっ」

「いいぞ出てこい!!」


 人の頭を撫で終わると屋上のドアに向かって叫ぶと、何故かアノールとセド、レオナにマリアンヌ、ルーカス部長を含む騎士ナイト部の部員の皆さんが現れた。私はレオン先輩のネクタイを引っ張り、今までにない怒りを抑えきれずに怒鳴った。


「嵌めやがったな金髪野郎が!!」

「おいルナっ! 話をよく聞け!!」


 キレかかっている私にアノールは声を上げた。


「全部知ってたくせに、私を陥れたかったのかアノール? 転生者だから、ルイさんに気に入られているからか!?」

「違うに決まってんだろうがこの馬鹿ッ!! お前のことは妹のようにかわいいに決まっている!!」

「だとよ。いい加減離さねぇか? 意外と苦しいんだぜこの体制。首が締まって〇ぬ」


 レオン先輩は笑いかけながらネクタイを引っ張っている右手首をやさしく掴んだ。ネクタイから手を離すと、マリアンヌが駆け寄り、私を抱きしめた。


「私たちね、ルナちゃんのことずっと心配してたの。毎日放課後一人で予習や復習してたり、アノール先輩とコソコソ何かしてたり、授業にあまり追いつけていない感じがしてて……」

「マリアンヌの言うとおりだ。昨日もそうだが、ケイン先輩に魔力を制御できていないことを見破られてから少し様子がおかしかった」

「セドちゃんやマーちゃんの言う通りよ? 編入試験の時にあんな魔力量があると普通に見えないもの。そ・れ・に、『師の呪いを解く』っていうのが怪しいと思ってたわ~。でも、事情は人それぞれあるから、敢えて聞かずに、様子を見守っていたのよ? アタシたち」


 セドとレオナは私の方に歩み寄ってきた。


「別に【転生者】だからって嫌ったりしないよ? だってルナちゃんは私たちのお友達だもん! だから一人で何でもかんでも抱え込まないで? 次隠し事したら絶対に許さないんだから!」


 マリアンヌは笑顔で抱きしめながら私の頭を子供をあやすかのようにゆっくりと撫で、感情の整理が出来ずに私は静かに涙を流した。その様子を見ていたアノールたちは一安心したように胸を撫で下ろした。


「さて、一件落着したのであれば、【転生者】について少しお話ししましょうか。どの資料に【転生者】についてあまり記載されていませんでしたが、言い伝えがあるのでそれをお伝えします」


 ルーカス部長は一冊の薄い本をローブの内ポケットから取り出し、本の内容を読み始めた。


「──今から百年前、【原初ノ神カオス】は世界を破滅に追い込もうとしていた。空は闇に覆われ、雨も降らなければ雪も風も吹かない中、一人の【転生者】が現れた。その【転生者】は、【金星の使いヴィーナス】【天王星の使いウラノス】【海王星の使いネプチューン】【木星の使いジュピター】【音を司る女神たちムーサ】【熾天使ラファエル】【天空神ゼウス】らを召喚し、原初ノ神カオスを倒すことに成功した。だが、原初ノ神カオスを倒したことによって、【転生者】は呪われてしまった。己の呪いを解くために、もう一人の【転生者】を依り代……犠牲とし、世界が破滅させないため生命を維持することに決めた。呪われた【転生者】は【???の???】として今もなお生き続けている」


 この話を聞き終えた私はある一人の人物の顔を思い浮かべた。その名はでも、確信はないから何とも言えない。


「最後のページの文字が破られているから、どう言った内容なのかはわかりませんが、【転生者】はと呼べるのでしょう」


? どこかで聞いたことがあるような……? 思い出すように唸っていると、ユノ先輩が心配そうに声をかけてきた。


「だ、大丈夫?」

「えっ? あ、はい! 少し考え事していただけなので」

「……そう」


 少しほっとしたのか雰囲気が柔らかくなったユノ先輩。すると、レオン先輩がわたしのあたまに腕を乗せてきた。


「難しいことは置いといて、別に不思議ちゃんが何人目の【転生者】だろうが関係ない。今が楽しいのであれば、それでよし! なっ!」

「今日のところはレオンの言う通りですね。ルナが生前よりも楽しくこの生活を送ってくれるだけで、嬉しいですから」


 ルーカス部長の言葉に皆頷いた。


「師匠や校長は知っているから、この話は俺たちの秘密にしよう。ほかの生徒に聞かれれば、めんどくさいことになるだろうからな。一年生組はルナのサポート頼む。俺だけではどうにもならないこともあるだろうから、勉強も今度からはセドたちにも聞くといい。その方が気も楽だろうし、互いに予習や復習にもなる」

「任せてください~。ルナちゃんのことなら何でもやります~」


 マリアンヌはそう言うと、頬擦りをしてきた。


「それでは解散しましょうか。ルナ、これからは僕たちにも頼ってくださいね」

「そうだ! 部長の言う通り!」

 

 ルーカス部長の言葉に何故かネオ先輩が自信満々にうんうんと頷いた。


「ありがとうございます!!」


 お辞儀をすると、レオン先輩が又もや頭をわしゃわしゃと撫でてきて、アノールとセドは殺気を漂わせた。この光景が不思議と安心する。私はここにいていいんだと。一人で抱え込まなくてもいいんだって。生前、何もかも認められず、仲間もいなかった私。この世界でいろんな人たちに恵まれて、幸せでいいのかと不安になるくらい幸せだと感じている。これからどうなろうと、この瞬間を大事にしていきたいと改めて思い知ったのだった。


 そして、この出来事を見守っていた三人の影があったのであった。


ミステリウム魔法学園編~完~

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