死神と兵士
美由紀
第1話
何もない荒野を死神が仕事をするためにとぼとぼと歩いていました。
あたりは地面に大きな穴が何か所も空き、爆弾や砲弾が爆発したようなあとで埋め尽くされています。
元々は野菜や穀物がいっぱいとれる畑か何かだったのでしょう。
吹き飛ばされた野菜の類が目につきます。
農家の人はこれを収穫することができず逃げたのでしょう。
そして、人が穴を掘って作った溝のような場所に一人の兵士が横たわっていました。
顔は青白く、息も絶え絶えですが、三十発の銃弾を連続して発射できる鉄砲だけは我が子のように抱きしめ、手放そうとはしませんでした。
死神が男を覗き込んでいるのに気が付くと猫のように目を見開き兵士は驚きました。
そして諦めたように笑顔を見せました。
「死神様が登場ってことは俺はもうすぐ死ぬのか?」
死神は男の言葉にうなずきました。
そして、あることに気が付きました。
男が死ぬまで少し時間があることに。
おっちょこちょい、これでは少し待たなければなりません。
「なに? 俺が死ぬのはまだ少し先? なんだよ」
男は不満ありげでした。
死神は何度も頭を下げて男に謝ります。
しかし、本来ならば謝る必要もないのです。
死人にしか、死神は普通は見えないからです。
「そんなに謝るなよ。そうだ、座りなよ。死神様を立たせていると俺が偉いみたいだろう?」
そう言うので死神は寝転ぶ男の横に座りました。
今気が付きましたが、死神の同僚はすでに、男の仲間たちの魂の回収は終えているようで、魂が抜けた肉体が何体も転がっていました。
男も銃弾を受けているようで着ている服は真っ赤に染まっていました。
「ああ、クソ、痛いし、寒いな……死ぬまで暇なわけだし、良ければ少し話をしないか?」
死神は男の提案にうなずきました。
男は血を失って震える手をさすりながら語りはじめます。
「俺は、志願してこの戦場に来た。大学もミサイルで吹き飛ばされちまったしな。そう、連中、むこうの陣地にいる侵略者どもを全員あの世に送るためだ。だから、何人も撃った。何人も……あんたらの業務が増えることをいっぱいしたんだ」
死神はうなずきました。
男がした情報は死神の特殊な力によりすべて見えるわけです。
だから話されずとも、どれだけ殺したか、もし、悪行をしていたらどれだけ悪いことをしたのかもすべてわかります。
それにより魂の搬入口が、天国か地獄かに分かれるのです。
男は人は殺していますが、戦争のルールの範疇、いわゆる戦争犯罪のようなことはしていませんでした。
言葉通り、国を責められて義憤にかられ、兵士に志願し、こうして誰に看取られることもなく死ぬのでしょう。
しかし、死神は首をかしげました。
男が侵略者だと罵る国の兵士の魂を回収した際は死の間際に、男の国が先に自分たちの国の安全を脅かしたのだと語っていました。
どっちも嘘をついているわけではないので死神は混乱しそうです。
「まあ、俺はそう、ある種この戦争では英雄というわけだ。勲章ももらえるだろうなぁ。ああ、でも、死んだ後か……」
死神はうなずきました。
この戦争が終われば大統領令で勲章が配られる未来が死神には見えていました。
ただ、理解ができません。
何の価値もないただの金属片に一つしかない大切な命をかけるということに。
金属片は生きていればいくらでも手に入れられますが、命は死んでしまえばおしまいです。
「ああ、クソ。死ぬのか、死ぬのかぁ……ああ、死ぬのか……」
男は嘆くとも現状を認識するためとも思えないぐらいの声量で一人、呟きました。
受け入れてるとも拒絶しているともとれる口ぶりです。
そう、男がどうしようがもう死は確定しているのです。
死神からあるものを取り出しました。
砂時計です。
これが男の命の残り時間、命の砂はかなり少なく、しっかりと落ち続けています。
男は咳き込み、吐血しました。
何度もむせ込み、手近にあった水筒の水を飲み一息ついたようです。
「母さん、母さんに会いたい……なあ、死神様。俺の、俺の母さんは俺がいなくなっても元気に生きていけるよな? な? な? そうだと言ってくれ……」
男は先ほどまでの兵士の顔から少年のような不安そうな顔になり、死神に懇願するように問いかけます。
死の間際になって母親が酷く恋しくなったのでしょう。
皆どんな屈強な人間でも死ぬ寸前になると、親にすがる光景を死神は何度も見てきました。
皆、親か、神か思想に死の間際にすがるのです。
死神はうなずきました。
リストを確認します。
男の母親は、帰ってこない息子の帰りを毎日毎日家の前で待ちながら、数年後に心筋梗塞で死んでいるのを近所の住人に発見される……。
さすがにこれを直接告げるのは酷だと思い、死神は言いませんでした。
言って絶望を与えたところですでにこの場で死ぬことが確定している男が未来を変えることはできないからです。
「良かったぁ……母さんには俺しかいないからな、そうだ! 俺は戦死扱いになるはずだから、遺族恩給が出るはずだ、これで母さんの老後は安泰だ! よかった……! 俺が死んでも、母さんは平穏無事な老後を過ごせるんだなぁ……はは」
戦死者の遺族に配られる恩給額は雀の涙、とても人一人が生きていける額ではなく、戦争が終わった後に大規模な暴動がおこることも、それにより、この国の今の大統領が死神のお世話になることになって何年も何年も混乱が続くこともすべて知っていましたが男には教えませんでした。
兵士から少年に戻った兵士は、ぽつりぽつりと昔話を語りはじめました。
「なあ、俺もこの侵略者の連中が全員悪いやつだと思っていないんだ。悪いのは中央にいる政治家どもだ。そう、俺があの世に送った連中も、出会う場所が違えば一緒に狩りをしたりゲームをしたりして友達になれたかもしれない。そうだ、俺には幼馴染がいたんだよ。ちょうど、今の敵国になってしまった国の生まれなんだけど家が隣でよく遊んだんだ」
男は懐かしそうに遠くを眺めながら語りはじめました。
周囲は銃性も聞こえず、粉雪がちらつき始め寒さが身に染みる気温になってきます。
男の吐く息が白く、体力を奪っているのが死神にもわかりました。
「釣りにもよく行ったし、あいつが飼っていた犬ともよく遊んだなぁ。大きくてひとなつっこくて良い犬だったな。そう、最初は言葉が少し訛っていて学校でからかわれているのを俺がかばったのが仲良くなったきっかけだった。良いやつだったよ。本当に」
子供時代を思い出し、完全に兵士から少年に戻った男は楽しそうに思い出を語ります。
ただ、寿命は刻一刻終わりに向かおうとしています。
死神の資料に書かれている男の死因はこの撃たれた傷によるものではなく爆弾による爆死で今のところ飛行機が飛んでくる様子はありませんでした。
まだ少し、ほんの少しですが男の命の時間はあります。
死神としては、少しでも穏やかに逝ってほしいと思いました。
「家の近くの池でなあいつとふたりがかりでこーんな大きなナマズを釣ったこともあった、転んで泥だらけになって二人して怒られたなぁ」
手を広げ大きさを表現します。
男のその顔には死ぬ間際とは思えない微笑みすら浮かんでいました。
「森にな、秘密基地を作ったんだ。そこで、やつが爺ちゃんの猟銃を持ってきてな、二人で撃って遊んだんだ。狩もした。結構うまいんだぜ。鹿とかうさぎとかよく狩ったなぁ。だから、今の俺の腕前があるんだよ。だけどやつも兵士になっていたら厄介だろうな。なんせ、俺より射撃がうまかった! そう、勉強は俺のほうができたけど、運動はあいつのほうが上手だった」
思い出話を語るのが止まりません。
立て板に水というやつでしょうか。
死神は男が話すさまを見ながらあることを理解しました。
怖いのです。
男は怖かったのです。
死というものが、死神が来てしまったということが。
本来は死んでから魂を回収するものが規定となっていて、こんな風に時間前についてしまったとしても生きている人間から死神の姿は本来見えないはずですが、たまたま男が見えてしまう人だったわけでこうした事態になってしまっているわけです。
死神は申し訳なく思いました。
毎日毎日何十人もこの戦場で死んでいくので死神はいつも以上の激務で少しうっかりしてしまい、この男にいらぬ恐怖やストレスを与えてしまったみたいでひどく後悔しそうです。
死神は人間に敬意を持っています。
敬意をもって天国や地獄に連れて行っているわけです。
どんな善人でも悪人であろうとも区別なく生きている訳であり、それを終わらせ連れていく役目。
非常に嫌な役目と人間は思うのでしょう。
逆に死神からしても人間の価値観や行動理念は理解できないことがいっぱいありました。
ただ、こうして様々な人間の死に向き合い、ある種の慈愛を持ち仕事をするのが死神の誇りでもあります。
「俺がハイスクールに入る前か、やつは家族でもともと生まれた国に引っ越していった。確かに、そのころから確かに関係は悪くなっていたし、一部の差別主義者が台頭していた時代だ。正直この国も政治の腐敗が酷いし、手放しに誉められたもんではない。あいつとはずっと連絡を取っていたけどここ一年ぐらいはとっていなくて、今やこのありさまだよ。あいつ元気かなぁ……戦争が終われば会いに行きたかったが、もうそれもかなわないか……悲しいが仕方ないか、軍人の定めだな」
男はあきらめるように悲しげに言いました。
「ああ、これもあの国の政治家、それを支持する馬鹿どものせいだ。あいつは、反対していた。だから敵だなんて思ってはいない。だが他の連中は全員あの世に送ってやりたい、俺が死んだとしてもだ、許せない」
男の様子が変わりました。
打って変わり、先ほどの少年のような表情が消え、顔からは憎悪がにじみ出ています。
死神は困惑しました。
死の寸前まで、穏やかでいてほしかったからです。
「俺は大学で、史学科に言ったんだ。歴史を研究したくて行ったんだ。しかし調べれば調べるほどあの国、あの国の政府! それがどれだけひどいことをこの国にしてきたと思う? 何人も虐殺をして、領土を不当に奪い続けている。許せないよな? 侵略者どもが」
死神は困り果てました。
男が言うように確かに領土問題や歴史問題は両国で存在します。
ただ、男の家族も先祖も直接的な被害を受けたことはありません。
しかし、男はまるで自分が被害にあったかのように怒りをあらわにするのでした。
これは相手の国の人間の魂を回収した時もありました。
直接は関係ない話なのにまるで自分のことのように怒りが湧き、憎悪し、行動に移していく。
人間の不可解な点です。
あと少しで死ぬというのに、未来を見据えたかのように死神に自国の正当性と相手国の不当さを授業のように説くのでした。
先ほどまで、国や言葉が少し違っても差別せずに親友になった話をした男のはなしとは思えないほどの言葉の内容、憎悪にこもったある種の人種差別的な発言が津波のように口から湧いてきます。
これが二重思考というやつでしょうか。
こうした人間の思考はどこの国でも存在することを死神は知っていました。
理解はできませんが。
先ほどまでうってかわり、ヘイトを向ける。
なぜ人間は互いを理解できるはずなのにこうして急に思考が切り替わるのか、死神でさえある種の恐怖を覚えます。
「俺が死ぬのはいい、でも連中が死なないのは許せない。俺はあいつらを倒すためにここまで犠牲を払ったんだ」
死神は知っていました。
今回の進攻は失敗することを。
男がいる国を倒しきることもできず、占領地を維持することもできず、多大な犠牲に怒った民衆が革命を起こし、今回の戦争以上の犠牲を出す大規模な内戦がおこることもすべて知っていました。
仕事の先の予定を知る必要があるからです。
そこで生じる魂を今いる死神たちでどうやって効率よく回収するかが昨今の死神たちの共通の話題でもあります。
「ああ、クソ、許せないよな、許せないよなぁ……連中を、連中を全員倒さないと、道連れにしないと……」
死神としては、こんな話より、暖かい、自分が見ようと思ってもなかなか見ることができない、男の少年時代の温かい思い出話が聞きたかったのですが、もう、男の死の間際の脳内にはそうした温かみは消し飛んでいました。
残っているのは憎悪や死への恐怖、生き残る敵への嫉妬でした。
さきほどまで友達になれたかもしれないと語っていたのがまるで嘘かのようです。
男の眼は黒く、どぶ川のようによどんでいました。
「あ、そうだ!」
男は突然なにかに気が付いたかのように大きな音を立てて手を叩きました。
そしてそのぼろぼろの身体を引きずり、木箱の前に移動します。
そしてそれを開けて中の物を取り出しました。
爆弾です、仲には大量の爆薬が入っていました。
「これ、橋を爆破するために後方から持ってきていたんだ。落とすのは失敗したけどな。で、気が付いたんだよ。俺がまだ死ぬには時間がある。ということはだ、何があろうがその時間までは死なないんだよ」
にやにやと悪い笑みを浮かべながらそう語りました。
死神は慌てました。
だが、現実世界へと干渉はできません。
死神が男を触ろうとしてもすり抜けます。
ですので、男を止める手立てはありません。
すでに男の気持ちは固まっているようです。
男は完全に兵士の顔つきにへと戻り、自分が来ていた戦闘用のベストや、腰につけたポーチにいっぱい、それもういっぱいの爆薬を詰めていきました。
そしてそれに配線をつなぎ、起爆用のスイッチへと接続しました。
このボタンを押すだけで男の命は一瞬にして終わりを告げます。
「それじゃあ、ちょっくら巻き添えを作りに行ってくる。へへへ、独りぼっちは寂しいからな、死神様、最後の話せて楽しかったぜ。仕事頑張れよ。俺も最後にもう一仕事を頑張るからさ」
男は笑みを浮かべ敬礼をし、銃も持たずに爆薬だけをしっかりと持ち、敵陣めがけて這っていきました。
雪にまみれてぬかるんだ地面のせいで泥にまみれ、出血で息も絶え絶えですが、男は這っていくのをやめません。
自らが死ぬ恐怖を紛らわせるかのように、兵士としての本分を忘れていないかのようでした。
死神の手元にある砂時計の残りの砂もあと少しで落ち切ります。
男の姿を眺めることしか死神にはできませんでした。
目をらんらんと光らせ、男は目的の敵陣のすぐ近くにへとたどり着きました。
そして、痛む体を起こし、最後の力を振り絞り敵陣へと全力の走りを見せます。
男の姿に敵陣にいた何人かの兵士も気が付き、皆、叫びながら銃を男に向けて乱射しました。
ライフルから発射された鉛の弾丸が、何発も何発も、男の身体を撃ち抜きますが、男は死にませんでした。
そして手近にいた兵士に男は、何年もあっていない親友にあったかのように抱き着きます。
兵士は叫び声をあげて半狂らになりながら男のしっかりとつかまれた腕の中から逃れようとしますが、周りの兵士も、男が何を持っているのかに気が付き腰が引け、助けようとせずその陣地から逃げ出そうとしています。
死神の手元にある残りの命を示す、砂時計の砂が完全に落ち切ると同時に男は起爆スイッチを押したのか敵兵もろとも爆発し、爆発の煙が晴れるころには、男も、数人の兵士たちも影も形も無くなりました。
陣地にいた兵士たちを道連れに男は死んだのです。
誰に記憶されることもなく、男が望んだ国家に称えられる、英雄になりました。
ですが、この現場をだれも見ておらず、戦闘中の行方不明扱いになることを死神は知っていました。
男の英雄的行動は何人かの、男と同じように思い出を持ち、笑い、涙する男たちを巻き添えに達成したのです。
死神は魂を回収するために男がたどった道をなぞるかのように歩いていきました。
そこには別の死神がいました。
この兵士たちもすでに死ぬことが確定しており、この死に方が決まっていたのです。
死神は同業者に挨拶をし、男が巻き添えにした兵士たちの資料も見せてもらいました。
そこには、あの、男が話した幼馴染がいたのです。
あの時、抱き着いて巻き添えにした兵士が男の幼馴染だったわけです。
なんという悲劇でしょうか。
ですがこの程度の悲劇、三文悲劇としてこうした戦場にはごまんとあふれています。
誰かが見ていれば戯曲にでもなるのでしょうが死神しか見ていません。
男は死ぬ間際気が付いたのでしょうか、それはもう、わかりません。
魂となった男は二度と語ることはないのですから。
楽しい話も悲しい話も、人種や国家に対する憎悪もすべて語りません。
男の肉体もすぐに土へ帰る事でしょう。
死神は分かりませんでした。
どうしてこれだけ素晴らしい感情にあふれている人間が、自らの命を虫のように捨てて目に見えない思想や大義というお腹が膨れぬ者のために平気で死んでいくのかも。
しかし、こうした人間の営みがあるから死神も仕事にあぶれないわけです。
死神は回収した魂を収容ケースにへとしまいました。
これで男の魂をあの世に持って行けば今日の仕事は終わりです。
明日の仕事のリストを死神は確認しました。
また、膨大な数の魂を回収しなければなりません。
今いる死神の担当地域、この戦場では一日に何十、何百と人が死にます。
悪人もいるし、善人もいます。
ですが、分け隔てなく突然の死が訪れる。
どうあがいても人間は死というものに逆らえません。
この戦争はもうしばらくすれば終わりますが、更にさらに、目白押しで次の次の戦争が待ち受けています。
戦争に関連する飢餓や疫病による死者もいっぱい出ます。
仕事はなくならず、死神が過労死しそうな現状となっていました。
ジェット攻撃機が低空で飛んでいき、遠くで爆発する音が響き渡りました。
爆撃があったのでしょう、あちらの担当の死神ともすっかりと顔見知りになりました。
黒煙を見ていると新たな命令が下り、残業が確定しました。
同業の死神と顔を見合わせます。
死神が集まると、担当した人間の話をするのが常でした。
死神はみな人間に好意的です。
なので、なんでこんな悲しさもある殺し合いをやめないのかがわからず、人間が語るイデオロギーも理解できませんでした。
神は死神の上の役職にいますが、人間が語る神とはかけ離れています。
なので、こうして弾に先ほどの男のように見られてしまい、話すことはありますが首をかしげることやある種の新たな発見が多いのが実情でした。
死神も元は人間でした。
ですが、人間の時の記憶はありません。
死神は何処かの戦場で死んで気が付いたら人手不足の死神たちを補う補助要員と抜擢され、いつのまにか本業になっていたのです。
人間を見つめ、たまに話すことで自分が失った人間性を思い出したいのかもしれないと死神は考えました
ですが、いくら話しても理解ができない部分がいっぱいあります。
だけども理解をすることを諦めたくありませんでした。
理解できない部分があるけどそれも人間の魅力なのではないかと死神は考えます。
魂でいっぱいになった、収容ケースをしまい、同業の死神とともに先ほど爆撃があった場所に向けてとぼとぼと死神は歩き始めます。
周囲には戦闘機が落ちた残骸が散らばり、パイロットの骸が転がっていました。
さらに歩いていくと炎上した戦車や装甲車が何台も連なり、その周囲で同業の死神が魂をせっせと回収していました。
銃撃する音が聞こえました。
兵士たちが互いに銃を撃ち合って、手りゅう弾を投げ合っています。
その中の兵士の一人には背後にぴったりと死神が付いていました。
この兵士はもうすぐ死ぬのでしょう。
爆発音が響き渡ります。
ある兵士が地雷を踏みました。
足が吹き飛ばされていますが、死神の姿は周囲にはありません。
ということは、死にはしない怪我ということです。
これからの何十年という人生を消えない傷と付き合っていかないといけないわけです。
死神は、いや、死神たちは同じ方向に向けて歩き始めました。
先ほどの爆弾が落ちたところです。
これだけの死神が向かうということは結構な数の魂があるのでしょう。
死神は明日も、明後日も、これから先もこうして様々な思いを無にする死という現場で魂を回収していくわけです。
死んでいく者たちはいつかは忘れさられていきますが、魂を回収した死神だけはいつまでも、いつまでもずーっと忘れはしませんでした。
【終わり】
死神と兵士 美由紀 @miyumiyuki45
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