高貴
ヨートロー
第1話
「僕はね、あらゆる魔術を扱うことが出来るんだ。条件付きではあるんだけど」
周囲から槍や剣などの武器の切っ先を向けられ罵詈雑言を浴びせられても、その青年は焦りを見せなかった。
おかしい。
いつもなら、この時点で大抵の人間は命乞いをして自ら身包みを剥いで差し出してくる。
いくら戦闘の心得がある奴だって、この数相手ではまともな応戦ができないことは即座に理解できるはずだ。
「これの便利なところは、詠唱や構築などの複雑な工程を踏まなくても即座に魔術を発動できるというところだ」
囲んでいる全員が、戦闘経験を積んできている。
中には魔術を扱える者もいて、その準備もできている。
「そのかわり、発動した魔術の難易度によって持続時間が変化し、難易度が高すぎると自壊して不発になってしまう。必要なのは、細かく条件を指定すること」
だが、誰も青年に襲い掛からない。
奴の醸し出す不気味さに、近づくことを恐れてしまっている。
「よりピンポイントに効果を発揮するように指定することで必要とする魔力を最小限に抑えることができ発動の難易度を下げることにもつながる」
だが、俺には確信があった。
これ以上待っていたらマズイ。
板切れを片手に持ち、意味の分からないことを延々と話し続けているが、奴自身が行動を起こしたら全員が殺られる。
奴に時間を与えてはだめだ。今すぐ殺さないと、死ぬ。
「ただ、大規模な魔術を発動したい時は複数──」
「うぉおおおおおおおおおっ」
恐怖をかき消すように叫び、踏み込みと同時に奴の胴体めがけて槍を突き出した。
完全に不意をつけたはずだ。槍が心臓を貫き奴の自信満々な笑みも消えるだろう。
「──使用することである程度は可能になるんだけど、今回は要らないかな。──
槍は受け流され、つんのめった俺が最後に見たのは、迫りくる地面だった。
高貴 ヨートロー @naoki0119
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます