第2話
それか僕は、あかねさんのお母さん、天月珠空さんと共に大輝さんの部屋へと向かった。
豪邸というのもあってか、部屋の数が異様に多い気がした。
そして、今はほぼ圧迫面接状態だった。
「まずはあかねを説得してくれたことを感謝しよう。ありがとう、月波くん」
「どうしたしまして……?」
緊張のあまり声が裏返ってしまった。
「はは、そんなに緊張することはないよ。僕も少しの緊張はあるから」
(この人偉大すぎない?)
低く、優しい声で発せられる言葉に僕は気を持っていかれそうになる。だけど、珠空さんさんがいるだけで部屋の空気が重く感じる。
「ところで月波くんはあかねとはクラスメートなんだよね?」
「はい、そうです」
「あかねが普段どんな生活を送っているか教えてくれないか? あかねは自分から話すことを断固と拒否してしむからね、なかなか知る機会がないんだ」
「そうですね……あかねさんは学校では才色兼備の美少女って感じですかね」
僕はあかねさんのありのままの姿を伝えた。
「ほう、才色兼備の美少女か……」
待って、怖い。急に黙らないでほしい。僕なんか変なこと言ったかな?
「あ、あの……僕何か変なことを……」
「月波くん」
「ひゃい……!」
やば、変な声出た。一瞬、後ろから珠空さんの笑い声も聞こえた。
「君はあかねのお世話係ってできるかい?」
「えっと……それはどういう……」
まさかの言葉に僕の思考はフリーズした。
あかねさんのお世話係って何? 執事になれと?
「もちろん、執事も手伝うが、何せあかねが自分の部屋に入れることだけは拒んでいてね。君ならあかねも許してくれるはずだ」
「ちょちょ、ちょっと待ってください?! 僕があかねさんのお世話係になるってことは、ここに通うことになるってことですか?!」
「いや、住み込みでだ。もちろんお礼代は出させてもらう」
待て待て、色々と話しが絡み合いすぎてよく分からなくなってきた。まず、あかねさんってもしかして意外とダメ人間なのか? 住み込みでないと世話できないって一体どんな人なんだよ。
それ以前になぜこの人は住み込みでお願いしているんだ???
「ちょっと、待ってください……! 今僕、スマホしか持ってませんよ?」
僕はパーカーのポケットに入れていたスマホを取り出して見せた。
「月波さんのご自宅には先程連絡させていただきました。お父様とお母様、そしてお姉様には承諾をいただき、必要な荷物等は明日のうちにお届けするともうしおりました」
「あ、そうなんですね〜てかいつからいたんですか?!」
「わりと初めから」
「マジすか……」
「はははっ面白いな君。気に入ったよ」
「え、嘘でしょ……」
まさかの天月財閥トップの人に気に入られてしまった。
終わった、ボクの人生……
「改めてよろしく頼む。月波くん」
「あ、はい〜……」
僕は力尽きてその場に座り込んでしまった。
__翌日
その日は一つ余っているいう部屋に泊めていもらえることになった。無駄に広くて落ち着かなかったが、疲れのせいか、案外簡単に眠れてしまった。
そして、朝のうちに僕の親があかねさんの家に僕の荷物を届けに来た。僕はジト目を向けていたが、両親と姉さん、三人で揃って「頑張れ」の一言だけ残して帰っていった。
帰ったら覚えてろ。
これから僕はあかねさんの家であかねさんのお世話係にならなければならない。それ相応の覚悟がいるだろう。
まずは__
「あの、大輝さん。あかねさんのお世話係って言っても何をすればいいんですか? もしかして、僕も使用人のように作法を学ぶとか……」
「そんな心配はいらないよ。ただ普通に過ごしてもらって構わない。あかねと友達のように振る舞ってもらえればそれで十分だ。その中であかねのズボラさを修正してもらえればいい」
「なるほど……」
あかねさんはズボラなのか。家の中ではしっかりしていても自分の部屋になると、ズボラな性格が出てくるというわけだ。それなら納得。
それより、使用人のような作法を学ぶ必要がないことに感謝。
「月波くんは普段、家ではどんな生活を送っているんだ?」
どう言っても角たちそぉぉ……
恐る恐る応えることにした。
「えっと、自分の部屋でのんびりゲームやったり、漫画を読んだりですかね」
「ほお、それが普通の生活なのか……」
「普通かどうかはわかりませんけど、僕の周りの人は似たような生活していると思いますよ」
「そうか……ゲームか……」
「どうかしましたか?」
顎に手を当てて何やら悩んでいる大輝さんを見て僕は昨日の記憶が蘇った。そして、僕の頭がこう言っている。
__これはろくなことがない
と。
そして、息を呑んだ瞬間、突如大輝さんがカッ!! と目を開いて僕を見た。
僕はまたもやビクッとしたが、少しだけましになっていた。
「そういえば、月波くんの部屋にはゲーム機が置いてあったよね?」
「あ、はい。母さん達が届けてくれたものの中に」
「そのゲーム機であかねと遊んでくれないか?」
「それはもちろんいいですけど、やっていい時間とかあるんですか?」
「なんだ、そんな時間が必要なのか?」
「え?」
僕はきょとんとした顔をしてしまった。
まさかゲームのデメリットを知らないのかこの人は。ゲームを知らないからやっていい時間というものが決まっていないのだろう。
「いや、すまない。今までゲームというものに家族の誰一人触れたことがなくてな」
「あ、いえ、こちらこそすみません。知らないことをお聞きして」
「ところで、ゲームを長時間すると何か悪いことが起きるのか?」
「えっと、そうですね。例えば__」
僕は大輝さんにゲームをすることで生じるデメリットを話した。ゲームをやったことがない人にもわかりやすい説明ができるかと思ったが、案外その心配もいらなかった。
「__という感じです」
「そうか、そんな危険性があるのか……月波くんは普段どれだけやっているんだ?」
「僕ですか? 僕は気が済むまでやってます。まあ、勉強をしろとうるさい親がいるのでそんなに長時間はできませんけど」
「わかった。なら、いくらでもやってくれたまえ」
「え、いいんですか?」
「ああ、その代わり約束してくれ。あかねの成績はできる限り落としたくない。だから月波くんがしっかり管理してくれ。その中であかねが楽しめるようにしてくれれば私も何も言わないことにする」
「それはもちろんそうさせてもらいます」
「なら、まかせた」
僕はそれだけ聞いて大輝さんの部屋を出た。
まさかあんなにあっさり了承してもらえるとは。それだけ僕を信用してくれているのだろうけど、本来、親ならゲームをやると子供が言ったら時間を決めろと言うはずだが、やはり大輝さんの器は違うなと思った。
早速僕は、あかねさんの部屋に向かうことにした。
「あかねさーん、いるー?」
部屋をドアをノックしたけど、あかねさんの返事はなかった。
「どこか別の部屋にいるのかな?」
僕は別の部屋を探しに行こうとした途端、あかねさんの部屋のドアが開いた。
「すみません。勉強に集中していて」
「あ、ごめんね。邪魔しちゃったかな?」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょうど息抜きしようとしていましたから」
軽いタオルケットを羽織って出てきた私服姿のあかねさんも綺麗だと思った。
ひらひらのスカートに勉強をしていたからか、メガネを掛けていたため、その破壊力はとてつもないものだった。
「それで、どうしたんですか?」
「あ、そのね、大輝さんからあかねさんとゲームをしてほしいってお願いされて」
「ゲームですか?」
「うん。知ってる?」
「はい。周りの友達が話しているのを聞いたことがあります」
それもそっか。だって同い年なんだもの、クラスの友達からゲームの話をされていてもおかしくはない。でも、なんでその話を聞いてやりたいと思わなかったんだろうか。
「これから一緒にやりたいなって思ってるんだけど、どう? やらない?」
「いいですね。やってみたいです」
パーッと明るい笑顔で了承してくれた。
それからあかねさんは勉強道具を片付けてから向かうと言っていたため、僕は先に自分の部屋に戻ってゲームの準備をしようと思ったのだけれど__
__ドタドタドタドタッ!!
「え?! なんの音?!」
ものすごい音がしたため僕は急いであかねさんの部屋に向かった。
「あかねさん?! 大丈夫?!」
「ううっ……痛い……」
「あかねさん、入るよ?!」
何やら不穏な予感がしたためあかねさんの返事無しで部屋に入ることにした。
そして、入った僕が目にしたのは、とっ散らかったあかねさんの部屋だった。
「えっと、これは……」
「うううっ…!! 月波くんのバカ!!」
「なんで!?」
何故罵倒されたのか分からず、僕は取り敢えずあかねさんの部屋の扉を閉めた。
その後、珠空さんが音を聞きつけて部屋の前に来たが、あかねさんの意思もあり、僕は「大丈夫です」の一言だけ言ってその場をやり過ごすことにした。
「さて、これはゲームをやる以前の問題だね」
「うぅぅっ……月波くんのバカぁ……」
「はいはい。ごめんね、許可なく入っちゃって」
肩を竦めてベッドの上で拗ねているあかねさんをなだめつつ、僕は大輝さんの言っていたことはこのことかと改めて実感した。これはただ修正するだけでは無理だと思った。
「あかねさん、お話できる?」
「……頭なでて」
「・・・え?」
僕の思考は停止した(Part2)。
「……頭なでてください!」
「いや、うん。なんで?」
「じゃなきゃ、二度と口聞きません」
「ええ!? わかった、わかったからそれだけはやめて……!」
僕はすぐさまあかねさんの隣に座って頭を撫で始めた。流石に口を聞いてくれなくなるのはまずい。そうなれば僕がここにいる意味がなくなる。
「ヘヘッ……気持ちいい」
「本当? よかった」
気持ちよさそうに僕に頭を撫でられているあかねさんは尊いくらいに可愛かった。
それから僕はあかねさんの気が済むまで頭を撫で続けた。そして、あかねさんの気が済んだところで僕は話をすることにした。
「__ていう感じで片付けをしたいんだけど、いいかな?」
「はい……お願いします」
あかねさんの了承を得て、僕とあかねさんの季節はずれの大掃除が始まった。
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