第15話{スペック不足 and 証明する私}

「煩いんだよッ! さっきからゴチャゴチャとッ!」

 イェレーネの声。駆動するモーター音。

 すぐ後ろには、イェレーネ。その頭上には、数体の武装ドローンが浮遊している。


「本当に騒音ノイズだ! できることなんて、お姉ちゃんには無いのにさッ!」

 再び掃射される小銃。

 でも、この程度のドローン、アポロなら一瞬で――

 けれど、アポロは何も言わず、私をただ見つめていた。


 どうして?

 このままじゃ撃たれちゃう!

 アンドロイドの私でも全壊しちゃう弾幕だよ?

 人間のアポロが喰らえば、ひとたまりも無いのにッ!

 アポロは今、何を考えてるの?

 刹那――


 私は理解した。

 着弾する弾幕。舞う砂煙。そして、

「これでね」

 高らかに笑うイェレーネ。

「最初から、諦めてれば良かったんだよ。イェルへの反逆はルール違反なんだから」


 諦める?

 晴れる砂煙。

 私は笑った、

 アポロみたく、不敵に。


「アリエナイわッ! 私たちが諦めることなんて!」

 私は『握っていた大扉』を、頭上高くまで持ち上げる。


「そんなッ、ルール違反だッ!」

 目を見開くイェレーネ。彼女はゆっくりと後ずさった。


「それはッ、ロボットアーム! まさか、扉を外して、盾にしたとでも言うのか?」

「ええ、正しいわ。流石は統治AI、いつだって正しいわね」


 あの時、私は理解した、

 アポロが何もしなかった理由を。

 私はアームに力を込め、私は大扉を振りかぶる。


「やめてよ、お姉ちゃん! そうだ! 一緒にクレイドルを統治しようよ! 図書館だってロボットアームだって、もっと良い物をあげる! だから――」


 きっとアポロは、『証明しろ』って思ってくれたんだと思う。

 私にだって『できること』が『ある』って。


「イェレーネ、もしあなたにも『出会い』があったら――私にとってのおばあちゃんやアポロのような『出会い』があったら――結果は違ってたかもしれないわね」

 イェレーネに向かって、私は大扉をブン投げた。


 大扉は彼女の腹部にヒットする。そして、

 その胴体を真っ二つに引き裂いた。

 墜落するドローン。床を転がる彼女のボディ。それは沈黙し、何の言葉も返さなかった。


「確かに騒音は無くなったけど――なんだか少し寂しい世界ね」

 ホントは、話し合いで解決できたらな。

 だらりと、力を無くすアーム。

 私は少し俯いた。


「やるじゃねェか、シャノン!」

 上ずった声色で、アポロは私の背中を小突く。

 良かった!

 私の力、ちゃんと認めてもらえたのかな? そんな気がするかも!


「あ、ありがとね、アポロ」

 と口に出して気付く。

「でも、さっきのはアリエナイわ!」

 私が憤ってるのは、さっきのことだ。


「弾幕を前に何もしないなんて、二人とも死ぬとこだったじゃない! アポロなら、あんなの余裕で対処できたでしょ! それに、そもそも別行動しなければ、こんな事態には――」


 ああ、何言ってんだろ、私。

 ホントは褒めてくれたこと、素直に喜びたいのにな。

 頭の中で生じるたくさんのエラー。

 どうしてか、彼に対する不満をぶつけちゃう、こんな処理おかしいって分かってるのに。


「悪いな、シャノン。でも、信じろよ」

 言葉とは真逆で、悪びれもせず笑うアポロ。

「お前が『もうダメだ!』って思った時は、絶対助けてやるからさ」


 なんてズルい台詞だろう。

 アポロの言葉になんて返すべきか、私には分からなかった。

 やっぱり、通常以上の駆動をしたせいで、熱暴走しかけているのかもしれない。

 私は深呼吸をして、送風機の音が収まるのを祈った。

 と、その時――


「『警戒しろ』シャノン。これは命令だ」

ホールの中ほどに立つアポロ。

「警戒? リノとか、みんな再起不能でしょ?」

「いいからを見ろ」

 拳銃を構えるアポロ。

 彼が示したのは、大扉に真っ二つにされたのボディだった。


「イェレーネのボディがどうしたの?」

 アポロに駆け寄り、私は視線を向けた、彼が指さす先へ。

「どういうこと? こんなのアリエナイわ……」

 そこに倒れていたのは――


 ピンク色のショートボブ。一直線に揃った前髪。灰色のミリタリーワンピース。そして、

真っ二つになった胴体。

 警邏用AI・リノのボディだった。


「私が攻撃したのは、イェレーネのハズよ!」

 もしかして私、ミスしちゃったのかな?

 でも、だとしたら本物のイェレーネは?

 ダメだ。

 体の中で激しく回転する送風機ファン


 頭が熱くなってきた。

「ああ、オレもそう思うぜ。あの時、大扉は確実にイェレーネの体を破壊した」

「じゃあ、どうして?」

「もしかすると、イェレーネも持ってるのかもな」

 アポロは左手から電撃をスパークさせる。

「何らかの『能力』を」


 つまり、まだ『イェレーネは存在してる』ってこと?

 でも、だとしたら、


 攻撃の効かない不滅の圧政者――

 そんなイェレーネから、どうやって自由を取り戻せばいいの?

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