第5話身バレ事件

「お嬢さま!」


その言葉にイヤな汗をかく。私の実家を知っている人はいないハズ。でも聞いたことのある声。一回深呼吸をしてから、ゆっくり振り返る。何も知らない顔をして。


「何ですか?それ?」


苦笑いで言いながら相手を見る。


(えっ!?結城先生!!親しみを込めたのかな?)


「結城先生、さようなら。」


ミラは爽やかにその場をさろうした。が、失敗した。


「何シレーっと帰ろうとしてるの?」


結城がニコニコしながら腕を掴んだ。 


「お嬢様だろ?ケイゴの。知ってるよ。


あいつのヒミツも、君のご実家の事情も。」


ミラは身構える。


「ケイゴ、ここの卒業生だろ。あいつが高一のとき、俺が副担だったんだ。俺は新卒だったから年も近くて、良く構ってやったよ。」


結城は懐かしそうに笑う。


(いくら仲が良かったにしても、ウチの家業がばれるヘマをケイゴがするとは思えない。) 


「あんなことが起きるなんてな。」


「何かあったんですか?」


「あれだよ。ストーカー事件。」


(えっ!?何それ!!)


「マジで知らないの⁉︎」


「…知りません。」


「あー。あいつ昔からミラちゃんに対してはカッコつけだったからなぁ。」


結城は妙に納得した顔で話す。


「高一の半ばくらいだったかな。ケイゴは入学当初からモテモテでさぁ、クラスの女子からも大人気で。でもその中にヤバい女がいたんだ。最初は物が無くなったり、壊されたりするだけだった。でもだんだんエスカレートして、ストーキングされるようになって。撒くように注意してたみたいだけど、何回かストーキングされるうちに家がバレて。その家に出入るする人が強面だったから噂が立ったんだ。」


ミラは何かを考えるような表情で聞いている。


「ねぇ、ケイゴが大怪我して帰ってきた日無かった?」


「……いえ、記憶にありません。」


「そう。…ストーカーに切り付けられたんだよ。」


ミラの目が見開かれる。


「本当に知らないのか。まぁミラちゃんは小学生だったから、心配かけたく無かったのかもね。…包丁で刺されたんだ。」


(何かドラマの話みたい。現実味が無い。)


「まぁ犯人は女であいつは男だからな。傷口も浅くて、力の差でねじ伏せて捕まえたんだけどね。」


あんな傷を負って犯人逮捕とか、どんだけだよーそんなことを呟きながら、結城は続ける。


「その事件でケイゴの家のことが調査されて家業が分かったんだ。」


(ミラはマズいというような顔を一瞬する。)


「でも、あいつの人間性と家業は関係無いからな。まぁ、何が言いたいかと言うと、俺は味方だよと。」


ミラは少しびっくりした様子だ。


「君のじゃなく、ケイゴのね。」


(ケイゴの味方かぁ)


ミラは微笑む。


「先生、ケイゴを宜しくお願いします。


ケイゴを分かってくれる人は少ないから、とっても嬉しいです!」


ミラは精一杯頭を下げてお願いした。結城も満足そうに笑っている。


「じゃ、また明日な!」


「はい。さようなら。」

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