第7話 え? もう最終決戦? テンポ早すぎない?
まるむもどうやら私と同じようで、自分の拷問がバッチリ効いていると思っているようだ。
「ほらほら、早く吐き出して楽になりな!」
「ああっ、とってもいいですわぁ~」
「くっ、しぶといわね……」
「ボクに任せて」
苦戦する彼女の前にミルミが現れる。この頼れる助っ人の登場にまるむの表情は緩んだ。きっと自分でも今のままじゃ埒が明かないって言う自覚があったのだろう。
彼女は、自信満々な表情のエージェントの申し出を素直に受け入れた。
「じゃあミルミ、お願いね」
「うん。そこで見てて」
突然触手攻撃が終わった事で恍惚に満ちたフレシアの表情は一変、不満そうな顔になる。まだあの拷問を続けて欲しかったのか、頬を赤らめてハァハァと呼吸を乱しながらまるむの顔をねっとりと見つめた。
「何で止めてしまうんですのォ? もっともっとくださったら間違って秘密を喋ったかもですのにィ~」
「君の相手は今からボクだよ」
「なぁに? ネコチャン?」
「おいで」
ミルミの呼びかけに応じて現れたのは、かわいい白黒ハチワレの子猫。えっ? そんなのどこにいたの? この猫は聖霊なの? それとも普通に動物の猫なの? 私はこの唐突な展開に混乱する。大体、拷問に子猫って意味が分からない。これが正解だって言うの? ミルミさん?
私の心配を他所に、子猫を目にしたフレシアは目がハートに変わる。
「かんわいいい~っ!」
ハチワレ猫は人懐っこく、すぐに少女幹部の膝の上に登って座り込む。それからじいっとその純粋な瞳でフレシアの顔を見つめていた。確かに可愛い。私だったらこんな事されたらすぐに表情が緩むだろうな。そうか、飴と鞭だ。ミルミは可愛さで四天王の心を懐柔しようとしているんだ。これは策士ッ!
この子猫の仕草に対して、四天王の表情は崩れない。いや、無理して冷静を装っているようにも見える。どっちだ?
「こ、これが拷問になるとでも?」
「秘密を教えてくれたら彼と一緒に暮らしていいよ」
「分かったわ!」
こうして、フレシアは知っている事を全て喋ってくれた。チョロい……。話してくれた内容は魔導帝国の規模や、侵入経路、帝王の城の位置、帝王が座る玉座までの城内ルート、警備の手薄な時間帯、各兵士の持ち場や弱点、他の四天王の名前などのスペックに弱点など……。
これは絶対に話してくれないだろうと思えるような機密までも、気前よくペラペラと簡単に教えてくれた。
勿論、それらの情報が嘘の可能性もある。嘘でなくても、嘘を教えられていると言う事もあり得るだろう。手のひら返しがあっけなさ過ぎて、私だって警戒するもの。
けれど、当の本人は自分が話した情報に絶対の自信があるらしい。
「私を誰だと思っているんですの? 四天王の情報工作担当、幻惑のフレシアよ。手に入れられる全ての情報を把握してますわ」
「そ、そう……なんだ。すごいー」
「また感情のこもってない。まぁいいわ。これは取引だもの。情報に嘘はないって神に誓うわよ」
「ありがと。助かる」
私達は、いつの間にかこの敵幹部と気軽に話せるほど仲良くなっていた。情報工作担当と言う事は、私達の方が手玉に取られている可能性も高い。
ただ、嘘をつけば子猫没収と言う条件があるため、溺愛している彼女は嘘はつけないとまるむは断言していた。
「ミカ、あたし達も準備しましょう」
「あ、はい」
手に入れた様々な情報を精査して、私達魔法少女は次の段階に移る。それは当然、魔導帝国への反撃だ。最短距離で城に潜入して帝王を倒す。そんなうまくいくとも思えないけど、まるむには何か秘策があるらしい。
何の切り札もなかった私は、ひたすらに魔法の特訓を続ける。作戦決行のその時までに少しでも力をつけておかないと。ミルミが付き合ってくれたので、コツを掴みながら少しずつ魔法の奥義へと近付いてく。魔力量も鍛えて増やしていかないとね。
色々と準備が整ったところで、私達は魔導帝国に向けて出発する。まずは、敵が出現するゲートを逆に利用して別世界にある魔導帝国への侵入に成功。
そこからは向かってくる様々な敵や他の四天王に対して、手に入れた情報で的確に弱点を突いて撃破。最短距離で戦闘を最小限に抑えながら、呆気なく帝国城に辿り着いた。フレシアの情報は正しかったみたいだ。悪趣味なほど大きい城を目の前にして、私は大きくため息を吐き出す。
「ここまで来ちゃったね」
「うん、あたし達の戦いも今日で終わるよ」
「勝てると思う?」
「大丈夫、あたしを信じなさい!」
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