第6話 え? 拷問とかそんな事もするの? マジで?
こうして敵幹部を行動不能にする事に成功したところで、まるむは魔法で出したロープで彼女を手慣れた手付きでテキパキと拘束する。身動きを取れなくしたところで、これまた魔法で生成した何もない部屋にポイッと放り込んだ。
私はこの一連の完璧すぎる無駄のない動きに戦慄を覚える。一体彼女はこのテクニックをどこで覚えたと言うのだろう。もしかして元傭兵だったとか? 戦場で自分も同じようにやられたりして体で覚えたとか?
しなくてもいい妄想が次々に頭の中で展開されていく。これ、後で真相を聞かないとずっとモヤモヤが頭の中に残り続けるやーつ!
私の苦悩をよそに、やりきったまるむは爽やかな笑顔を見せて次の行動に移る。その余裕は経験者のそれなんよ。私とは住む世界が違うんよ。まるむさん、あなたは一体何者?
そんな質問が首まで昇ってきたけど、何とかぐっと堪える。聞いてしまったら後戻り出来ないと直感が訴えたからだ。単に怖かった言うのもある。やっぱ聞くのは止めとこう、うん。
「じゃあ、色々アルマの事を聞こうか」
まるむはニヤリと笑うと、フレシアに電撃魔法をかけて無理やり起こす。この辺りの流れも驚くほどにスムーズだ。私は感情を殺して、これからどう言う展開になるのかだけをただただ黙って観察する。
気が付くと拘束されて椅子に座らされてると言う状況に、フレシアは混乱した。
「これは一体どう言う状況ですの?」
「あんたはあたし達に負けたんだよ。さあ、知ってる事を洗いざらい話して」
「何を言ってるんですの? この私がアルマの秘密を喋るとでも?」
「まぁそう言う態度を取るよね」
この期に及んでも強気な態度を取るフレシアを見て、まるむは軽くため息を吐き出す。相手はしっかり訓練された四天王。並の拷問では口を割らなさそうだ。一体まるむはどうするんだろう。私はゴクリとつばを飲み込む。て言うか魔法少女って拷問もやらないといけないのかな。私、そう言うのはしたくないよ。
でも、この状況で彼女は生き生きとした表情を浮かべている。あの目の輝きは魔法少女だからじゃなくて、好きでやってるっぽい。まるむパイセン、怖っ!
腕を組んでしばらく沈黙していた緑の魔法少女は、とっておきの方法を閃いたのか、カッと目を見開いた。そうして、その口角がすうっと上がる。
「じゃあ、吐かぬなら、吐かせてあげるホトトギス」
彼女はステッキをフレシアにかざした。今から本格的な拷問が始まるのだろう。その雰囲気を察した帝国の少女幹部は身構える。
「たとえ洗脳魔法をかけられたって、私は屈しませんわっ!」
「それはどうかしらね……クラケフト!」
それは、床から生えた植物が無数の触手になって対象物を刺激すると言う植物魔法。簡単に言えばくすぐり魔法だ。くすぐられるのって、やり続けられると辛いんだよね。拷問の光景を見ていた私は、それをやられてしんどい思いをした幼い頃の記憶を呼び起こされる。確かにこれなら流石の四天王も秘密を喋ってくれそうだ。流石は先輩、拷問の流儀を心得ているッ! て、私、そんな流儀知らないんだけど。
魔法によって体中のありとあらゆる部分を絶妙に刺激されたフレシアは、苦悶とも恍惚とも取れる表情を浮かべる。
「こっ、この程度っ。大した事……ありまっ……ひゃん!」
「さぁて、いつまで耐えられるかしらねえ」
顔を赤らめて必死に堪えている四天王を、まるむは見下すみたいな表情で見つめている。知ってる、これって確か愉悦ってやつだ。先輩って実は危ない性格なのかも。敵には回せないね。怖っ。
私は、この光景を恐ろしいものを見る目でじっと眺めていた。思うところがない訳ではなかったけれど、帝国の秘密を知るためには仕方がないと心を無にする。
「アレじゃ口を割らないだろうな」
「ミルミさん?」
同じ光景を目にしていた猫聖霊はこの作戦の失敗を予見する。フレシアがあんなに身をよじって悶えているのに? あれは私だったら耐えられない。苦痛から開放されようと、今すぐにでも秘密を吐きそうに見える。
まるむの拷問の効果を実感していた私は、ミルミの出した結論に納得が行かない。
「それは、どうして?」
「見てごらん。あの幹部は快楽に酔っている。Mにとってはご褒美なんだよ」
「?」
私はこの解説に首を傾げる。何を言っているのか分からない。ただ、その理由によってくすぐりの効果がない事が説明出来ているのだろうな言う事はかろうじて理解出来た。
だって、あの状態で音を上げる気配がないのだから。
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