第5話 え? 四天王? でも最弱なやつでしょ?
ある日、私は彼女にサポートエージェントについて聞いてみた。
「まるむにはミルミがいるんだから、私にも担当エージェントがいればいいのに」
「そう言うの分かんないから、ミルミに直接聞いてみれば?」
そう言って、まるむはミルミを呼び出した。話を聞いた猫聖霊はその純粋な瞳で私をじいっと見つめてくる。うっ、可愛い。抱きしめてもいいかなあ。
私が両手を伸ばすと、そのタイミングで彼の口が開く。
「ボクが担当を兼任してるんだけど、専用の担当が欲しいの?」
「えっと……出来れば……的な? だってミルミはまるむの家に飼われてるでしょ?」
「飼われてるって言うか……まぁいいか。じゃあ上に聞いてみるよ。空きがあったら呼べるかも知れない」
「本当? やった!」
私は要望が通った事が嬉しくて小さくジャンプする。ただ、ここまで来たらもうちょっとリクエストが通らないかなと思い、ダメ元で提案する。
「私、出来ればスコティッシュフォールドがいいかな? マンチカンも捨てがたいんだけど」
「スコ……何それ?」
「何って猫の種類だよ。やっぱそう言うのは選べない?」
この要望はちょっとワガママだっただろうか。ミルミは大きくため息を吐き出すと、顔を背けて何か独り言を喋り始めた。多分本国と連絡を取っているのだろう。無茶な要望でもちゃんと話を聞いて動いてくれるなんて、ミルミはいい聖霊だ。後でおやつをあげなくちゃ。
私はうまく行けば理想の猫と暮らせると感じ、期待で胸を膨らませる。
しばらく待っていると、彼は改めて私の方に顔を向ける。
「今空きがあるのはカラスだね」
「えーっ! カラスとかやだ!」
「じゃあ蛇? いいヤツがいるんだよ」
「どっちもやだ! そう言うのしかいないならもういい、今のままで!」
こうして、私の専用マスコットの話は水に流れた。後でまるむに聞くと、エージェントは常に魔法少女を監視しているらしい。色々助けてもらう事もあるけど、どう言う情報が報告されているか分からないのでプライベートはないのだとか。
部屋から追い出しても、気が付くと室内にいる事もあるらしい。そんな状況になったら、私だったら正気を保てないかも。
「でも可愛いから許せちゃうんだよ~」
「そ、そすか……」
その状況を許容しているまるむにちょっと引く。とにかく、監視されると言うのは精神的に無理なので、私はエージェントをお迎えする事をあきらめた。今のままでいいや。
タダでペットが、しかも喋るペットが飼えると思ったけど、そんな美味しい話じゃなかったね。世の中うまく出来てるね。
やがて、魔導帝国アルマはゴーレム以外の敵も寄越してきた。きっとゴーレム任せにしていては侵略が一向に進まない事が分かったのだろう。その敵って言うのが、魔導帝国アルマの四天王の1人、幻惑のフレシア。何故名前が分かったのかと言えば、彼女が自らそう宣言したからだ。
フレシアは私達と同じくらいの年齢のように見える少女で、悪役らしいセクシィな黒い衣装を身に着けている。ただ、体型にメリハリがないのでちょっと服に引っ張られているところはあるかな。もっと可愛いコーデをすればいいのに。
「こんな雑魚しかいない世界、秒で征服してさしあげますわ!」
どうやら彼女は悪役令嬢っぽいタイプの性格のようだ。オーッホッホッホッホって笑っている。対峙していた私達は、この新たな敵の登場に困惑した。
「なんかヤバイの出てきましたね、先輩」
「実力が分からない。最初から大技で行くよ!」
私達はすぐに連携をして攻撃を開始。まずは私がフレシアの足元に火炎範囲魔法をぶつけて足止め。その成功を確認したまるむがスピードダウン魔法を唱え、敵の思考スピードを極限まで落とした。
フレシアは私達の連携攻撃に全く対応出来ず、頭を抱えてしゃがみ込む。
「えっちょっ? 何これ、いやーっ!」
この様子を目にしたまるむは、速攻でステッキを弱りきった四天王に向ける。流石先輩、隙を見つけてすぐ追撃に移るとは判断が早い。私なんて瞬きしかしてないよ。
彼女のステッキから放たれた魔法光の色は緑じゃなかった。得意なのは植物魔法だけど、他の魔法も使えるみたい。その光の色はライトブルー。風魔法の色。呪文も当然風魔法だ。
「ギガスフィア!」
「ギャアアアア!」
まるむのステッキから放たれたのは、見えない風の無数の刃。この魔法の直撃を受けたフレシアは、強烈な絶叫を残してあっさりと倒れた。多分彼女は四天王で一番弱いヤツだったのだろう。最初に現れる四天王は最弱、基本中の基本だよね。
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